メディアが報じないペトロダラー協定
2024年6月9日、アメリカとサウジアラビアの間で結ばれていた「ペトロダラー協定」が50年の歴史に幕を閉じたということが、最近よく言われています。この協定について、メディアではあまり報道されていないように思われます。この「ペトロダラー協定」がそもそも密約であると言われているためです。
ペトロダラー協定の終了について
「ペトロダラー協定」の終了について、ドル崩壊や金融危機が起こると騒いでいる人たちが、日本だけでなく、世界中にもたくさんいます。今回は「ペトロダラー協定」の終了と今後の世界経済への影響について解説したいと思います。
ペトロダラー協定の終了の影響
「ペトロダラー協定」の終了により、ドル崩壊や金融危機など、大変な事態が起こると主張しているインフルエンサーが日本だけでなく、世界中にたくさんいます。一方で、金融市場を見ると、全くの無風です。この「ペトロダラー協定」の話は全く材料視されていないと思います。これはなぜなのでしょうか。
ペトロダラー協定とは
その説明をする前に、ます「ペトロダラー協定」とは何か簡単に説明します。あくまで密約と言われているものですが、この協定は1974年にアメリカとサウジアラビアの間で結ばれたと言われています。
アメリカが軍事的な支援をサウジアラビアに提供する代わりに、サウジアラビアは原油の取引を米ドルだけで行うというものです。結果として、サウジアラビアは原油をたくさん売り、獲得した米ドルで米国債を買うことにより、アメリカの財政赤字を支えることにも貢献してきたと言われています。
ペトロダラー協定の終了の影響についての見解
今この協定が終わるということで、米国債は大丈夫なのか、米ドルは大丈夫なのか、と心配している人がたくさんいます。私はこの問題を取り上げている人たちは大きく3つのタイプに分類できると考えています。
1つ目のタイプ
まず1つ目は、ドル崩壊と言うと注目が集まるから取り上げている人たちです。これは海外のインフルエンサーにもたくさんいます。アメリカのことが嫌いな人も世の中にはたくさんいるので、この手の情報は世界でよく取り上げられる傾向があります。
2つ目のタイプ
2つ目は、金融や経済の知識がない、あるいは1970年代から知識が更新されていない人たちです。「ペトロダラーが米国債を支えている」と主張していますが、今のサウジアラビアはそこまで米国債を保有していません。1970年代のイメージで話しているか、最近のデータを全く見ていないのではないかと思います。
3つ目のタイプ
そして3つ目のタイプは、金融経済の知識があり、この問題がドル崩壊や金融危機にすぐ繋がるわけではなく、長期的にドルが弱くなる話だと理解し、その時間軸を明確にして解説している人たちです。
1つ目のタイプの人たちは、ただ注目を集めたいだけであるため、それはそれでいいです。2つ目のタイプの人たち、つまり「ペトロダラーが米国債を支えている」と主張している人たちの話が古いということを、もう少し深掘りしたいと思います。
ペトロダラー協定と米国債
1974年にこの協定がスタートしたと言われていまが、サウジアラビアの米国債保有は、実際にこの1974年以降に増えています。この時期アメリカの政府は財政赤字が急拡大し、政府債務が急増していましたが、これを支えていたのがサウジアラビアだと言われています。
1974年末時点でサウジアラビアの米国債保有額は13億ドル程度でしたが、1981年末には315億ドルに増加し、1982年には394億ドルにまで拡大しました。
1982年時点で米国債の市中残高は 7,848億ドルでした。全体の5%程度をサウジアラビアが保有していたということになります。
現在の米国債の保有状況
現在、米国債を一番保有している国は日本です。2024年3月末時点で1兆1,187億ドルとなっています。31兆以上の債務残高に対して、日本の保有割合は3.8%程度です。当時のサウジアラビアの米国債保有がいかに多いかが分かると思います。
では、現在のサウジアラビアの米国債の保有状況はどうでしょうか。2024年3月末時点で1,359億ドルで、全体の0.4%程度です。これは日本の1/8程度であり、全く多くないです。日本は2022年に2,000億ドル以上の米国債の保有を減らしています。つまり、1,359億ドルというのは大した金額ではないということです。
ペトロダラー協定と米国債の関係
上記のとおり、「ペトロダラーが米国債を支えている」というのは古い話です。サウジアラビアは近年、石油を売り、獲得した資金を米国債だけで運用するのではなく、政府系ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドなどを通して世界の株や様々なプロジェクトに投資をしています。
そのため、この協定が終了したとしても、金融市場への直接的な影響という意味ではそこまで大きくないのが現状です。これにより米国債の消化に大きな問題が出る可能性はほとんどないでしょう。
ペトロダラー協定終了の長期的影響
しかし、それでは全く影響がないのかと言うと、そういうことではないと私は考えています。
私の考えは、先ほどの3つ目のタイプの方と同じで、この問題がドル崩壊や金融危機にすぐ繋がるわけではなく、もう少し長期的にドルが弱くなる話だと考えています。それは、直接的には影響がないとしても、徐々に米ドルを使わない決済が増えれば、米ドルにとってネガティブな要因になることは間違いありません。
為替というのは相対的なものです。ドルが弱くなるということは他が強くなるということです。しかし、ユーロや円、ポンドがすぐに強くなるでしょうか。今の状況では考えられないと多くの人が思うことでしょう。それほど長い時間軸の話だと私は考えています。
為替の決定要因
国際金融論でよく言われる為替の決定要因として、金利差、物価上昇率の差、国際収支というのがよく用いられます。
金利差については、日米の金利差が拡大したからドルが強くなった(円が弱くなった)とよく言われるものです。この3つの中で金利差が一番短期的な動きの説明するのに適しています。
続いて物価上昇率の違いが為替に与える影響ですが、これは10年ほどの長期の動きを説明する時に有効だと言われています。
国際収支はそれよりもさらに長い時間軸での説明に用いられることが多いです。
私の考え
今回説明した地政学的な問題は、米ドルの場合、私のイメージでは国際収支よりもさらに長い時間軸で影響を及ぼすファクターだと思います。決して、すぐにドル崩壊や金融危機にすぐ繋がるわけではなく、2030年代までを見据えた国際情勢、金融市場を見ていく上で重要なファクターになっていく、そういうものだと私は考えています。
サイトマップはこちら