証券マンの実態と私の経験
先日、証券マンが顧客の自宅を訪問した際、どのような点を観察しているかについて解説しました。YouTubeやX(旧Twitter)で多くのコメントや質問をいただきました。ありがとうございました。
この記事では、それらのコメントや質問にお答えしつつ、続きを説明しようと思います。
証券マンの顧客訪問時の観察ポイント
前回は、「証券マンが顧客の自宅を訪問する際には、このようなところを見ていますよ」といった具体的な内容や、「自宅に証券マンを入れるときにはこういう点を見られることを知っておいた方が良いですよ」という注意点について説明しました。
この内容を受けて、「昔は証券マンもこんなことをしていたのか」という驚きや感想のコメントが寄せられましたが、これこそが証券マンの仕事の一環なのです。
証券営業と保険営業の共通点と違い
コメントの中には保険会社の営業に関する話題も多く挙がりました。証券営業と保険営業には共通する部分がある一方で、大きく異なる点もあります。
特に、保険営業では顧客がどのような人物なのかをより慎重に確認する必要があります。というのも、保険契約の場合、顧客が嘘をついて契約を結ぶようなケースがあるからです。
保険営業と顧客
例えば、既に病気を患っているにもかかわらず、その事実を隠して契約を結び、後に保険金を請求するといったケースです。こうした行為は「告知義務違反」に該当し、発覚した場合には保険会社が保険金を支払わない場合もあります。また、極端な例では保険金殺人や自殺といった犯罪行為が絡むこともあります。
保険会社としては、こうした不正行為によって会社が不利益を被る事態を事前に防ぐ必要があります。そのために顧客が怪しい人物でないかを確認することが営業担当者にとって重要な役割となっています。
証券営業と顧客
一方、証券会社の場合、多くの取引で顧客が出した注文を市場に繋ぐだけであり、保険会社ほど顧客の行為が直接的な損害をもたらすことは少ないです。
ただし、反社会的勢力との取引を避けるため、そうした点には細心の注意を払う必要があります。それ以外の場合、顧客が株を購入したいと言ってきて、事前に資金を用意している限り、証券会社が大きな損害を受ける可能性は低いです。
私の経験
私が証券マンをしていた頃、上司から「顧客の家を見てきて」という指示を何度か受けたことがあります。
例えば、支店に突然やってきた新規の顧客が、「今売り出している債券を買いたい」と言い、2,000万円や3,000万円といった高額な購入希望を示してきた場合です。この場合、口座を開設し、後日お金を送金するという流れになりますが、会社としては「本当にその資金が用意できるのか」という点に不安を感じるわけです。
家を訪問し確認する①
もちろん、債券購入の注文は実際に資金が口座に入金された後に処理されるため、振り込みがなかったとしても大きなトラブルになることはありません。
しかし、売り出し期間が決まっている債券でキャンセルが発生すると、販売未達となり、証券会社の販売体制が低く評価されるリスクがあります。そのため、事前に「この顧客が本当に資金を持っているのか」を確認する目的で家を訪問することがありました。
IPO銘柄をめぐる駆け引き
また、IPO銘柄(新規上場株)の購入を希望する顧客について、家を見てくるよう指示されることがありました。IPO投資とは、新規上場前に売り出された株を購入し、上場後に価格が上昇することを見越して利益を得る投資法です。
このIPO銘柄は、証券会社によって抽選で配分されるケースと、証券会社の裁量で配分が決まるケースがあります。特に後者の場合、IPO銘柄を通じて他の取引を引き出すため、上昇が見込まれる銘柄を優良顧客に優先して配分することがありました。
また、昔はほとんどが証券会社の裁量で決められていました。銘柄によってある程度上がりそうかどうかというのは予想が可能で、上がりそうなIPO銘柄は他の取引につながりそうな上客に配分し、長く取引をしてもらおう、証券会社はそのようなことをしていました。
家を訪問し確認する②
中には、IPO銘柄を狙う顧客が「別の証券会社にIPO銘柄をもらえると言われている」と証券マンを揺さぶるケースもあります。このような顧客について、本当に資金力があるのか、それともIPO銘柄だけを狙った一時的な取引なのかを見極めるために、顧客の家を確認することが求められるのです。
私の働き方と不正との距離感
私は、新卒で証券会社に入社して以来、常に倫理的に正しい行動を心がけてきました。配属された支店では、掛け金を伴うゴルフコンペが一般的でしたが、新人であった私は「組織的な違法賭博に関与するつもりはない」と明言し、この業務を断りました。その結果、支店内で私だけがコンペに参加しないという状況になりました。
このような姿勢のため、危ない橋を渡るような行動をする人々からは距離を置かれ、不正行為に関する情報や裏話を耳にすることもほとんどありませんでした。私自身は聖人君子ではありませんが、リスクを避けつつ仕事に取り組むことを徹底していました。
終わりに
こうした背景から、私が持っている情報は公開された情報や一般論に基づくものがほとんどです。皆様が期待されるような衝撃的な裏話は少ないかもしれませんが、これからも金融業界の慣習や実態についてお伝えしていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
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