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対カナダ関税引き上げとカナダ経済の見通し


 2025年2月1日から、アメリカはカナダの製品に対して25%の関税をかけることになりました。

トランプ米大統領は1日、カナダとメキシコのからの輸入品への25%の関税と中国からの輸入品への10%の関税の賦課について命令に署名した。ホワイトハウス高官が明らかにした。

Bloomberg(2025/2/2)

 この影響について、日本ではあまり詳しく解説されることがありませんが、カナダ経済にとっては非常に重要な問題です。場合によっては、カナダ経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性も指摘されています。
 関税の影響を考える前提として、関税がなかった場合のカナダ経済の見通しを整理し、その上で関税による悪影響について詳しく説明してます。

関税がなかった場合のカナダ経済の見通し

 2025年1月29日、カナダの中央銀行(バンク・オブ・カナダ)は、関税の影響を除いた経済見通しを発表しました。それによると、カナダの実質GDP成長率の予測は以下のようになっています。

  • 2024年:+1.3%

  • 2025年:+1.8%

  • 2026年:+1.8%

 2024年10月時点の予測(2024年+1.2%、2025年+2.1%、2026年+2.3%)と比べるとやや下方修正されています。

出所)Bank of Canada

 この下方修正の要因として、カナダ政府が移民の受け入れを抑制する政策をとっていることが挙げられます。カナダはこれまで積極的に移民を受け入れてきた国であり、先進国の中でも最も速いペースで人口が増加していました。しかし、移民の急増によって医療、学校、住宅などの社会インフラが追いつかなくなったため、カナダ政府は2025年の移民受け入れ数を2024年比で2割削減する方針を示しました。これが経済成長の鈍化要因となっています。

 また、カナダのインフレ率は2022年6月に前年比+8.1%でピークを迎えましたが、その後は他の先進国に比べて比較的早く低下し、2024年12月時点では前年比+1.8%となっています。今後の物価見通しは以下のようになっています。

  • 2025年:+2.3%

  • 2026年:+2.1%

このように、関税がなければカナダ経済は安定した成長を続け、インフレ率も2%前後で推移すると予想されていました。

25%の関税がもたらす影響

 アメリカの関税引き上げは、カナダ経済にどのような影響を与えるのでしょうか。カナダの中央銀行(バンク・オブ・カナダ)は1月29日の会見で「現時点では関税の影響を予測するのは困難」とし、具体的な試算を公表しませんでした。しかし、経済アナリストや投資銀行の試算によると、2025年のGDP成長率を2%~3%押し下げる可能性があるとされています。

 もし関税がなければ2025年の成長率は+1.8%と予測されていましたが、関税の影響で△0.2%~△1.2%になる可能性があるということです。つまり、カナダ経済はリセッション(景気後退)に陥るリスクが高いといえます。

 具体的な影響として、以下の点が挙げられます。

① カナダの輸出減少

 アメリカがカナダ製品に関税をかけることで、カナダからの輸出が減少します。特に影響を受けるのは、原油・エネルギー、自動車・自動車部品、木材製品など、アメリカ市場に依存している産業です。

 カナダ経済は資源に依存しているという部分は特徴的ですが、基本的にはアメリカ経済と非常によく似ています。アメリカとの貿易が多く、あらゆる面でアメリカの影響を大きく受けています。

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② 報復関税による輸入物価の上昇

 カナダ政府は、アメリカの関税措置に対して報復関税を実施する可能性が高いとみられています。これにより、アメリカからの輸入品の価格が上昇し、カナダ国内の物価に影響を与えます。
 特に、カナダはアメリカから多くの食料品や工業製品を輸入しているため、関税の影響でこれらの価格が上昇し、インフレ率が高止まりする可能性があります。

③ スタグフレーションのリスク

 関税による輸出減少と報復関税による輸入価格の上昇が同時に発生すると、経済の停滞と物価上昇が同時に進む「スタグフレーション」のリスクが高まります。カナダ経済は元々、利下げの影響で回復傾向にあると予測されていましたが、関税の影響で成長率が低下し、インフレが高止まりすることで、金融政策の選択肢が限られる可能性があるでしょう。

2026年以降の影響とカナダ政府の対応

 一方、2026年には関税の影響がやや和らぐと予想されており、GDP成長率の押し下げ効果は1%~2%程度と試算されています。しかし、それでも成長率がプラスを維持できるかどうかは不透明です。

 今後のカナダ政府の対応としては、以下の点が注目されます。

  • アメリカとの交渉による関税撤廃または緩和

  • 国内企業への支援策(補助金や税制優遇)

  • 金融政策による経済刺激策(さらなる利下げ)

 現時点では、カナダ政府がトランプ政権とどのような交渉を行うのか不明ですが、関税の影響が長引けば、カナダ経済は厳しい局面に直面することになります。

今後の見通し

 今後のカナダ政府の対応やアメリカとの交渉次第では、状況が変わる可能性もありますが、現時点ではカナダ経済にとって非常に厳しい状況であることは間違いありません。
 ただし、関税を巡る議論は政治的な交渉が絡むため、短期間で状況が大きく変わる可能性もあります。そのため、この記事で説明した内容も今後の政策や交渉の進展によって急に変わる可能性がある点をご理解ください。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

国旗の由来
両側の赤い帯は北アメリカ大陸をはさむ太平洋と大西洋。中央のメイプルリーフ(カエデ)はカナダの象徴で、赤と白は1921年に指定された国の色。葉の先端の尖った部分と葉柄を合わせた12の数は、国を構成する10州と2準州(現3準州)を表している。

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