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バッテリー電気自動車(BEV)とノルウェーの話
ノルウェーにおけるバッテリー電気自動車(BEV)の販売が自動車販売全体の88.9%を占めたという内容を説明しました。この背景には、北欧特有のインフラやノルウェーのエネルギー事情が背景にあり、他の国が簡単に真似できるものではないことを解説しました。
ノルウェーの動画に対するフィードバック
モハPチャンネルでは多くの方に視聴され、非常に多くのコメントをいただきました。実際に北欧で生活した経験のある方からのコメントも寄せられ、「なるほど」と思うような新しい視点を教えていただくこともありました。
このチャンネルは幅広い経済テーマを扱っているため、視聴者も世界中に広がっています。特に私の専門外の分野では、視聴者が的確なコメントをしてくださり、大変ありがたく思っています。これが、このチャンネルの大きな強みであると考えています。
昨日のノルウェーの電気自動車の動画のコメント欄が、すごく勉強になる。詳しい方が、沢山補足してくれている。これがモハPチャンネルの強みかもしれない。
— 【世界経済情報】モハPチャンネル (@MohaP_WorldNews) January 10, 2025
この記事は、前回のノルウェーのBEVに関していただいた質問やコメントを受けて作成した第2弾となります。
EVとBEVの言葉の違いについて
私は意識して言葉の使い方を変更しています。それは、「バッテリー電気自動車」を意味する「BEV」という言葉を使用したことです。日本では、バッテリーのみで走行する電気自動車を「EV」と呼ぶことが一般的ですが、英語圏では「EV」というとハイブリッド車なども含む電動車全般を指します。そして、日本で「EV」とされるバッテリー電気自動車は、英語圏では「Battery Electric Vehicle(BEV)」と呼ばれています。
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この違いは、スタンダードが異なるわけではありません。実際、日本の業界関係者や専門家は英語圏と同じ定義で用いていますが、日本の一般の人々だけが「EV」と呼んでいる状況です。この原因は、マスコミが言葉の使い方を誤ったことに端を発するのではないかと考えています。
極寒地域でのBEVの課題
多く寄せられたコメントの中に、「極寒地域ではバッテリーの性能が低下し、走行距離が短くなる問題があるのではないか」という質問がありました。この点についてはその通りで、寒冷地特有の課題が存在します。それでもノルウェーでBEVの購入が進んでいる理由として、国の政策や車体価格の差、そして長距離移動が少ない国土事情が挙げられます。
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ノルウェーは細長い地形で内陸部に高い山々があり、多くの都市が海に面しています。自動車で移動する際にフェリーを利用することも多く、車で長距離移動する機会自体が少ないと言われています。
税制優遇が普及を後押し
また、BEVの本体価格が他の車両よりも安くなる背景には、ノルウェー独自の税制が大きく影響しています。ノルウェーでは車は贅沢品と位置づけられ、高い税金が課されてきました。付加価値税や車両重量税、さらにはCO2排出量に応じた税金など、多くの税金が加算されることで、EU域内よりも5割ほど高くなると言われていました。
他国との税制優遇方法の比較
一方で、BEVを購入した場合はこれらの税金がほとんど免除されるため、他の車両よりも割安になります。多くの国ではBEV購入時に補助金が支給されるケースが一般的ですが、ノルウェーの場合は税金を減免する形でBEVの購入を促進しています。この政策は国の税収減を伴いますが、それでもBEVの普及に力を入れていることが特徴的です。
環境への影響と石油依存脱却に向けて
また、コメントの中で特に多かったのが、「ノルウェーは石油や天然ガスを輸出しているため、国内でBEVを普及させても環境への貢献にはなっていないのでは」という指摘でした。確かにその通りですが、ノルウェーは環境だけでなく、石油依存を脱却するための国づくりを進めている一面もあります。
ノルウェー王国(Kingdom of Norway)
経済政策
社会福祉制度を維持しつつ、石油依存からクリーン・エネルギーを始めとする新たな有望産業への転換を目指すことを経済政策の柱としており、2021年の政権交代の前後においてもこの基本方針に変更は見られない。
ノルウェーで石油が発見されたのは1960年代後半のことで、それ以前は漁業が主な産業でした。石油によって急激に豊かになったノルウェーですが、「石油はいつか枯渇する」という認識のもと、石油収益を将来のために運用する「ソブリンウェルスファンド」を設立しました。これにより、石油収益を使い切ることなく慎重に管理してきたのです。
ノルウェー王国(Kingdom of Norway)
政府年金基金 グローバル
ノルウェー政府は、石油・ガス事業からの収入を、「政府年金基金-グローバル」として将来の国民の年金資金等にするために積み立てる政策を採っており、全て外国に投資している。ノルウェー政府には財政赤字は存在せず、基金の残高も国家予算の約5倍の額に及んでいる。
また、電力の約9割を水力発電で賄うノルウェーは、この電力を活用して自動車を走らせることで、石油枯渇後のエネルギー問題を回避しようとしています。BEVの普及も、石油依存からの脱却を視野に入れた取り組みの一環と理解されています。
ライフサイクルアセスメントへの注目
ノルウェーのBEV普及に関連して注目されるのが「ライフサイクルアセスメント」の考え方です。これは、車両が走行中に排出するCO2だけでなく、製造から廃棄、リサイクルまでの全過程を含めて環境への影響を評価するものです。
ノルウェーでは、BEVの大量廃棄がまだ本格化しておらず、今後この問題に直面する可能性が高いとされています。ノルウェーでの経験が、BEVに関する世界的な議論に影響を与える可能性もあるでしょう。
終わりに
私はBEVの推進派でもなければ、ノルウェーを過度に称賛する意図もありません。人口500万人ほどのエネルギーに恵まれたノルウェーを他国が真似するのは難しいでしょう。しかし、ノルウェーの取り組みに注目することで、世界的な変化や課題を捉えることができると考えています。これからもノルウェーのBEVの動向を注視し、世界経済への影響を見届けていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
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ノルウェー国旗の意味
赤:国民の情熱
青:海と国土
白:雪
赤地に白の十字はかつて宗主国だったデンマークの国旗で、その上に重ねられた青い十字はノルウェーの海を表しています。
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