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ウォーレン・バフェット氏の投資行動の一考察
ウォーレン・バフェット氏がS&P500のETFを売却し、50兆円以上の現金を保有していることが話題になっています。彼の投資行動の意図については、多くの専門家がさまざまな見解を述べていますが、バフェット氏自身がその理由を詳細に説明することはありません。そのため、すべては憶測の域を出ません。
バフェット氏の投資行動についての考察を求める声が多く寄せられたため、彼が何を考えているのかについて、あくまで私自身の見解として、説明したいと思います。
市場の注目
すでに、バークシャー・ハサウェイの現在のポートフォリオや、バフェット氏が市場をどのように見ているのかについて解説する動画や記事は多数あります。
イールドスプレッドやバフェット指数といった指標を用いて、現在の株式市場が割高であるとバフェット氏が判断しているのではないかという見方も広まっています。
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私の注目
私も、今の株式市場は割高であると思っていますし、バフェット氏も同様に考えている可能性は高いと思います。しかし、私が注目しているのはそこではありません。
市場の割高感よりも大きな変化を見ている可能性
現在、バフェット氏が株式市場の割高感を理由に慎重な姿勢を取っていることから、市場の割高が解消される過程で景気後退が起こるのではないか、という憶測が飛び交っています。
しかし、私はそうではないと考えています。バフェット氏が見ているのは、もっと大きな話ではないかと思うのです。
もちろん、「マグニフィセントセブン7」と呼ばれる一部の銘柄しか株価が上昇しておらず、実際に利益を伸ばしているのもそれらの企業に限られているという状況が長く続くとは考えにくい、という見方もあるでしょう。しかし、私はバフェット氏が注目しているのは、それよりもさらに大きな変化なのではないかと考えています。
S&P500の株価指数を見ると、過去2年間の成長を牽引したのは「マグニフィセント7」と呼ばれるテック企業7社です。これを除いたS&P493(その他の企業)を見ると、業績はむしろ減少しています。つまり、アメリカ経済の成長を支えているのはごく一部のテック企業だけなのです。
バフェット氏の保有する銘柄
バフェット氏はコカ・コーラやAppleといった銘柄を長期にわたって保有してきました。彼のポートフォリオを見ると、これらの銘柄には共通点があります。それは、10年単位の景気サイクルとはあまり関係がなく、もっと大きな社会の動きに影響を受ける企業であるという点です。
例えば、コカ・コーラは短期的に急成長するような企業ではありません。しかし、アジアやアフリカなどの新興国が台頭し、中間層が拡大すれば、必然的にコカ・コーラやファストフードの消費が伸びることが期待されます。これは、地球規模での人口動態を考えたときに成長が見込まれる分野として、バフェット氏が投資を続けている理由ではないかと私は考えています。
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また、Appleに関しては、ポートフォリオの4割以上を占めていた時期もありました。これは、Appleが景気循環に左右される企業ではなく、スマートフォンの登場によって私たちの生活を大きく変えたイノベーションの中心企業であるからです。
このように、バフェット氏の投資スタイルは、単なる景気サイクルではなく、もっと大きな社会の動きを見据えたものなのではないでしょうか。
AIの進化と投資戦略
今、極めて大きな変化が起こっています。それが「AI」です。
以前から、AIが私たちの仕事を奪うのではないかと言われていますが、実際のところ、AIがどのように活用されていくのかはまだ不透明です。しかし、AIが生産性を大幅に向上させる可能性を秘めていることは確かです。もし、AIが生産性を劇的に向上させ、社会全体を大きく変えるとすれば、投資すべき銘柄も大きく変わることになります。この点がまだ非常に不透明であるため、それがバフェット氏のポートフォリオにおける現金保有の多さにつながっているのではないかと、私は想像しています。
AIがどのように社会を変えていくのかは、誰にもはっきりとは分かりません。もしかすると、期待外れだったということになるかもしれませんし、逆に私たちの仕事を次々と奪い、AIを活用する企業の生産性が劇的に向上する未来が訪れるかもしれません。
産業革命との類似(歴史的な変化)
生産性の大幅な向上という観点で参考になるのは、18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命ではないでしょうか。
産業革命以前は、綿工業の生産もすべて手作業で行われており、陸上輸送は馬車、エネルギーは家畜の力、薪、水力、風力といったものに限られていました。そのため、生産性には明確な限界がありました。
しかし、蒸気機関の発明によって工場での大量生産が可能になり、石炭を安価に利用できるようになったことで、エネルギー供給の限界も突破されました。その結果、経済成長が加速し、世界の産業構造が大きく変わりました。
今、AIが生産性を飛躍的に向上させる可能性があるとすれば、当時と同じような劇的な変化が起こるかもしれません。
バフェット氏の現金保有
もし、AIが社会の生産性を劇的に向上させるなら、投資環境は大きく変わります。バフェット氏が大量の現金を保有しているのは、そうした変化を見極め、適切なタイミングで投資を行うための準備なのではないでしょうか。
あくまで私自身の見解ですが、バフェット氏もこうした技術革新や社会変化について少なからず考えているのではないかと思います。
以上が、バフェット氏がS&P500を売却し、大量の現金を保有していることについて、私なりの考察です。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考(AI記事のまとめ)
■ AIと労働市場、アメリカの現状と日本への影響(2023/5/21)
■ AIの時代に時間とお金を投資してMBAを取る価値があるのか
■ DeepSeekショックの解説とAI市場の今後の見通し(2025/1/28)
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