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労働党政権の政策とイギリスの富裕層の流出


 労働党政権が誕生したイギリスについて解説します。労働政権の誕生によりイギリスから富裕層が1万人近く海外に流出すると見られています。これは、中国に次いで2番目に多い数です。
 なぜこれほど多くの富裕層がイギリスを離れるのでしょうか。主な理由は、労働党政権下で増税が予想されるからです。

富裕層の流出予想

 労働党政権は、最近動き始めました。移住アドバイザーなどを行うイギリスの企業のレポートによれば、2024年に100万ドル以上の金融資産を保有する富裕層の流出が9,500人ほどと見込まれています。2017年から2023年の7年間で1万6千人が流出したとされているところから、2024年は富裕層の流出が加速するだろうと見込まれています。

富裕層の流出の背景

 これは、世界で最も富裕層が流出する国である中国の1万2千人に次ぐ、世界で2番目に大きな規模です。
 
イギリスは医療崩壊やエネルギー問題など、さまざまな問題を抱えていますが、それらに対応する財源が不足しており、増税が行われる可能性が高いとされています。労働党政権ではその可能性がより高まるとだろう考えられていました。

イギリスの銀行の支店閉鎖問題

 簡単に銀行の支店閉鎖の問題について説明します。イギリスの銀行は採算の取れない支店を近年閉店してきており、地方の人たちが銀行のサービスを受けられない、現金が下ろせないといった問題が起こっています。
 
移民が流入して国全体では人口がずっと増えているイギリスでも、地方では過疎化が進んでおり、地方の銀行の支店などは利用する人が減っているところもたくさんあります。また、最近はネット銀行を利用する人も増えており、店舗やATMを設置しても採算にならないというようなところもたくさんあり、支店を閉じるところが増えています。

バンキングハブの設置と銀行の支店閉鎖

 これに対応するため、銀行業界が基金を作り、そのお金でバンキングハブという銀行サービスを提供するオフィスを作り、郵便局がそこで銀行サービスを行うということで対応しようという動きもあります。しかし、銀行の閉店ペースの方が全然早いので、あまり成果につながっていないと言われています。
 2015年以降、大手銀行で閉店した支店の数は6,000店舗にもなりますが、バンキングハブはまだ数十ヵ所しか設置されていません。労働党は政権を取る前から、政権を取ったらバンキングハブを5年以内に350まで増やすとしていましたが、実際に政権を取ってさらに新しい規制を導入しました。

労働党の政策

 その規制というのは、銀行が支店を閉店する場合はバンキングハブを含め、ATMへのアクセスが確保されているかどうか、金融サービスの代替手段が確保できている場合に限るというものです。銀行の支店の閉鎖によって金融サービスを受けられなくなって困る人たちをこれ以上増やさないようにするということです。

銀行への影響

 銀行からするとこれまでのように採算の悪い支店を減らせなくなるということで、コストの削減がスピーディーに進められなくなります。銀行の株主などからすると「おいおい」ということになるかもしれません。しかし、そういう意味でも非常に労働党らしい政策と言えるでしょう。

キャッシュレス社会と現金利用者

 今イギリスではキャッシュレスが非常に進んでおり、現金を使っている人は人口の1割程度だと言われています。ただし、その人口の1割の現金利用者が地方に住んでいる高齢者だったり、貧困層だったりします。
 ロンドンなどでは、路上でお金をくださいと物乞いをしている人たちがたくさんいますが、物乞いをする時に電子決済でというわけにはいきません。そのため、貧困層は現金の使用率が高いと言われています。そうした貧困層や地方の高齢者など、社会的な弱者と言われる人たちを重視するのが労働党らしい政策と言えるかもしれません。

 日本のように物乞いをするのが恥ずかしいという認識はないので、物乞いをしている人たちがたくさんいます。電車に乗っていると、食べ物を恵んでくれと言ってくる人もいます。

ロンドンの現状と日本との比較

テムズウォーターの民営化の失敗

 もう1つイギリスで興味深いニュースがありました。それは、7月24日に大手格付け会社のムーディーズがロンドンの水道事業を行うテムズウォーターの格付けをB-からBBに格下げしました。BB以下はジャンク級とも言われ、これは大きな変更となります。

テムズウォーターの経営問題

 テムズウォーターはサッチャー政権の時に民営化してできた会社で、民営化の失敗例とよく言われる会社です。ロンドンの水道インフラは1800年代に作られたものが多く、非常に古く、水道管の破裂などは至るところで起こっています。

競争を無闇に促しすぎた結果、国民が必要なサービスを受けられないという問題が多く発生しました。このテムズウォーターも、サッチャー政権による民営化の失敗例としてよく語られます。

テムズウォーター経営難とロンドン水道問題

 しかし、上下水道のインフラを新しくするのに莫大な費用がかかります。また、水道料金を高くすることで回収するのも政治的に難しいとされています。莫大な費用をかけてインフラを更新しても全然儲からないため、民営化したテムズウォーターの株主たちはそれをやろうとしてこなかったのです。それよりも儲かる可能性がある海外のインフラ事業などをやってきて、ロンドンの水道インフラはぼろぼろのままという状況になっています。
 その海外の事業もそこまで儲かっていない、負債ばかりが増え、水道料金もじわじわ上がっている。全てが負の連鎖に陥っているというような経営になっています。

労働党政権とテムズウォーター

  労働党政権に変わって、これからどうなっていくのかに注目が集まっています。労働党の中には国有化をすべきと言っている人たちもいるのですが、スターマー首相は、首相になる前の段階では国有化には否定的な考えを示していましたが、世論の同行などによっては変わってくるかもしれません。

イギリス社会の現状と富裕層の移住

 様々な面でぼろぼろなイギリス社会ですが、最終的にお金をどうするかとなった時に、労働党は増税してくるかもしれないと考えられています。イギリスを離れてしまおうという考えの富裕層が増えているというわけです。
 私の知り合いでも、イギリスからドバイに移住した人がいます。コンサルタントや投資家など、どこにいてもできるような仕事で稼いでいる人たちは、税金の安い地域に行くのが得だということで、そうした人も増えています。こうした状況が労働党政権化で数年続くと、イギリス経済のさらなる衰退が進むことになるかもしれません。

私の考え

 労働党の大きな政府を目指す政策は経済にブレーキをかける可能性があると思っています。引き続き、イギリス経済の動向を注意深く見ていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

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