人民元安の進行と複雑な為替状況の整理
人民元安が進んでおり、2025年1月3日には2023年以来、約1年2か月ぶりに1ドル=7.3元台まで下落したということで注目されています。ただし、今の動きは単純に人民元安が進んでいるということだけではありません。そういった意味でもこの問題はまだまだ続いていくと思っています。
この記事では最近の人民元安について説明します。
人民元の推移:18年ぶりの安値水準
まず、人民元の推移についてですが、足元では1ドル=7.3元台に突入しています。2023年11月以来ということになり、約1年2か月ぶりということです。一見するとそんなに珍しいことでもないように聞こえるかもしれませんが、この水準はここ18年間くらいの安値水準になっています。
2022年や2023年において、この7.3元台半ばの安値を記録していました。そして、7.3元台後半に突入すると、2007年以来、約18年ぶりの安値水準ということになります。つまり、今の状況は、それなりに節目に近づいているという状況です。
人民元安の要因:中国経済と政策の影響
では、なぜ人民元が下落しているのでしょうか。大きな理由の一つは中国経済の低迷です。景気を下支えするために中国の中央銀行である人民銀行が金融緩和を継続しています。この政策の影響で、人民元が下落基調にあるという面が大きいでしょう。
また、それだけではなく、トランプ政権の政策に対する警戒感も影響していることは間違いありません。具体的には、11月に行われたアメリカの大統領選挙の前には、1ドル=7.1元台で推移していたのですが、トランプ氏が選挙に勝利して以降、人民元安が一気に加速しました。
これは、トランプ政権が対中関税などで中国経済にさらなるダメージを与えるのではないかという警戒感が、人民元安につながっていると考えられます。
複雑な為替状況
ただし、今起こっているのは単に人民元が安くなっているということだけではありません。ドルが強くなっているという側面も非常に大きいです。トランプ氏が選挙に勝利して以降、ドルの上昇が続いています。
例えば、ドルインデックスにおいても、ここ数年での高値圏で推移しています。その結果、何が起こっているかと言うと、人民元は対ドルでは安値をうかがう展開になっているわけですが、人民元はそれ以外の通貨に対してはむしろ上昇しているのです。
通貨バスケットで見る人民元の強さ
こちらのグラフは通貨バスケット、つまり人民元が貿易相手国の通貨全体に対してどのように推移しているかを示したものです。
これを見ると、2022年以降、約2年ぶりの高値になっていることが分かります。中国人民元は米ドルに対しての変動が当局によってコントロールされている「管理相場制」が採用されており、日本円やユーロなどが採用している市場原理に任せる「変動相場制」とは異なる為替制度になっています。
そのため、ドル高が進行していく中でも人民元の下落幅は相対的に緩やかになります。こうした緩やかな下落の中でも歴史的な安値水準に近づいているわけですが、直近の下落幅だけで言うと、変動相場制を採用している他の国の通貨の方が安くなっているというわけです。
人民元の位置付け
人民元以外の通貨が下落しているという背景には、引き続き緩和的な金融政策を続けている日本、景気の低迷が深刻なユーロ圏、政治的な混乱が続く韓国など、その他の国々の事情も関係しています。
しかし、管理相場制を採用している人民元の対ドルでの下落幅は相対的に小さなものとなっており、その結果として、ドル以外の通貨も含めた通貨バスケットに対して見ると、人民元はむしろ高くなっているという複雑な状況になっています。
人民元安の経済的影響
つまり、今起こっている状況は「人民元安」というよりはむしろ「ドル高」の影響が大きいと言えるでしょう。こうした状況において、中国経済にとってはいくつかの影響が考えられます。
一つは、対ドルで安くなっているにもかかわらず、中国の輸出にはあまり追い風にならないということです。対ドルで人民元安は進んでいますが、日本円、ユーロ、韓国ウォンなどはもっと下がっています。そのため、安値が輸出に全くメリットがないわけではないと思いますが、アメリカから見ると日本や韓国の製品の方が為替的にはもっと安くなっているのです。
訪日中国人増加の背景
日本円の方がもっと下がっているため、中国人からすると日本円はすごく安く見えるのでしょう。今年2月の春節シーズンに日本で過ごす中国人が前年比で大きく増える見通しとなっています。
中国の大手旅行サイト「Ctrip」が発表したデータによると、1月3日時点で同社のプラットフォームで予約された航空券は前年比2.3倍になっているとのことです。
資本流出リスクと外貨準備の現状
そして、中国が元安で最も恐れていることは「資本の流出」です。要するに、中国国内にお金を置いておくと価値が失われてまずいということで、国民が海外にお金を逃避するということによって国内で資金不足が起こり、金融危機につながる可能性があるという懸念です。
現在は、外貨準備は安定的に推移しており、資本流出が懸念されるような事態にはなっていないと言えます。
今後の見通しとまとめ
今後の見通しとして、特に資本流出の懸念が高まっているわけではないという意味では、もう少し対ドルで元安が進んでもすぐに中国経済が破綻するわけではないでしょう。
対ドルでは歴史的な元安水準になっていますが、さらに元安になる可能性があると私は考えています。この元安については、アメリカのトランプ政権下での影響も含め、まだまだ先があると見ており、これからも動向をお伝えしていきたいと思います。
ご参考
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