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トランプ政権下における中東産油国経済の展望


 トランプ政権下での中東産油国、特にサウジアラビアの経済について説明します。バイデン政権下で冷え切ったアメリカとサウジアラビアの関係が、トランプ政権の誕生によって改善すると言われる一方で、トランプ氏が原油生産に前向きな姿勢を示していることから、原油価格が下がれば中東産油国にとって経済的な打撃になる可能性があります。

サウジアラビアとトランプ政権

 サウジアラビアにとって、バイデン政権よりもトランプ政権のほうが相性が良いといえます。なぜなら、サウジアラビアを含む中東の産油国は、王様が国を仕切るトップダウン型の社会です。同じくトップダウン型で物事を進めるトランプ氏のほうが、相性が良いという理由が挙げられます。

トランプ政権と原油価格の影響

 しかし、トランプ政権の政策すべてが中東産油国にとって喜ばしいものというわけではありません。その一つが、トランプ政権が化石燃料の生産に積極的である点です。トランプ氏は選挙期間中、「原油を掘って掘って掘りまくれ」と繰り返し述べてきました。実際にこれが実現するかは不透明ですが、仮に実現した場合、原油価格の大幅な下落が予想されます。

 また、財務長官に指名されたベッセント氏はトランプ氏に「3本の矢」として3つの提案を行ったとされています。そのうちの一つが、原油を日量300万バレル増産するというものです。この日量300万バレルという量は、大体2~3割の増産に相当します。この規模の増産が行われれば、原油の国際価格が下落することはほぼ確実といえます。

トランプ政権の財政圧迫の懸念

 こうした原油価格の下落は、財政的に余裕がないアメリカが減税をしつつ、国家財政の悪化を防ぐために必要だとされています。原油価格を引き下げて経済を押し上げるという戦略です。トランプ氏の公約を実現するためには、これだけの原油増産が求められるということです。これが現実になれば、原油価格の下落によって中東産油国経済には大きなダメージをもたらす可能性があります。

中東産油国の現状

 中東産油国の財政状況についてですが、社会保障費の増加などにより歳出が増え、国家財政が黒字となるために必要な原油価格の水準は、どの国でも上昇傾向が続いています。
 
国際通貨基金(IMF)が試算したサウジアラビアの国家財政が黒字となるために必要な原油価格は、2024年時点で96.2ドルとされています。これに対し、現在の原油価格はWTIで70ドル前後です。この水準でもすでに赤字であり、原油価格がさらに下がれば、中東産油国にとって財政的に非常に厳しい状況になると予想されます。

サウジアラビアという国は、石油自体は勝手に湧いてくるようなところもあり、採掘コストは非常に安価だとされていますが、最近は国の社会保障費などが増えてきて、政府の財政収支が黒字になる原油価格の水準がどんどん上がってきています。

サウジアラムコの決算とサウジアラビア経済

 したがって、トランプ政権が中東産油国にとって必ずしも理想的であるとは言えないでしょう。

脱石油戦略とテクノロジー分野への投資

 サウジアラビアやUAEを中心とした中東産油国にとって、アメリカの政権交代はもう一つ重要なポイントがあります。それがテクノロジー分野への投資です。サウジアラビアやUAEなど中東産油国の多くは、脱石油を目指しており、AIをはじめとするテクノロジー分野を強化しようとしています。そのため、政府系ファンドを活用してアメリカのテクノロジー企業に投資し、技術を取り込むことを目指しています。
 しかし、バイデン政権はこうした中東産油国の政府系ファンドの動向を厳しく監視し、テクノロジー分野へのアクセスを制限してきました。

 一方、トランプ政権になるとこうした制限が緩和され、中東の政府系ファンドはアメリカ企業への投資をより自由に行えるようになると見られています。トランプ政権としても、中東の資金を活用しながらアメリカ経済の成長に寄与させるという狙いがあるでしょう。中東産油国にとっては、投資の自由度が高まることで、AIやテクノロジー分野の発展に拍車がかかる可能性があります。

サウジアラビアのビジョン2030

  特にサウジアラビアにとって、これからの4年間は「ビジョン2030」の実現に向けて非常に重要な期間です。同国ではすでにNEOM計画のトップ交代や事業計画の縮小といった動きが見られており、先行きが不透明な状況です。これまでに発表された計画の多くが実現できないとなれば、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の立場にも影響を与える可能性があります。

出所)「Architects Journal」(2023年3月)

 さらに、サウジアラビアはイーロン・マスク氏との関係修復にも動きを見せています。同氏とサウジの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」は、過去にテスラの非公開化問題をめぐり関係が悪化しましたが、2024年10月にサウジアラビアで行われた投資フォーラムでイーロン・マスク氏がオンライン出席し、スピーチを行いました。このことは、両者の関係改善の兆しと見られています。

サウジアラビアはビジョン2030で石油以外の産業を育て、経済大国を目指していますが、企業が欧米の金融市場で資金調達をしたり、サウジの金融市場の発展も不可欠です。

サウジ政府系ファンド、任天堂株式の一部を売却

サウジアラビアと中国

 また、サウジアラビアとして、中国との関係を完全に切り離すことは難しい現状があります。現在、サウジアラビアの原油の最大購入国は中国であるためです。今後はアメリカと中国の双方に配慮しながら、有利な外交を展開していくことが求められるでしょう。

 このように、2025年以降のサウジアラビアは、「ビジョン2030」を目指しながら、アメリカと中国との関係を戦略的に利用し、国際社会でのプレゼンス拡大を図っていくことが予想されます。


ご参考(サウジアラビア記事のまとめ)

■ サウジアラビアの巨大箱物プロジェクト(2024/4/18)
■ サウジアラムコの決算とサウジアラビア経済(2024/5/9)
■ 5月20日のサウジアラビア皇太子来日の考察(2024/5/11)
■ サウジ政府系ファンド、任天堂株式の一部を売却(2024/10/9)
■ サウジアラビア経済と欧米企業の関係(2024/10/27)

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