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トランプ氏が勝利した場合の金利の動き


 アメリカの10年国債利回りは4.3%程度で推移していましたが、4.5%まで上昇しました。そして、注目すべきイールドカーブですが、期間の長い債券の利回りがより大きく上昇し、イールドカーブの逆イールドが解消される方向に変化しました。米国債の金利が急上昇し、イールドカーブがスティープ化しています。これは何が起きているのでしょうか。

イールドカーブのスティープ化とフラット化

大統領選挙と金利上昇の関連性

 今回の動きは、大統領選挙に向けたトランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会が2024年6月27日に行われ、これが大きく影響したと見られています。
 市場参加者の間では、トランプ氏が大統領になったら国債の利回りは上昇し、期間の長い債券の利回りがより大きく上昇するという見方がすでに広まっていました。
 しかし、大統領選挙が11月に行われるまでにはまだ4ヶ月ほどあります。多くの市場参加者が、ここまで早くトランプが勝つということをマーケットが織り込み始めるとは思っていなかったということです。それほど、6月27日に行われたテレビ討論会の状況がインパクトがあったと言えます。

トランプ氏の政策と金利の関連性

 では、トランプ氏が選挙に勝った場合、なぜ金利が上がるのでしょうか。そして、期間の長い債券の利回りがより大きく上がり、イールドカーブがスティープ化するのはなぜでしょうか。これについて解説していきたいと思います。

トランプ氏の政策と金利上昇の関連性

 まず、トランプ氏の政策で最も大きな影響を与えると見られているのが減税です。前回トランプ氏が大統領になった時は法人税率を35%から21%に引き下げましたが、今回は21%からさらに引き下げるという話が出ています。 また、中間層を中心に所得税も減税する可能性があります。こうした減税策を受けて経済成長率が高まり、株価は上昇します。これだけでも金利上昇になると見られます。

イールドカーブについて

 次に、イールドカーブについて説明します。逆イールドというのは、1年など期間の短い債券の利回りよりも10年など期間の長い債券の方が利回りが低い状態のことです。

 イールドカーブとは、横軸に債権の満期までの期間、縦軸を債券の利回りとしたグラフです。右に行くほど債券の満期までの期間が長くなり、期間が長い債権ほど利回りが高くなる状況では、右肩上がりのイールドカーブになります。これを順イールドと言います。一方、期間が長くなるほど利回りが低くなる時もあり、その場合は右肩下がりのイールドカーブになります。これを逆イールドと言います。

イールドカーブの動きをどう見るべきか

 どうして期間の長い債券の方が利回りが低くなるのでしょうか。これは、将来もっと景気が悪くなって中央銀行による利下げが行われるだろうということを市場が織り込んでいるということです。

順イールドと逆イールド

 2年債を例にして説明します。今、政策金利である短期金利が5%だとして、今後2年間短期金利が5%に据え置かれると見られている場合、2年の国債の利回りも5%になります。なぜかと言いますと、短期金利が5%で2年間変わらないと見られているので、2年間短期国債で運用した場合の利回りは年率5%です。
 もし2年国債の利回りが5%よりも高かったら、2年国債を購入した方が利回りが高いということになりますので、みんな2年国債を買おうとします。一方、2年国債の利回りが5%よりも低かったら、誰も2年物を買わないでしょうし、持っている2年国債を売るでしょう。ということで、2年先まで短期金利が変わらないとすると、2年国債の利回りと短期金利の利回りは同じになるということになります。そのため、長期の債権の利回りというのは、将来の短期金利の見通しの合計であると言えます。

トランプ氏の政策と逆イールドの解消

 トランプ氏が大統領になった場合、減税によって経済成長率が高まり、インフレ率も上昇し、将来の利下げの可能性が後退し、逆イールドが解消されるということです。

トランプ氏の政策と財政悪化

 こうして説明すると、トランプ氏が大統領になったらバラ色のように聞こえるかもしれませんが、もう一つイールドカーブに影響を与えているものがあります。それは財政悪化です。トランプ氏は経済成長率が高まることや中国に関税をかけることで税収自体は増やすとしていますが、市場関係者は厳しめに見ています。財政が悪化する可能性があり、それも金利上昇を招くと見る向きもあります。

財政悪化と金利上昇の関連性

 財政面に関しては、前回トランプ氏が大統領だった時にコロナパンデミックがあり、それが財政悪化を招いた面が大きかったので、今回大統領になった場合にどうなるかはまだ分からない面もあります。しかし、慎重に見るという意味で、財政悪化を心配している市場参加者は多いです。
 国家財政が悪化していく中で、当面の借換えリスクを軽減するために、国はなるべく長い期間の国債を発行しようとします。そのため、財政悪化は期間の長い国債の利回りの上昇要因となります。つまり、逆イールドが解消されてきているのは、財政悪化を織り込んでいる面もあると見られます。

経済への影響

 減税などのプラス効果を打ち消してしまうほど長期国債の利回りが上昇すると、それは経済にとってはむしろマイナスになってしまう可能性もあります。経済にプラスになるだろうと見られるトランプ氏の政策ですが、財政悪化がどこまで進むのか、そして長期金利がどこまで上がり、金利上昇がどこまで経済を冷やすのか、その辺りが注目ポイントになると見られます。

経済への影響の時間軸

 プラスの効果とマイナスの効果が出てくるタイミングにはズレが生じる可能性が高いです。前回トランプ氏が大統領になった時もそうだったように、大統領になった瞬間、減税のプラス効果を見込んで株価は大きく上昇し、国債の利回りも大きく上昇しました。一方で国債利回りの上昇が実態経済を冷やす効果は、実際に影響するまでに時間がかかるので、特に最初の数ヶ月は株価が上昇し、景気の改善が目立つ展開になったと思います。こうした時間軸もよく考慮する必要があります。

市場の反応と私の考え

 2016年の時よりも、アメリカの国家財政ははるかに悪化しています。金利が上昇すれば、徐々に経済への悪影響が広がってくる可能性があるでしょう。
 現在のマーケットの反応はやや過剰かもしれません。テレビ討論会でバイデン氏がかなり不利だということが確認されたわけですが、まだ選挙には4ヶ月ほどあります。民主党の中で別の候補を立てるべきではないかという話もあります。現在の時点で100%トランプ勝利ということを織り込むことはないと思いますし、まだ4ヶ月もあるということで、非常に不安定な動きが続くということを想定した方が良いでしょう。


ご参考


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