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南海トラフ地震が金融市場に与える影響の一考察


 この記事では南海トラフ地震が発生した場合の金融市場への影響について解説したいと思います。
 X(旧Twitter)でどのような動画を作成すべきか皆様にお伺いしたところ、たくさんの返信をいただきました。本当にありがとうございました。他にも興味深いリクエストをたくさんいただいています。まとめるのに時間がかかりそうなテーマについては、十分に準備した上で解説したいと思います。

南海トラフ地震の影響予測

 南海トラフ巨大地震が発生した場合、金融市場がどうなるのかについて解説します。なかなかデータでお示しするのが難しい面もあるので、あくまで一つの予想だということで読んでいただければと思います。

内閣府の被害想定レポート

 経済に与える影響については、内閣府が南海トラフ巨大地震の被害想定について過去に「経済的な被害」というレポートを出しています。この試算自体はマクロ的な政策を行う上で非常に重要ですが、どこの地域でどれだけの被害があるか、どの業種でどれほどの被害があるのか金額が出ているだけのため、実際にどのようなことが起こるかイメージがつきづらい面があると思います。私がどう見ているか解説します。

為替相場への影響

 まず、多くの方が気にしているのは、南海トラフ地震が発生した場合に為替相場がどうなるかということだろうと思います。リスクオフの円高なのか、それとも日本売りの円安なのか。私は円安になると見ています。被害状況次第では急激な円安になる可能性もあると考えています。

円安の要因

 円安になると考える最も大きな要因は、日銀の金融政策です。内閣府の試算では最大で213兆円もの被害が出るとしており、国内経済を支えるために日銀は金融緩和を行うことになるでしょう。213兆円もの被害が出る場合、金融機関も破綻の危機に直面するところがたくさん出てきて、金融機関の手元資金が枯渇すると金融危機になってしまう可能性があります。

1923年に関東大震災があり、その前までは非常に好景気でしたが、震災をきっかけに多くの企業が経営危機に陥りました。そうした企業にお金を貸していた銀行も経営危機が心配されるような状況になり、金融危機が心配される状況になっていました。

昭和金融恐慌の振り返り

 2023年の日本のGDPは591兆円です。213兆円というのはGDPの36%にも及ぶ金額です。コロナショックを大きく超える影響と言えます。金融緩和を行わないと経済も持たないのは明らかです。現在の状況から金融緩和を行うとなると、短期金利は0.25%しかありませんから、下げ幅はほとんどありません。そのため、0.25%の利下げを行うとして、おそらく国債の買い入れももう一度増やすことになるでしょう。つまり、量的緩和を再開する可能性があります。

過去の地震と金融政策

 今年1月の能登半島地震の経済損失は、1月の時点で900億円から1,500億円と言われていました。この金額でも日銀は金融緩和の正常化を遅らせたと言われています。200兆円もの被害が出るような大きな地震が発生した場合、おそらくものすごい規模の金融緩和を行うことになると考えた方がいいでしょう。

地震の影響

国債発行と財政ファイナンス

 200兆円もの被害が出て、どのように国を立て直していくかというと、国債の発行しかないわけです。それを賄うために、普通に市場で国債発行をしたら金利は爆上がりすることになるでしょう。それを抑えるためにも量的緩和を行うしかないということになるでしょう。
 これはもう完全に財政ファイナンスです。政府がお金を調達して国債を日銀が引き受ける、これを大量に実施したら通貨安が起こるのは明らかです。

インバウンドとサービス収支

 円安になる要因はそれだけではありません。巨大な地震が発生すると、インバウンドはほぼゼロになります。それによりサービス収支が大きな赤字に転落するのは確実です。

国債市場の影響

 国債市場では、日銀が大規模な国債買い入れを再開すれば金利は低下することが予想されますが、やや不安定になる面もあると見られます。というのは、東日本大震災の時も地震保険の支払いが1兆円以上あったと言われています。
 
南海トラフ地震でどういう被害が生じるかにもよりますが、規模が大きければ保険金の金額が東日本大震災の時の何倍にもなる可能性もあるでしょう。その支払いを行うために現金を用意しないといけないので、保険会社は中期債、長期債をまとまった金額で売却しなければいけなくなるでしょう。日銀が売却された国債を買っていくことになると思いますが、非常にボラティリティの高い状況になるかもしれません。

株式市場への影響

 株式市場については急落は避けられないでしょう。ただし、ショックの後に海外でのビジネスシェアが高い企業、震災の影響が少ない企業、円安の恩恵を受けやすい企業、震災復興で恩恵を受けやすい企業を中心に持ち直すことになると見られます。徐々に金融緩和によって価格は持ち直すかもしれません。

インフレの進行

 こうした金融市場の影響を受けて、おそらくインフレが深刻になるでしょう。まず、大きく進む円安の影響で輸入物価が高騰するのは容易に想像できます。円安によってエネルギーの輸入費用も増加するので、時間差で電気料金なども上がることになるかもしれません。その他、人的被害も大きくなる可能性があって、人手不足が深刻になる可能性があります。
 影響はタイミングによっても違ったものになりそうですが、震災が発生して数ヶ月は物流も滞り、たくさんのモノの値段が上がりやすくなる一方で、復興が進んでくると建設資材などが高騰することになるでしょう。これは東日本大震災の時も見られたことです。

総括

 こうした事態に私たちは何ができるのか、資産を守るという意味で外貨を含めて国際分散投資をしておくことでしょうか。不安を煽る気は全くないのですが、真面目に考えて213兆円もの被害が出たら、悲惨なことになるだろうと考えざるを得ません。
 少し悲観的な話になってしまいましたが、色々不確実な中で213兆円もの被害が出た場合に起こることを私が勝手に予想したものです。他にも色々な予想があることでしょう。これから南海トラフ地震への警戒が強まる中で、そうした議論が徐々に深まっていくかもしれません。

X(旧Twitter)の近況

 今回急遽Xでテーマを募集しましたが、最近は補足データをXにアップしてくれる方や的確なコメントをしてくれる方もおられ、私も大変勉強になっています。
 Xも併せてご覧いただくとより理解が深まると思います。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

金融危機やバブル崩壊は10年とか20年とかの感覚で繰り返されていますが、金融当局もうまく対処できなかったり、機関投資家も回避できなかったりしてきたのがこれまでの歴史としてあります。

金融危機の予見、歴史の教訓と個人の経験

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