農林中央金庫の損失と増資の解説
農林中央金庫について
日本のヘッジファンドとして知られ、資産運用リスクを大胆に取ることで有名な農林中央金庫について解説します。
農林中央金庫の損失と増資
農林中央金庫は、有価証券の含み損を多く抱えており、その処理のために1兆円の増資を検討していると報じられています。
金融機関が兆円単位で損失を出し、増資をするというのはただ事ではないと思えるかもしれません。損失を出しているのが米国債を含む外貨建ての債券であると言われていますが、米国債であれば満期まで保有すれば損失にはならないはずです。しかし、なぜ売る必要があるのでしょうか。何か売らなければならない理由があるのでしょうか。
金融危機への可能性
農林中央金庫が抱える含み損は確かに問題ですが、それが金融危機につながる可能性は極めて低いと考えています。先ほども触れたように、満期まで保有すれば含み損の多くはなくなります。したがって、無理に損失を確定する必要はなく、あえて損を出す選択をすることが可能です。そのため、今回の損失はコントロール可能なものであり、農林中央金庫が意図的に選択したものだと理解しています。
損を出す選択について
では、なぜ損を出すのでしょうか。損を出さなければならないほど切羽詰まっているということなのでしょうか。
昨年、アメリカのシリコンバレー銀行は債券の含み損を抱え、預金の流出などから債券を売らなければならなくなり、結果的に破綻しました。
農林中央金庫も同じような状況になっているのではないかと心配する方もいるかもしれません。しかし、農林中央金庫の場合、手元の資金が確保できないという状況にはなっていないと見られます。したがって、そのような理由で損出しをするというわけではないでしょう。
繰り返しになりますが、なぜ損を出すのでしょうか。私の見解としては、それは収益性の改善のためと考えています。
MBSと金利について
農林中央金庫は、他の銀行に比べて比較的長い債券を持っていることに加えて、不動産担保証券(MBS)を大量に保有していることでも知られています。この不動産担保証券(MBS)という金融商品は、金利が上昇すると満期までの期間が伸びる傾向があります。
不動産担保証券(MBS)は不動産ローンを担保にした証券化商品で、不動産ローンから発生するキャッシュフローと紐づいています。不動産ローンの金利が不動産担保証券(MBS)の金利になり、不動産ローンが繰り上げ返済されると不動産担保証券(MBS)も満期前に早期償還する仕組みになっています。
損失と増資について
農林中央金庫が持っている不動産担保証券(MBS)の多くが、現在低い利回りで15年や20年といった長い期間、満期を迎えない可能性が出てきていると考えられます。農林中央金庫は、リスクを取ってリターンを追求したい金融機関であるため、15年や20年も低い利回りで持ち続けるよりは、損失を確定し、これから20年でより多くの利益を得ようと考えたのではないでしょうか。
農林中央金庫という金融機関は、地方に多く存在するJAが株主になっており、今回の増資は、そうした株主から追加で1兆円を出してもらう形で行われる予定です。株主も納得しているのであれば問題ないと言えばその通りですが、農林中央金庫やJAは日本の大切な農家を支える役割を持つ金融機関であるため、内部での合意だけで終わる問題ではないでしょう。
ガバナンスについて
私は農林系の金融機関で働いたことがないため、内部の情報は持ち合わせていませんが、どうもこの農林中央金庫とJAとの間には、本来JAが株主であるにも関わらず、農林中央金庫が一定の発言力を持っているように見えます。
日本のヘッジファンドとして知られ、大胆にリスクを取る金融機関に言われるがままに、地方のJAが農業従事者のお金を流していくという状況があるとすれば、それはガバナンスとして適切ではないと考えられます。
総括
今回の問題は金融システムの不安につながるようなものではなく、あくまで損を出す選択をあえてしているということだと思われます。しかし、日本のヘッジファンドである農林中央金庫のガバナンスについて、私は一定の疑問を抱いています。
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