見出し画像

VW工場閉鎖とドイツの自動車業界の厳しい現状


 ドイツの自動車業界がどのように変化していくのかが注目されていますが、フォルクスワーゲンは2024年10月28日にドイツ国内にある10の工場のうち3つを閉鎖することを検討していると、労働組合の幹部が明らかにしました。数万人が失職する可能性があるとされています。

フォルクスワーゲンの工場閉鎖と独経済への影響

ドイツ自動車産業の失職予測

 ドイツ自動車業界の業界団体が10月29日に発表したレポートによれば、2035年までにこの業界で14万人が失職する可能性があるとのことです。

 このレポートは、プログノス(Prognos)という調査会社がドイツ自動車工業界から依頼を受けて発表したものです。プログノス(Prognos)は1959年に設立されたヨーロッパの老舗リサーチ会社の一つで、ドイツの公的機関などの調査を行っています。

 2019年から2023年にかけてドイツの自動車業界では4万6,000人の雇用が失われました。このペースで減少が続くと、2035年までにさらに14万人の雇用が失われ、合計で19万人近くが失職することになるとされています。
 ドイツの自動車産業の直接雇用者の人数は2022年時点で78万人ほどです。そのため、18%程度の雇用が失われるということになります。

雇用減少の原因

 この雇用の減少は主に自動車の電動化によるもので、自動車の部品が減少し、生産に必要な人員が少なくなることが原因です。特に機械工学や金属加工などの分野では雇用の減少が加速しています。
 一方で、電気工学やソフトウェア開発、コンピューターサイエンスなどの分野では雇用が増加している状況です。

雇用減少の影響と生産性向上

 14万人もの雇用が失われるというのは非常に大きな数字です。自動車産業はドイツを代表する産業であり、その影響はドイツ経済全体に及ぶ可能性が高いです。
 EVの普及や電動化が進む中で、部品の数が減少し、雇用が減るというのは2010年代から指摘されていました。しかし、これは新しい技術の導入による変化でもあり、必ずしも悪い話ではありません。少ない従業員で車を製造できるようになっている点は、生産性の向上と見ることもできます。

労働者の苦境とストライキの可能性

 もちろん、自動車業界で雇用が減少すれば、多くの労働者が仕事を失うことになります。AIや他の分野で新たに仕事が増え、労働者がスムーズに移行できれば、大きな問題にはならないという話もありますが、実際にはそう簡単ではないでしょう。
 ドイツの自動車業界は現在、非常に厳しい状況に置かれています。この厳しい状況は、政治の失敗による部分が大きいと言えます。

 インテルも業績が低迷しているため、コスト削減の一環で建設の延期を決めたということです。
 自動車業界だけでなく、製造業全般においてドイツで生産するコストが高くなっている状況です。

エネルギー問題と移民政策に見るドイツの変化

政治の失敗

 具体的には、エネルギー価格の高騰やウクライナ戦争の影響が挙げられます。EU内でエネルギー価格が最も深刻だったのはドイツであり、天然ガス不足や計画停電といった困難もありました。これらの事態は回避されましたが、依然としてコストが高くなりやすい状況は続いています。
 ドイツは再生可能エネルギーを推進しているものの、風力発電のタービンの設置や維持にかかるコストが依然として高いことが要因です。また、ウクライナ戦争以降、天然ガスの価格も上昇しています。このエネルギー政策の問題がドイツの製造業に大きなダメージを与えています。

EVシフトと中国製EVとの競争

 さらに、無理なEVへのシフトも一因です。
 欧州ではエンジン車を段階的に減らし、EVの割合を年々高めることが自動車メーカーに義務づけられています。その結果、ドイツのメーカーはコスト高に苦しむ中、中国製のEVとの競争に直面しています。コストが高くなりやすいドイツ製のEVは、中国製に対して価格面で勝てず、結果として市場での競争力が低下しています。
 この状況を改善するために、EUは中国製EVに最大45%の関税をかけることを決定しましたが、中国側が不満を持っているため、今後の影響が懸念されています。

 ドイツの自動車メーカーは中国なしでは成り立たない。しかしEUに属しているため中国に関税をかけることを止めることもできない。そうした状況で中国メーカーの自動車に国内の需要を奪われている、全ての歯車が空回りしているような状況です。

ドイツの自動車業界を取り巻く中国とEUの話

フォルクスワーゲンの対応と労働者の反発

 このような厳しい状況の中、フォルクスワーゲンは10月28日にドイツ国内の工場を閉鎖することや賃金の引き下げを検討していると労働組合の幹部が明らかにしました。フォルクスワーゲンは1937年の創業以来、国内工場を閉鎖したことは一度もなく、これまで強制的な人員削減を回避し、雇用の安定を守ってきました。しかし、現在は生き残りをかけてそのような方針を維持する余裕がなくなっています。
 こうした状況に対して、フォルクスワーゲンの労働者はストライキを実施する構えを見せています。

今後の予想

 過去の合意により、12月までストライキを実施できない状況のため、12月に入ってからの実施が予想されています。労働者にとっては生活がかかっているため、会社側に雇用の維持を強く求めるしかありません。
 しかし、ストライキが状況を大きく好転させることは難しいと考えられています。

政治の機能不全と今後の課題

 現在の政権は支持率が低迷しており、社会民主党、自由民主党、緑の党による連立政権は機能不全に陥っているとの見方もあります。来年にはドイツで総選挙が行われる予定ですが、政権交代を望む声が高まっています。

EUの影響

 しかし、EUの政策は国の政治が変わっても変えられないため、特にEVの販売義務などの問題はEUが主導してきたものであり、こちらも状況を変えるのは極めて難しいと言えます。このように、ドイツの自動車業界はドイツ国内の政治とEUの機能不全の中で厳しい状況が続く可能性が高いです。
 今後もこの問題について注目したいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考(ドイツの自動車業界記事のまとめ)

■ フォルクスワーゲンの工場閉鎖と独経済への影響(2024/9/3)
■ フォルクスワーゲンの財務分析
■ ドイツの自動車業界を取り巻く中国とEUの話(2024/10/10)

サイトマップ(目的別)はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?