HSBCの事業再編計画の背景とその内容
2024年10月22日、イギリスの大手銀行であるHSBC(香港上海銀行)が事業再編計画を発表しました。この記事では、このHSBCの最近の動きとその背景について詳しく解説します。
HSBCホールディングスは、香港がイギリスの統治下にあった時代に「香港上海銀行」として設立され、1991年にロンドンで持株会社として再編されました。傘下の香港上海銀行は、スタンダードチャータード銀行とともに現在でも香港ドルの発券銀行であり、香港が最大の収益部門となっています。
本社はロンドンのカナリーワーフに置かれ、一応イギリスの銀行とされていますが、中国の平安保険が大株主であるほか、近年はアジア回帰を進めており、より「香港の銀行」という位置付けが強まっています。
香港の金融センターとしての地位とHSBC
香港は金融センターとしての地位が急激に下がってきていると言われていますが、その地位を向上させるために「香港金融サミット」が開催されています。今年で3回目となるこのサミットは、11月18日から20日に予定されており、HSBCとスタンダードチャータード銀行が常連メンバーとして参加しています。このことからも、HSBCが香港や中国と密接な関係にあることが伺えます。
この背景には、HSBCの筆頭株主が中国の平安保険であることが大きく影響しています。
HSBCと平安保険の関係の歴史
元々、香港上海銀行はアヘン戦争後の1865年に香港で設立され、アヘン商人がアヘンの販売利益をイギリスに送金する業務を担当するなど、イギリス企業の香港での事業を支えてきました。戦後、世界展開を加速し、中東などでも積極的に投資を行って事業を拡大してきましたが、リーマンショック以降は再びアジア回帰を進め、現在でも香港が最大の収益部門となっています。
特に2010年代に入り、欧米で低金利政策が行われる中、香港を中心としたアジア太平洋地域に注力し、収益性の改善を図りました。これは大株主となった平安保険からのプレッシャーも関係しているものと見られています。
平安保険による香港事業分社化の要求
HSBCと平安保険の関係が始まったのは2000年代前半のことです。中国本土の金融市場が急激に発展してきた時代、HSBCは中国国内でのビジネス拡大を狙って平安保険の株式を取得しました。中国では当時「HSBCが中国本土の金融市場を乗っ取ろうとしているのではないか」との声が上がっていました。
リーマンショック後、HSBCは平安保険の株式を売却し、逆に平安保険の方がHSBCの株を大量に購入して筆頭株主となり、立場の逆転が起こりました。現在、平安保険はHSBCの香港事業を分社化することを望んでいると言われており、今度は「平安保険がHSBCの香港事業を乗っ取ろうとしているのではないか」との見方も出てきました。
HSBCの事業再編と経営陣の動き
平安保険からの要請を受け、HSBCは不採算部門の整理や事業の再編を進めてきました。元々米中対立が始まる前から「お荷物」とされていたアメリカのリテール事業から2021年に撤退を決定し、他にもフランスのリテール事業や南アフリカ、アルゼンチンの事業からも撤退しています。
発表された新たな事業再編計画の内容
2024年10月22日に発表された事業再編計画の主な内容は以下の通りです。
1.事業部門の再編
事業部門を「香港」「英国」「商業銀行及び機関投資銀行業務」「プライベートバンク」の4つに分割しました。期待されていた分社化は行われませんでしたが、香港とイギリスを明確に切り離しました。
2.部門間の顧客奪い合いの解消
これまで別部門であった商業銀行と機関投資家向け銀行業務を統合し、部門間での顧客の奪い合いを解消しました。
3.ウェルスマネジメントへの注力
富裕層向け金融サービスであるプライベートバンク(ウェルスマネジメント)を新たに独立した部門とし、注力する方針を示しました。
4.東西の地域分割
香港とイギリス以外の地域を、アジア太平洋・中東を「東側」、ヨーロッパ・北米を「西側」と位置づけ、東西で分けることとしました。
これにより、香港を中心とするアジア太平洋地域とイギリスを中心とする西側に分け、ウェルスマネジメントにも注力する現代の潮流に沿った体制へと改めました。
新たなCFOの就任とアジア太平洋地域への注力
事業再編の発表と同時に、新しいCFOとしてパム・カウル氏の就任が発表されました。カウル氏はHSBCで初の女性CFOとなります。インド出身で現在60歳の彼女は、公認会計士として働いた後、複数の銀行で監査、リスク管理、コンプライアンス部門などの上級職を務めてきた人物です。
このタイミングでインド人をCFOに抜擢したことは、香港だけでなくアジア太平洋地域全体でのプレゼンス拡大を狙ってのことかもしれません。
HSBCの今後の課題と展望
HSBCは、中国の大株主の要請に一部応えつつも、完全に中国企業に乗っ取られるような展開は避けながら、アジア太平洋地域を中心に事業の再編を進めています。しかし、中国・香港でのビジネスに注力してきたHSBCにとって、中国市場では中国四大銀行などの存在感が高まっており、競争が激化しています。以前ほどの安定した収益を上げることが難しくなってきているとの指摘があります。
人民元決済システムCIPSへの参加
最近の動きとして、HSBCの香港支部が人民元のクロスボーダー決済システム「CIPS(クロスボーダー・インターバンク・ペイメント・システム)」に直接参加者として加盟したと発表しました。HSBCの中国国内事業は既に同システムに加盟していましたが、今回香港も加わりました。
CIPSは、中国がアメリカのSWIFTに対抗して2015年に中国人民銀行が設立した決済システムです。人民元のクロスボーダー決済システムが主流になることは現時点では想定されていませんが、こうした動きからもHSBCの立ち位置が明確に示されています。
総括
HSBCは香港・中国市場でのビジネスに重点を置き、事業再編を進めていますが、競争の激化や経済環境の変化により、今後も厳しい状況が続くと予想されます。大株主である平安保険との関係や、新しい経営体制のもとで、どのように戦略を展開していくのか注目されます。
引き続き、金融業界の動向に注目しつつ、適切な情報をお届けしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考
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