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原油価格の推移の振り返りと今後の見通し


 原油価格は地政学的リスクや需給バランスの変化により、大きく変動しています。特に、2022年以降はウクライナ戦争や中東情勢の悪化、さらにはOPECプラスの政策変更などが価格の動きを左右してきました。
 また、アメリカのエネルギー政策も影響を与え、特にトランプ政権の原油増産方針が今後の価格動向に大きな影響を及ぼすと予想されています。この記事では、2022年以降の原油価格の推移を振り返りながら、需給の変化やアメリカの政策などを考慮した今後の見通しについて詳しく解説します。

OPEC
イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、アラブ首長国連邦、ガボン、赤道ギニア、コンゴ(加盟12か国)
OPECプラス
(OPEC加盟国に加えて)アゼルバイジャン、バーレーン、ブラジル、ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、オマーン、ロシア、スーダン、南スーダン(11か国)

石油連盟

2022年の原油価格:ウクライナ戦争と供給ショック

 2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。これにより、世界のエネルギー市場は大きな供給ショックを受け、原油価格は急上昇しました。特に、ロシアが主要な産油国であることから、制裁による供給減少が懸念され、WTI原油価格は一時120ドル程度まで高騰しました。
 その後も100ドル台での高値推移が続きましたが、2022年後半には次第に下落していきました。

 この背景には、ロシアに対する経済制裁に抜け道があり、インドや中国がロシア産原油の輸入を増やしたことが挙げられます。また、中国のゼロコロナ政策が経済活動を停滞させ、エネルギー需要の回復が遅れたことも影響しました。結果として、2022年末にはWTI原油価格は80ドルを下回る水準まで下落しました。

2023年の原油価格:70ドル割れと中東リスクの影響

 2023年に入ると、世界経済の減速懸念が強まり、原油価格は一時70ドルを割る展開となりました。しかし、10月には中東情勢が悪化、ハマスがイスラエルを攻撃し、その後のイスラエル・ガザ戦争へと発展しました。これにより市場では地政学的リスクが高まり、原油価格も一時上昇しました。
 ただし、イスラエルは主要な産油国ではなく、他の産油国への影響も限定的だったため、価格は100ドルを超えるような急騰には至りませんでした。最終的に、2023年終盤には70ドル前後の水準へと落ち着きました。

2024年の原油価格:イラン・イスラエルの対立と価格の推移

 2024年に入ると、中東情勢がさらに緊迫しました。春にはイランとイスラエルの間でミサイルの応酬が発生し、市場では供給不安が高まりました。これを受けて原油価格は一時的に上昇しましたが、両国が全面戦争に突入することはなく、緊張が一定の水準で抑えられたため、価格は再び下落に転じました。

イランは産油国であるため、イランが関わると原油市場にも影響が出てきます。

イランとイスラエルの戦闘状況と今後の見通し

 2024年後半にかけては、WTI原油価格は再び70ドル前後での推移が続く展開となりました。

2025年の原油価格:ロシア制裁強化による影響

 2025年に入ると、アメリカがロシアに対する制裁を強化し、エネルギー市場にも影響を与えました。これにより、原油価格は再び上昇し、1バレル80ドルを超える水準に達しました。しかし、その後は75ドル前後での推移となっており、急激な上昇は見られていません。

原油の需要と供給、今後の見通し

原油需要の動向:回復の鈍化

 原油需要は、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで大きく落ち込みました。前年比で日量910万バレルの減少という歴史的な縮小となり、その後は徐々に回復してきました。
 2021年には580万バレル、2022年には250万バレル、2023年には230万バレルの増加となり、需要は回復傾向にありました。しかし、2024年には120万バレル増加と回復ペースが鈍化しており、これは中国経済の低迷などが影響していると考えられています。

 2025年については、IEA(国際エネルギー機関)の予測では12万バレルの増加にとどまるとされており、OPECはやや高めの増加を見込んでいますが、いずれにせよ需要の回復ペースは引き続き緩やかになる見通しです。

原油供給の動向:増加傾向が続く

 供給面では、2020年には大規模な減産が行われたものの、その後は増加傾向にあります。
 2021年には183万バレル、2022年には451万バレル、2023年には185万バレルの増加が見られました。2024年には53万バレルの増加となりました。

 2025年についてはEIA(アメリカのエネルギー情報局)が176万バレルの増加を予測しています。特に、OPECプラスは2025年に自主減産を緩和する可能性が高く、供給は増加傾向が続くと予想されています。

今後の原油価格の見通し

 現在の需給バランスを考慮すると、原油価格は下落しやすい状況が続く可能性があります。しかし、WTI価格が50ドル~60ドルまで下落すると、アメリカのエネルギー企業や中東の産油国にとって採算が合わなくなるため、大幅な値崩れは起こりにくいと考えられます。
 アメリカのトランプ政権は、原油増産を推進する方針を示しており、これが市場にどのような影響を与えるかが今後の注目点です。エネルギー企業としては、価格が80ドルを維持できる水準での増産を目指す可能性が高く、価格の急落を防ぐための調整が行われるでしょう。

トランプ氏は選挙期間中、「原油を掘って掘って掘りまくれ」と繰り返し述べてきました。実際にこれが実現するかは不透明ですが、仮に実現した場合、原油価格の大幅な下落が予想されます。

トランプ政権下における中東産油国経済の展望

 また、OPECプラスもシェアを維持するために減産緩和へと動く可能性があり、価格を大きく下げる方向には進みにくいと考えられます。

 結果として、原油価格は現在の70ドル~80ドルの範囲内で推移し続ける可能性が高いでしょう。今後も、地政学リスクや各国のエネルギー政策に注目しながら、市場の動きを慎重に見守る必要があります。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

結論から言いますと、石油の決済が米ドルで行われていることが米ドルの価値を押し上げているという考え方について、私はその影響は少ないと考えています。

石油取引の資金の流れと米ドルの重要性

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