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日本の10年国債利回りの上昇余地の解説


 日本の債券市場で10年国債の利回りが2011年以来、約14年ぶりに1.2%まで上昇しました。長期金利の上昇が続くと国内景気への影響や為替相場にも影響してくるということで、注目されているという方も多いと思います。

 「どこまで上がるんですか」といったご質問をたくさんいただいていますが、どこまで上がるのかピタリと当てることは難しいです。今のところトランプ政権の政策がまだ不透明な部分も多いので、何とも予想が難しいところではあります。しかし、今後の動向を考える上でのポイントについて解説しします。

上昇余地

 現在、日本の政策金利(短期金利)は0.25%です。早ければ1月の日銀の会合で、遅くとも3月か4月の会合では0.5%まで引き上げられるのではないかという見方が多くなってきています。
 この短期金利が上がるという期待によって、短期金利の長期間の合計である長期金利も上昇しているというわけです。

政策金利が市場の想定通りに推移する場合、1年債で2年間運用する場合と2年債で運用する場合のリターンが同じになる必要があります。これが「長期金利は短期金利の長期間の合計」という意味です。

債券投資の質問と回答、金利の関係

 今、金利が10数年ぶりの水準に上がってきていますが、以前の水準と比較するとどうでしょうか。前回の金利上昇局面のピークは2006年から2007年にかけて、10年国債の利回りが何度か2%程度まで上昇した時期がありました。この時の短期金利は0.5%でした。この時期、日銀が0.5%から0.75%への利上げを行うのではないかという見方が強まったタイミングで、10年国債の利回りが2%程度まで上昇したのです。

 つまり、現在短期金利が0.25%で4月頃までに0.5%まで利上げが見込まれている状況で、さらにもう1回の利上げ可能性を織り込むようになると、短期金利の状況は2006年から2007年頃と同じような状況になるということです。当時の10年国債の利回りが2%であったことを考えると、現在の1.2%という水準にはまだ上昇余地が大きいように見えます。

イールドカーブが示す傾向

 イールドカーブというのは、横軸に残存期間、縦軸に利回りを取り、残存期間が異なる複数の債券の残存期間と利回りの関係を表にした曲線のことです。2007年、10年国債の利回りが2%に迫った時、20年債の利回りは大体2.3%、つまり10年債よりも0.3%程度高い水準でした。30年債については大体2.5%、10年よりも0.5%程度高い水準となっていました。

 現在の状況は、2025年1月14日時点で10年債は1.25%程度、20年債は2%程度、つまり10年より0.75%ほど高い水準、30年債はさらに高い水準になっています。このことから、2007年と比較して現在のイールドカーブの傾きが急になっていることが分かります。これは10年債に比べて20年債や30年債が安くなっているということを意味しています。

投資家需要の変化と長期債の利回り上昇

保険会社の投資行動の変化

 日本の長期国債市場における主要な投資家は、国内の年金基金と生命保険会社です。年金基金は基本的に投資行動を大きく変えませんが、生命保険会社は運用環境に応じて投資行動を変える傾向があります。
 一部の生命保険会社がALM(負債に合わせた資産運用)に失敗し、資産運用で大きな損失を出しました。特にソニー生命が影響を受けたことで、この運用手法に対する見直しが進み、長期国債の需要が減少しています。

ソニー生命は何が悪かったのでしょうか。ALMをしっかりやっていたのではないかと思われるかもしれませんが、おそらく金利上昇時に既存の保険の解約が発生する確率を見誤ったのだと思います。

ソニー生命の損失の発生原因とALMの解説

長期債の需要減少が引き起こす影響

 生命保険会社の需要減少により、長期債の利回りが高くなり、それがさらに10年国債の利回りにも上昇圧力を与えています。金利の世界では、期間ごとの利回りが連動するため、20年や30年国債の利回り上昇が10年国債に波及する構造となっています。

アメリカ次第の今後の展開

 日銀が利上げを行うかどうかは、アメリカの金利動向と金融政策次第です。現在、アメリカの景気が予想以上に堅調で、利下げの見通しが後退しています。この影響を受けて、日銀も利上げに前向きな姿勢を見せ始めています。
 為替市場では、現在ドル円が158円程度で推移しており、日銀が利上げを見送れば160円超えの可能性もあります。こうした状況下では、為替動向にも注目が必要です。

今後の展望とまとめ

 この記事では日本の長期金利が上がってきている要因や注目ポイントについて解説しました。今後も経済の動向や注目の話題についてお届けしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。


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