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証券会社のビジネス変化とファンドラップの解説


 証券会社の勧める「ファンドラップ」について説明したいと思います。なぜ証券会社などがこのファンドラップを売りたがるのか、その背景について、証券会社の経営状況と照らし合わせながら解説します。

 1年以上前の動画を記事にしたものです。証券会社のビジネスの変化、そして投資家として何を気を付けるべきか、改めてご確認いただき、「おもわず誰かに話したくなる。」そう感じていただけたら幸いです。引き続きよろしくお願いいたします(TeamモハP)。

 ファンドラップがどのようにして生まれてきたのか、まずはその前身と言える「ラップ口座」が登場した2000年代前半から説明したいと思います。

ラップ口座の誕生

 ラップ口座とは、証券会社にお金を預けて資産の配分だけを指示し、後の銘柄選定などは証券会社に任せるという新しいタイプの商品として登場しました。当時、野村證券では最低1億円、大和証券では5,000万円からという高額な条件で提供され、富裕層を対象とした新しい運用商品として注目されました。

ラップ口座
金融機関と投資一任契約を結び、金融商品への投資を金融機関に一任する取引口座、ひいてはそのサービス自体のこと。最低預け入れ金額は金融機関によって異なる。
ラップ口座のうち、投資対象が投資信託に限定されていれば一般的に「ファンドラップ」と呼ばれる。

一般社団法人投資信託協会HP

 このラップ口座が始まった背景には、証券会社の経営課題があります。証券会社の収益は株式の売買手数料に大きく依存しており、市場が好調な時には業績が良くなる一方、市場が低迷すると顧客の売買が減り、手数料収入が激減するという不安定な経営状況にありました。

証券会社のビジネスの変化

 そのため、証券会社は取引ごとに手数料を得る「フロービジネス」から、預かった資産に応じて手数料を得る「ストックビジネス」へと移行し、安定的な収益を目指しました。

 
この流れで考案されたのが「ラップ口座」です。

 ラップ口座では、毎年2~3%の手数料を証券会社に支払う仕組みがあり、顧客が売買しなくても証券会社は収益を得られるようになっています。当時の好調な株式市場も追い風となり、各社は数千億円規模でお金を集めることに成功しました。

ファンドラップの進化と問題点

 ラップ口座の成功を受けて、証券会社はさらにその仕組みを簡略化し、少額から始められる「ファンドラップ」を開発しました。ファンドラップは、投資信託を組み合わせて保有する商品ですが、同様に証券会社に年間2~3%の手数料を支払う必要があります。
 加えて、ファンドラップ内で運用される投資信託にも、運用会社に対して「信託報酬」として1%以上の手数料が発生します。これらを合計すると、3%以上、場合によっては5%近い手数料を支払う必要があり、非常に高コストな商品と言えます。

 また、投資信託の選択次第ではさらに手数料が上乗せされることもあり、リターンがどれだけ残るのか疑問視される場面も少なくありません。
 
それにも関わらず、こうした二重手数料の仕組みや高コストである点が、十分に説明されないまま販売されることが問題です。

出所)金融庁(2023年4月)

証券会社がファンドラップを推進する理由

 証券会社がファンドラップを売りたがる最大の理由は、安定した収益を得られるからです。ファンドラップは、顧客の資産を預かりながら運用を行う仕組みであり、手数料を継続的に徴収できる「ストックビジネス」の典型例です。

 証券会社の対面営業は、店舗運営費や営業マンの人件費といった高コスト構造を持っています。そのため、ビジネスモデルを維持するには、高額な手数料を取る必要があります。一方、ネット証券では低コストで金融商品が提供されており、特に若年層を中心に支持を集めています。
 この競争環境の中で、対面営業の証券会社が収益を確保するためには、ファンドラップのような高額手数料の商品に依存せざるを得ないのです。

証券会社を取り巻く環境の変化
 証券業界では、投資信託の手数料引き下げや仕組債の販売トラブルなどにより、収益環境が厳しくなっています。

大和証券の航空機リース事業への出資について

仕組債との関連性

 ファンドラップが注目される背景には、もう一つの問題商品である「仕組債」の影響があります。
 仕組債は株価や為替の水準に応じて早期償還されることが多い商品であり、証券会社は販売時に約5%程度の手数料を得られる構造になっています。しかし、仕組債はその複雑さやリスクの高さから、地方銀行でのトラブルが相次ぎ、販売自粛が進んでいます。

 「仕組債」とは、文字通り、一般的な債券にはみられないような特別な「仕組み」をもつ債券です。
 この場合の「仕組み」とは、スワップやオプションなどのデリバティブ(金融派生商品)を利用することにより、投資家や発行者のニーズに合うキャッシュフローを生み出す構造を指します。

日本証券業協会HP

 その結果、証券会社は新たな収益源として、比較的リスクが低いとされるファンドラップに注力するようになりました。しかし、手数料構造が不透明である点では、仕組債とファンドラップには共通の問題が存在します。

投資家へのアドバイス

 現在、多くの証券会社が経営の安定化を目的にストックビジネスを推進しており、その中心にファンドラップが位置しています。
 しかし、高額な手数料を顧客に隠しながら販売するビジネスモデルが続く限り、対面営業の証券会社は限界に近づいていると考えられます。ネット証券や他の低コストな選択肢がある中で、投資家は冷静に商品を比較し、理解した上で選択することが重要です。

総括

 ファンドラップは、証券会社にとって安定した収益を生み出す魅力的な商品である一方、投資家にとっては高額な手数料や透明性の欠如といった課題があります。こうした背景を理解し、自分にとって本当にメリットのある投資を選ぶことが必要です。


ご参考(投資家への注意喚起記事のまとめ)

■ メキシコペソの下落要因と投資家へのアドバイス(2024/6/15)
■ 注意喚起、レバレッジ系のETFの現実とリスク(2024/8/31)
■ 注意喚起、証券マンを自宅に招くリスク(2024/11/11)

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