債券投資の質問と回答、金利の関係
先日の記事で、トランプ氏が大統領選挙で勝利した後にアメリカの債券市場で長期金利が上昇している理由について、インフレ見通しや金利変動の関係性、そして金利・利回り・利率といった用語の基礎的な解説をしました。
債券というテーマは一般の方にとってあまり馴染みがない分野であるため、基礎的な部分がわかりにくいと感じる方も多いようです。そこでこの記事では、いただいた質問の中から、いくつか基礎的な内容についてお答えしていきたいと思います。
政策金利と長期金利の関係について
まず最初に解説するのは、「利下げが行われる可能性が高まるとなぜ長期金利が低下するのか」という質問です。政策金利と長期金利の動きについて詳しく説明します。
「長期金利とは短期金利の長期間の合計である」と解説したことがあります。今回はさらに分かりやすくするために2年債を例にあげて説明します。
例えば、現在中央銀行の政策金利が5%であるとしましょう。この場合、1年の短期国債の利回りは5%になり、2年債の利回りも5%になります。なぜなら、もし政策金利が一定のままで2年債の利回りが5%よりも低かった場合、投資家は2年債を購入せずに1年債を2回運用する方が得だからです。逆に、2年債の利回りが5%よりも高ければ、需要が殺到するため、利回りが下がります。
つまり、政策金利が市場の想定通りに推移する場合、1年債で2年間運用する場合と2年債で運用する場合のリターンが同じになる必要があります。これが「長期金利は短期金利の長期間の合計」という意味です。
政策金利が変動する場合の長期金利の動き
政策金利が変動する場合も、この考え方は同様に適用されます。例えば、現在1年の短期国債の利回りが5%で、1年後に利下げが行われる可能性が高く、1年後に発行される1年債の利回りが4.5%になると想定されている場合を考えてみましょう。
この場合、2年債の利回りはいくらになるでしょうか。1年債に投資して1年目に5%、2年目に4.5%で運用する場合と、2年債に投資する場合のリターンが同じになる必要があります。したがって、2年債の利回りは4.75%となります。
また、2年債は2年間の短期金利の合計、5年債は5年間の短期金利の合計、10年債は10年間、30年債は30年間の短期金利の合計となります。将来の利下げがどのタイミングでどのように進むのかが、それぞれの期間の金利に影響を与えることになります。
金融政策と金利の関係
景気が悪化して一気に利下げが行われ、その後に景気回復で利上げが見込まれるような状況では、2年債などの短期金利が大きく低下する一方で、10年債の利回りはそれほど下がらない場合もあります。10年債は過去を振り返ると、景気サイクルに連動して動く傾向があります。一方、2年債は目先の金融政策の動向を大きく受けます。そして、30年債のように期間が長くなると、目先の金融政策の影響は極めて小さくなり、長期的な経済動向が金利水準を決定する要因となります。
このように、利下げが行われる場合でも、それぞれの期間の金利の影響は異なっています。それぞれの期間の経済動向を考慮する必要があります。
金融政策変更の影響
「中央銀行が利上げや利下げをした後ではなく、する前に債券市場が動くのはなぜか」という質問もよくいただきます。これは、中央銀行が政策変更を行う前にその意向を市場に伝えているためです。
近年、中央銀行は市場の混乱を避けるため、政策変更を事前に市場に織り込ませる傾向があります。これにより、金融政策を決定する会合でサプライズが起こることはほとんどありません。
現在では、サプライズをよく行うのはイングランド銀行くらいで、必要とあれば事前の根回しなしで政策変更を実施することが多いです。この背景にはイングランド銀行の歴史的な位置づけや国民性が影響しています。
債券現物と債券ファンドの違い
最後に、「債券現物に投資をする場合は満期まで持っていれば損をすることはないが、債券ファンドに投資をすると元本割れの恐れがある。債券ファンドへの投資は不利ではないか」という質問についてです。
元本を基準に考えると、そのような意見は妥当です。元本より上回れば勝ち、下回れば負けと考える方にとっては、債券現物の方が安心感があるでしょう。ただし、元本はあくまで投資時点での金額であり、物価水準が大幅に上昇した場合、元本を取り戻しても実質的な価値では損失を被る可能性があります。
債券ファンドは、期間が短くなった債券を売却し、再び長期債を購入することでリターンを向上させる運用を行います。そのため、リターンの期待値は債券ファンドの方が高くなる傾向があります。
元本を確保したいと考える個人投資家も多く、その選択肢を否定するものではありません。現物債券に投資する場合、特に社債については十分に分散投資を行うことをおすすめします。
ご参考
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