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国内投資家による外国債券の購入額、高水準に


 2024年8月、国内投資家による外国債券の購入額が6兆8,594億円となり、2007年以来約17年ぶりの高水準に達しました。
 この動きは市場関係者の間でも話題となっており、個人投資家の中でも注目している方が多いかもしれません。この記事では、この国内投資家による外国債券の購入について解説します。

財務省のデータとその公表方法

 日本の財務省が毎週発表している「対外及び対内証券売買契約等の状況」というデータがあります。このデータでは、毎週水曜日に前週の国内投資家がどれだけ外国の証券を売買したか、そして外国の投資家が日本国内の証券をどれだけ売買したかが公表されています。株式や中長期債、短期債の売買額も含まれています。
 興味がある方は、財務省のホームページでご覧になると良いでしょう。下記に参考リンクを貼らせていただいています。

8月のデータとその推計方法

 9月5日に発表されたデータによると、8月の最終週までのデータが明らかになっています。このデータは速報ベースで週次で出ており、少し遅れて月次データが公表されます。8月について推計では8月は6兆8,594億円の買越しとなった状況です。
 推計方法としては、7月29日から8月2日の1週間の数値を日割りにして8月1日と8月2日の分として推計し、それ以降の8月の金額に合計して計算しています。したがって、7月1日と8月2日に大きな動きがあった場合、推計がずれることになりますが、おそらく今回は大きくは違わないでしょう。

2007年以来の高水準

 この6兆8,594億円の買越しは、2007年9月以来約17年ぶりの高水準です。7月最終週までは6,777億円でしたが、8月に入ってから急増し、1週目から4週目まで毎週1.5兆円以上の買越しとなっています。
 7月28日から8月3日の週は、日銀の金融政策決定会合やアメリカの金融政策を決定するFOMC、アメリカの雇用統計が発表された週です。この週に円高ドル安が大きく進行しました。

円高と外国債券の購入

 8月4日以降、国内投資家が多くの外国債券を購入していることから、円高になった後に外国債券を買いに行ったと予想されます。
 
今回の大幅な買越しが17年前の2007年9月以来であることを振り返ると、非常に興味深いです。2007年9月には、直前の2007年7月に円キャリートレードのポジションが積み上がり、投機筋の円売りポジションが過去最高になっていました。この投機筋の円売りポジションがピークアウトし始めてから2ヶ月後が2007年9月です。

円キャリートレードの影響

 今年の夏も円キャリートレードが注目され、ピークだったのが2024年6月末です。今回の国内投資家による外国債券の購入も、2007年の時と同様に円キャリートレードのポジションがピークアウトしてから2ヶ月後に起こっています。円キャリートレードの巻き戻しによって投機筋の円買いが発生し、それによって円が高くなったタイミングを捉えて国内投資家がドルを買いに行ったということです。

 キャリートレードとは、金利の低い通貨でお金を借りて金利の高い通貨で運用し、その金利差を稼ぐ戦略のことを指します。金利差が広がってきてそれが安定している時によく行われる取引戦略です。

円キャリートレードの解説とその行方について

為替ヘッジの動き

 今回の外国債券の購入について、為替ヘッジをして外国債券を購入する動きも一部あったと考えられますが、多くはないと見ています。
 最近のFRBの利下げ期待などで為替ヘッジのコストは低下傾向にありますが、ドルを円にヘッジするコストはまだ3ヶ月もので年率5%程度かかっています。5%以上の利回りが取れる債券は信用力の低いものが多いため、大量に購入しているとは考えにくいです。

国内投資家の傾向

 国内投資家は為替リスクを積極的に取る傾向があり、円高局面を捉えて為替ヘッジなしで外国債券の購入を増やしたと見ています。
 2007年の時は7月に123円程度だったドル円が9月に112円程度まで円高になったところで大規模な買越しが起こりました。その後、アメリカの景気悪化を受けて円高が進み、2008年9月にはリーマンショックが起こり、1ドル80円台まで円高が進みました。

リーマンショック以降の動き

 リーマンショック以降の円高局面では、急激な円高に耐えきれずリスクを減らすために外国債券を売却した投資家が多かったです。しかし、GPIFのように決まった資産配分を維持する投資家は、リーマンショック以降の急激な円高局面でも外国債券を買い続けました。銀行や地方銀行、保険会社などはリスクを減らす動きが多かったです。

機関投資家の行動と個人投資家への教訓
 過去の機関投資家の運用を振り返ると、暴落した時に損切りをしなければならなかった投資家よりも、淡々と安くなったところで買っていた投資家の方が運用成績は良好だったということです。

金融危機時の機関投資家の投資戦略の振り返り

現在の状況と今後の見通し

 今回の動きが17年前と似ている点は気になるところですが、金融危機が警戒されているわけではない点が異なります。
 
トランプ氏がアメリカの大統領選挙で勝利する場合、減税を受けて景気が改善し、金利が上昇する可能性もありますが、利下げのスピードは2007年と比べて緩やかで、政策金利の水準も高くなると想定されています。

過去の動きと今後の展望

 過去の動きを理解しつつ、今後の動きにも目を向けながら注視する必要があります。8月に大規模な買越しを行った国内の機関投資家も、11月に向けて一旦様子見になるかもしれません。また動きが出てきましたら、解説していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

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 私たちの年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、日本株25%、外国株25%、外国債券25%、国内債券25%という比率で分散投資をしています。

分散投資の意義と個人投資家へのアドバイス

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