![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/151817657/rectangle_large_type_2_0d88cb2539370cb1ac8acc0ce1f2d498.jpeg?width=1200)
もしも人民元が変動相場制に移行したら
原油の人民元決済やBRICSの台頭などが話題になっていますが、人民元が国際的な通貨になるためには多くのハードルを越えなければなりません。そこで、もしも人民元が円やドル、ユーロと同じ変動相場制に移行したら何が起こるのかを考えてみたいと思います。
人民元の為替制度
現在、人民元は変動相場制ではなく、管理相場制を採用しています。これは、変動が一定範囲で収まるように当局がコントロールしている制度です。米ドルに対しての変動が固定されているため、固定相場制に近い為替政策と言えます。国民が自由にお金を動かせると為替相場のコントロールが難しくなるため、資本の移動を制限しています。この管理相場制と資本の移動制限が、人民元が国際的な通貨になることを難しくしています。
人民元の国際通貨化
中国は現在、原油を人民元で決済するなど、人民元を国際的な通貨にする取組みを行っています。しかし、資本の移動を制限している状況では、使い勝手が悪く、自由に動かせない通貨は使い物になりません。
資本移動の自由化の影響
資本の移動を自由にすると、中国の富裕層を中心に海外に一気にお金が流れていくことになり、金融危機になる可能性があります。中国の家計資産はアメリカに次いで大きく、2020年頃の推計では27.4兆ドル(約3兆円)とされています。現在の中国の外貨準備高は3.2兆ドルです。中国の富裕層が海外に資産を動かそうとした場合、政府は支えることができません。
海外にどんどん資金が流出し、人民元は暴落します。国内の短期金融市場では資金不足が起こり、短期金利が急騰し、金融危機になるでしょう。こうした事態が起こるため、中国は絶対に変動相場制への移行を行わないでしょう。
金融緩和とインフレの影響
もしも変動相場制に移行し、資本移動を自由化した場合、中央銀行は金融緩和を行い、人民元をどんどん発行して国内にばらまくことになるでしょう。しかし、これにより人民元はさらに暴落し、輸入物価が急騰し、物価がとんでもない水準になると予想されます。
トルコリラとの比較
政府が為替のコントロールを失った場合、トルコリラの動きが参考になるかもしれません。トルコと中国を比較するのはおかしいという意見もありますが、中国の富裕層が本気で海外にお金を動かした場合、政府は対応できないため、一定の参考になるでしょう。
中国の製造業がどれくらい儲かるかも中国経済に大きく影響しますが、世界の多くの国から関税をかけられる方向で、「世界の工場」とは言いにくい状況になりつつあります。製造業もそれなりにあるトルコと似ているかもしれません。
金融引き締めと高金利の影響
急激な資金流出が起こり、人民元安が進んだ後、資金の流出が緩やかになった場合、金融危機が落ち着いた後はインフレを抑制するために中央銀行は金融引き締めを行い、利上げをする必要があるでしょう。トルコの政策金利は現在50%ですが、中国も非常に高い政策金利にしないと通貨安を止められず、インフレを抑制できないでしょう。
人民元の国際通貨化の難しさ
中国が変動相場制や自由な資本移動を認めた場合、長期間にわたり中国経済が低迷する可能性があります。人民元の国際化を進めるためには変動相場制や自由な資本移動を認める必要がありますが、これらが人民元の国際化の足かせになっています。
中国人が資本を海外に移したい理由は、中国景気の低迷や国内に有望な投資先がないことだけでなく、監視社会から逃れたいという理由もあります。しかし、中国人が海外にお金を移したいと思っても、それを受け入れたくない国も多く、海外の銀行に口座を作るのは簡単ではありません。
資本流出のシナリオ
もし自由化された場合、最初のタイミングで海外に口座を持っている人が一気に資金を移し、その後は抜け道を見つけてじわじわと資本流出が続くでしょう。トルコのように多くの人がドルで預金をするようになり、国内でもドルが流通するようになるかもしれません。
結論
中国が変動相場制と自由な資本移動を認めても、中国経済は大丈夫だと考える人はほとんどいないでしょう。やれるのであればとっくにやっているはずです。人民元の国際化はそう簡単ではないということが分かっていただけたと思います。
以上が、もしも中国が変動相場制に移行し自由な資本移動を認めたらどうなるのかについての解説です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考
石油取引と米ドルについて
まず、結論から言いますと、石油の決済が米ドルで行われていることが米ドルの価値を押し上げているという考え方について、私はその影響は少ないと考えています。