ロシア経済の現状と利上げの要因
2024年7月26日、ロシアの中央銀行は政策金利を16%から18%に引き上げました。最近のロシア経済の動向をお伝えしたいと思います。
今回解説する内容は、ロシアの中央銀行が公式に発表している声明、中央銀行総裁の発言、そしてロシアの統計局が公表しているデータを元に私の考えをまとめたものです。
ロシアのデータの信用性
ロシアの政府や中央銀行が発表するものについて、信用できないから見ても無駄だと考えている人もいるかもしれません。そうしたお考えは理解できますし、私もある程度割り引いて見る必要があると思っています。
しかし、だからと言ってデータを全く見なくていいということではないです。私はロシアの言っていることを肯定したいわけではなく、また西側のプロパガンダ的なことをするつもりもありません。完全に正しく客観的に捉えることは不可能だと思っていますが、できるだけ今起こっていることを分析してお伝えしたいと思っています。
ロシア経済の最近の動向
2024年7月26日にロシアの中央銀行は政策金利を16%から18%に引き上げました。今年初めての利上げとなります。
ウクライナ戦争が始まる前の2022年2月時点で政策金利は9.5%でしたが、戦争が始まって欧米の投資家がロシアルーブルで保有している資産を売却する必要が生じ、ルーブル安の懸念が高まりました。そのため、ロシアの中央銀行は政策金利を20%まで引き上げ、その後ルーブル安が落ち着いたことを受けて2022年9月まで段階的に政策金利を7.5%まで引き下げました。
しかし、その後にロシア国内でインフレが再加速し、それを抑え込むために再び中央銀行は利上げを開始しました。2023年末時点で政策金利は16%まで引き上げられ、今回さらに18%まで上げられました。
政策金利引き上げの背景
政策金利をこれほど高い水準にしている理由は、インフレの高騰を抑えるためです。ロシアの6月の消費者物価指数は前年同月比で8.6%上昇し、5月の8.3%から加速しました。2023年の半ば頃から上昇傾向が続いています。
ウクライナ戦争が始まってすぐ、消費者物価指数は前年同月比で18%まで上がりましたが、2023年4月には2.3%程度まで低下しました。しかし、その後再び上昇し続けています。
中央銀行はこれまで政策金利を16%まで引き上げていましたが、インフレ率は落ち着かず、むしろ上昇を続けているため、7月26日の会合で再び利上げを決定しました。今後の政策決定会合では追加の利上げも検討する方針を示しています。
インフレの要因
ロシアでインフレが収まらない要因はいくつかありますが、一言で言えば「戦時経済」が影響しています。中央銀行も認めていますが、労働市場がかつてないほど逼迫しています。戦争で亡くなった人々や戦争に駆り出される人々、外国に移住する人々が増えた結果、労働者が減少し、労働市場が逼迫しています。失業率は2020年2月の4.6%、2022年1月の4.4%から、2024年6月には2.6%まで低下し、1994年の統計開始以来の最低水準を更新し続けています。
これにより賃金の上昇率も高水準になっています。名目賃金上昇率は4月に前年同月比で17%上昇し、賃金上昇率も収まる気配がありません。ロシアの国立学術機関であるロシア科学アカデミーの調査によれば、現在ロシアの労働力不足は480万人に達しているとされています。
政府の景気刺激策
インフレを加速させたもう一つの要因は、政府による景気刺激策です。ウクライナ戦争が始まってから、住宅ローン優遇策を拡大し、政策金利が18%となる中でも非常に低い金利でローンを組めるような状況になっています。この住宅ローンと実際の金利の差を政府が負担する形で提供されており、政府によるばら撒き政策と言えます。
コロナパンデミックの後に始まったウクライナ戦争で景気が悪化するのを防ぐために、この住宅ローン優遇制度が導入され、ロシアでは不動産バブルが発生しました。これもインフレに一定の影響を与えています。また、戦争が始まって以降、海外から調達できなくなったものを国内で生産するために、主に政府の需要によって国内経済が加熱気味になっていることも影響しています。
今後の見通し
ロシアの中央銀行はインフレ率を目標の4%に抑えるために、戦時経済として加熱しているロシア経済をある程度冷やす必要があり、金融引き締めを積極的に行っています。政府は景気刺激策や戦争のための資金を国内で国債を発行することで調達しています。
ロシアのインフレは意外と広範囲に拡大しています。ロシアは豊富な天然資源を有しており、西側の国から輸入できない状況でも大丈夫だという見方もありますが、消費量と供給の問題で幅広いものの値段が上がっていることは事実です。
ロシアの中央銀行が利上げを再開した背景には、インフレの加速があります。今後も中央銀行はインフレ抑制に向けて金融引き締めを進めていく姿勢を示していますが、政府による景気刺激策や戦争のための需要増加で国内経済は加熱気味が続き、中央銀行が金融引き締めで物価をコントロールするという難しい経済運営が続くことになりそうです。
ご参考