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機関投資家の「騙し」について


 機関投資家の「騙し」について、これまで避けてきましたが、最近も多くのリクエストが寄せられているため、このタイミングで解説することにしました。この記事では、機関投資家の「騙し」について詳しく説明します。

機関投資家の「騙し」とは

 まず、機関投資家の「騙し」とは何かについて簡単に説明します。
 マーケットを見ている個人投資家の中で、特にデイトレードのような短期取引を行っている人々がよく使う言葉です。
 チャート分析にはさまざまな方法がありますが、予測ができないような突拍子もない市場の動きが起こることがあります。こうした動きをチャート分析をしている人たちが「騙し」と呼んでいます。
チャート分析を行っている人たちは、この「騙し」が起こる要因を機関投資家が市場を乱している、操っていると説明することがあります。これが機関投資家の「騙し」です。 

機関投資家の「騙し」の解説を避けてきた理由

 機関投資家の「騙し」の解説をこれまで避けてきた理由は、私の認識が世の中で一般的に言われていることとかなり異なっているためです。これを言うと批判が多く寄せられるかもしれないと考えていました。
 個人投資家の中には、機関投資家を得体の知れない存在と見なし、個人投資家をカモにしようとしている怖い存在だと考える人も多いです。彼らは絶対に裏で何かをやっているに違いないという見方もあります。

チャートの「騙し」についての誤解

 チャートの「騙し」について、機関投資家がやっているのだという説明が多く出回っており、それを信じている人も多いです。
 しかし、私の見解はそうしたイメージとは全く異なります。私の認識では、機関投資家の「騙し」は、機関投資家をよく分かっていない人たちが、よく分からない動きが起こった時に機関投資家がやっているのではないかと説明し、それが都市伝説のように広がったものだと思っています。

実際の機関投資家の世界

 実際、機関投資家の世界で「騙し」の話は誰もしていません。本当にどこかの機関投資家が相場を操作しようと変な動きをしているとしたら、他の機関投資家はそれを探ろうとするでしょうし、業界でも話題になるはずです。
 しかし、実際にはそのような話はまずありません。これは個人投資家の幻想でしかないと私は思っています。

機関投資家の取引

 機関投資家の取引は、株の取引の場合、基本的に証券会社を通して取引所で執行されるものが多いです。金融監督当局である証券取引等監視委員会が、証券会社の取引において怪しい取引がないか監視しています。
 特に価格を高く釣り上げようとしたり、相場操縦のような行為を防ぐために市場の健全性を保つようにしています。

GPIFのような透明性の高い機関投資家は、数理的なアプローチで次に何が起こるとしても期待リターンを高められる方法を目指すしかありません。

分散投資の意義と個人投資家へのアドバイス

証券会社のコンプライアンス

 証券会社で営業をしていると、個人投資家でも大口のお客さんがまとまった金額の株式の注文を出してくることがあります。これが市場の一定割合以上の同じ口座から発注されているだけで、社内のコンプライアンス部門から調査が入ります。
 証券取引等監視委員会に説明するために、常に社内で怪しいことがないかチェックしています。そのため、作為的に相場を動かそうとすることは普通に考えてできません。

最近の機関投資家の状況

 最近の機関投資家の場合、発注業務を他に丸投げしているところも多く、機関投資家自身がそのようなことを行うことは難しいです。
 また、高頻度取引(ハイフリークエンシートレード)についても相場操縦のようなことをしていないか常に監視されています。ハイフリークエンシートレードの取引データは証券取引等監視委員会が収集し、時々レポートも公開しています。

証券会社による相場操縦事件

 一方で、以前には証券会社による相場操縦事件もありました。これは2018年のことで、三菱UFJ証券の債券ディーラーが債券先物という上場している金融商品において「見せ玉」行為を行っていたという事件です。
 「見せ玉」とは、売買する意図がないのにたくさんの注文を市場に入れて、あたかも買いたい人がたくさんいるかのように見せかけたり、その逆で売りたい人がたくさんいるように見せかけたりする相場操縦行為のことです。

見せ玉(金融商品取引法第159条第2項第1号)
約定させる意思のない注文を発注することで第三者の注文を誘発して相場を動かし、自分に有利な値段で売買を行う行為

日本取引所グループHP

株の世界と債券の世界の違い

 この事件を見て、証券会社はやっているではないかと思った人もいるかもしれません。しかし、株の世界では相場操縦はありえません。そのようなことをしてもすぐに捕まってしまうのが常識です。
 
債券の世界では、現物の債券は「相対取引」と言って証券取引所で取引が行われるのではなく、証券会社がそれぞれの社内で取引を行っています。売りたい人と買いたい人がそれぞれ1対1で取引を行っています。この相対取引においては、お客さんによって取引の値段を変えても問題ないため、現物債券には相場操縦という概念が存在しません。
 しかし、債券先物は上場している金融商品なので相対取引ではありません。そのため、債券先物では相場操縦のようなことは許されません。

金融監督当局の対応

 株式市場では相場操縦はできません。三菱UFJ証券の話がありましたが、債券先物でもそれを許さないと金融監督当局が言っています。そのような状況で相場操縦をしている機関投資家がいるとは考えにくいです。

機関投資家の「騙し」の実態

 機関投資家の「騙し」とは、チャート分析をしている人たちがよく分からない動きを機関投資家のせいだとし、都合のいい言い訳に使っているに過ぎないというのが私の見解です。


ご参考

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