債券投資の基礎とトランプ政権の影響について
X(旧Twitter)で債券についての質問をいただいています。その中に「債券の金利が上がってきているということは、債券があまり売れていないということですか」、「トランプ氏が大統領選挙で勝利し、アメリカ経済が良くなると期待されているのに、なぜ米国債が買われないのですか」といったものがありました。
最近、債券の価格と利回りの関係、価格変動の要因など、基礎的な内容について解説する機会が少なかったと感じています。このタイミングで、トランプ政権の政策が与える影響も踏まえ、改めて債券の基礎知識を整理して解説したいと思います。
債券の利率と利回りについて
利率(クーポン)
まず、いただいた質問の中に「債券の金利は発行時に決まっていて変わらないはずでは」というものがありました。ここで、言葉の使い方に慣れていただく必要があります。債券が発行された時に決まるのは「利率」です。英語では「クーポン」と呼ばれます。この利率は発行時に固定されることが多く、固定利率の債券では変動しません。
変動利率債と呼ばれるタイプの債券も存在しますが、ここでは固定利率の債券について説明しています。
利回り
変動するのは「利回り」です。利回りとは、クーポン収入だけでなく、債券の価格変動による損益も含めて計算される指標です。
利回りの計算例
例えば、以下のようなケースを考えます。
現在の債券価格:99
発行時の価格(額面価格):100
年1回のクーポン(利率):1%
この場合、クーポン収入は1になります。また、債券の価格は現在99ですが、償還時に100になるため、価格上昇による利益は1です。よって、1年間で得られる利益は合計2(クーポン収入1+値上がり益1)となります。現在の価格が99であるため、利回りは
2 ÷ 99 ≒ 2.02%
となります。
このように、利回りは債券の価格変動を考慮した数値であり、クーポン(利率)とは異なるものです。
債権の金利と利回りについて
債券に関する議論では「金利」という言葉がよく使われますが、この言葉が指すのは「利回り」である場合がほとんどです。ただし、この用語が曖昧なため、利率を指す場合もあります。したがって、文脈によって意味を読み取る必要があります。
債券の価格と利回りの関係について補足すると、債券価格が下がれば利回りは上がり、債券価格が上がれば利回りは下がります。
例えば、価格が99から98に下がると、償還時の値上がり益が増え、利回りも上昇します。
一方、価格が100に上がると、償還価格と同じになり、値上がり益がなくなるため、利回りはクーポン部分のみの1%になります。
このように、債券価格と利回りは反比例の関係にあることを抑えておきましょう。
債券が売られる、買われるとは
債券市場では、「売られる」や「買われる」という表現が使われます。これらの言葉は、慣れないとわかりにくいかもしれませんが、以下のように解釈できます。
「売られる」:売り注文が増え、供給が増加する状況
「買われる」:買い注文が増え、需要が増加する状況
「利回りが上昇する=なかなか売れない」という理解も間違っていません。売り手が多く、買い手が少ない場合、価格を下げないと売れないため、利回りが上昇するわけです。
トランプ政権とアメリカ債券市場の関係
なぜトランプ氏が大統領選挙に勝利した後、米国債が売られ、利回りが上昇したのでしょうか。主な理由は以下の2点です。
1.景気回復期待とインフレの懸念
景気が良くなると、消費が好調になり、物価が上昇しやすくなります。つまり、インフレになりやすい状況です。インフレが過熱しすぎると、中央銀行は利上げを行う可能性が高まります。長期金利は短期金利の将来予測の合計として考えられるため、将来の利上げ期待が高まると、長期金利も上昇します。この考え方は「純粋期待仮説」と呼ばれます。
2.財政悪化懸念
減税などの政策は財政状況を悪化させる可能性があります。財政が悪化すると、以下の理由で国債利回りが上昇します。
投資家が高い利回りを求める
特に海外投資家は財政状況に厳しく、高い利回りを要求する傾向があります。買い手不足
国債発行額が増えると、買い手が十分に集まらず、価格を下げて利回りを引き上げる必要が生じる場合があります。
まとめ
アメリカの場合、大きな対外純債務を抱えていますが、ドルが基軸通貨であることが米国債の需要を支えています。
トランプ政権下では、インフレと国債利回りの上昇が重要なテーマになると考えられます。今回の解説では、債券の基礎知識からトランプ政権の政策が与える影響までを整理しました。今後ともよろしくお願いいたします。
ご参考(ドル離れ記事のまとめ)
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