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ザーラ・ワーゲンクネヒト氏と新党BSWの台頭


 ドイツの政治を説明します。特に、この記事ではザーラ・ワーゲンクネヒトという政治家に焦点を当て、ドイツの政治情勢について解説します。

ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟

 ザーラ・ワーゲンクネヒト氏が現在非常に注目されています。
 今ドイツでは移民反対の国民が増えており、AfDという政党が支持を伸ばしています。しかし、ドイツは第二次世界大戦のナチスの経験もあり、AfDのメンバーがナチスを彷彿とさせる発言をすることもあるため、AfDに拒否反応を示す国民も少なくありません。そのため、AfDが政権を取るのは難しい状況です。
 そこで、与党は嫌だがAfDも無理という人たちの受け皿になっているのが「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟 理性と公正のために(BSW)」、ザーラ・ワーゲンクネヒト氏の名前を前面に出した新党です。

ワーゲンクネヒト氏の背景

 彼女は左派の政治家ですが、共産主義者と見なされることもあります。ワーゲンクネヒト氏はイラン人の父親とドイツ人の母親の間に東ドイツのテューリンゲン州で生まれました。父親はイランから東ドイツに留学中に母親と知り合い、その後、彼女が幼少期に父親はイランに戻り行方不明になりました。
 ワーゲンクネヒト氏はテューリンゲン州のイエナ大学やオランダのフローニンゲン大学で哲学を学び、修士号を取得しています。高校生の時には軍事訓練に参加するのに苦労したと言われています。

政治活動の転機

 政治活動については、ドイツ統一後の1991年頃から社会主義政党民主社会党(PDS)の主要メンバーとして活躍しました。その後、党の再編などで左翼党に所属しました。スターリン主義を肯定する発言などもしており、1991年から2010年までワーゲンクネヒト氏は憲法保護庁から極左に認定されていました。

ウクライナ戦争と新党設立

 転機となったのはウクライナ戦争でした。ワーゲンクネヒト氏はウクライナ問題について、2014年のウクライナ紛争の時からロシアよりもアメリカが悪いとする立場を取っています。2022年に戦争が始まって以降も、ウクライナ戦争即時停戦論を主張しましたが、戦争が始まった当初はドイツもロシアに批判的になったため、彼女にとっては逆風となりました。
 左翼党のメンバーがワーゲンクネヒト氏についていけなくなり、党内で揉める事態となり、党から辞職を求められる状況になりました。その後、2023年10月に離党し、新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟 理性と公正のために(BSW)」という政党を設立しました。

ワーゲンクネヒト氏の主張

 ワーゲンクネヒト氏の主張は、ロシアと良好な関係を構築することが欧州の利益につながるという考え方です。ウクライナ戦争は2014年のクリミア戦争の時からアメリカが挑発したもののため、アメリカが悪いという立場です。そのため、ドイツの主要メディアではロシア寄りの政治家、プーチンの仲間的な扱いを受けてきました。
 しかし、2022年2月に起こったロシアによるウクライナ侵攻については、プーチンがそうしたことをやるはずがないと事前に言っていたため、後に認識が間違いだったことを認め、ロシアによる国際法違反は正当化できないと批判しています。

ウクライナへの武器提供反対

 ウクライナへの武器提供には反対しており、左派政党であるものの移民については規制強化を主張しています。そのため、メディアで極右と言われるAfDと、移民規制強化とウクライナ支援に消極的という点で共通する政策を主張しています。

ドイツでも移民反対を掲げるAfDという政党が支持を伸ばしています。

メディアが報じない移民問題

地方選挙の結果

 その結果、9月1日に行われた地方選挙において、AfDが支持を伸ばす一方で、AfDを支持することに抵抗のある人たちがワーゲンクネヒト氏のBSWに投票したと見られ、BSWが予想以上に票を獲得しました。ワーゲンクネヒト氏の地元テューリンゲン州では、AfDが33.2%の票を獲得し第1党となり、2番手は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)、BSWは15.8%の得票率で3番手、4位が左翼党の13.1%となっています。ショルツ首相のSPDは6.1%の得票率にとどまっています。

ザクセン州の選挙結果

 同時に選挙が行われたザクセン州では、キリスト教民主同盟(CDU)が31.9%で第1党となりましたが、2位のAfDが30.6%と僅差でした。移民規制強化を訴えるAfDとBSWが共に票を伸ばしていることから、ドイツ国民は移民規制強化とウクライナ支援反対の考えが強まっていることが伺えます。
 ただし、AfDは極右、BSWは極左と言われがちな政党であり、どちらにも拒否反応を示す人たちも多いため、結果として移民規制強化とウクライナ支援反対の票が両極端の政党に分かれる形になっています。

国内政治の影響
 国内ではウクライナ戦争の影響や移民問題などを受け、EUに懐疑的な勢力が台頭しています。

フォルクスワーゲンの工場閉鎖と独経済への影響

2025年の総選挙に向けて

 ドイツは2025年に総選挙を迎えますが、国政でもAfDが第1党になるのか、BSWに票が流れて第1党は取れないのか、そしてこの両党がどこまで支持を伸ばすのかが非常に注目されています。極右が台頭したとしか伝えない日本のメディアだけを見ていると、世界の動きから取り残されてしまうかもしれません。


ご参考

 ロシアでインフレが収まらない要因はいくつかありますが、一言で言えば「戦時経済」が影響しています。中央銀行も認めていますが、労働市場がかつてないほど逼迫しています。戦争で亡くなった人々や戦争に駆り出される人々、外国に移住する人々が増えた結果、労働者が減少し、労働市場が逼迫しています。

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