投資信託手数料の海外流出について
日本国内で行われた日本人のための様々な施策が、結果として海外の企業を儲けさせることに繋がっているということは、色々な分野で言われています。
資産運用業界でも同様の現象が見られます。NISAなどで投資信託が多く売れていますが、実は海外にお金が流れています。NISAで投資信託が売れても国内の資産運用会社はあまり儲からないという問題を抱えています。この記事では投資信託の業界で海外にお金が流れてしまう仕組みについて解説します。
投資信託の外部委託
この問題は以前から指摘されており、政府が資産運用立国を目指すと発表する前から言われていました。国内の資産運用会社が海外の資産運用会社に多額の費用を支払っている理由は、外国の資産に投資するファンドを自前で運用せず、外部委託しているからです。
ファンド・オブ・ファンズの増加
「ファンド・オブ・ファンズ」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは、日本国内で投資信託を販売して集めたお金を海外の投資信託に投資する形態の投資信託のことです。この形態が非常に多いです。
なぜファンド・オブ・ファンズにするかというと、海外の資産に投資するファンドを自前で運用しようとすると、ファンドマネージャーの採用や管理部門の整備に多額の費用がかかり、ノウハウの構築にも時間がかかるためです。そのため、多くの会社がファンド・オブ・ファンズという形で海外の資産運用会社に運用を委託しています。
外部委託の実態
日本の資産運用業界で外部委託がいかに多いかを示すデータがあります。
2023年10月4日に内閣官房の「資産運用立国に関する基礎調査」によると、国内の資産運用会社が運用する外国株式のアクティブファンドについては、外部委託運用が89%、自社運用が11%しかありません。外国株のアクティブファンドの約9割が外部委託されているのです。
債券のファンドについてはデータが公表されていませんが、私の業界での経験からすると、株と同様の状況だと思います。また、海外のプライベートエクイティやプライベートデッドなどの専門的な分野では、おそらく100%外部委託されています。
ファンドマネージャーの役割
外部委託をしているファンドの場合、ファンドマネージャーは何もしていないと思われるかもしれませんが、実際には仕事の内容が異なります。
委託先の海外の資産運用会社を選定したり、委託先の運用を評価したりする仕事が主です。一般的なファンドの運用担当者のイメージとは異なるかもしれませんが、投資信託の運用担当者にはこうした仕事もあります。最近は海外の資産に投資するファンドがよく売れているため、資産運用会社の中では外部委託ファンドを運用する仕事が増えています。
ファンドマネージャーはマーケットを常に見ていて、経済の動向に一喜一憂しながら証券を売買しているイメージがありますが、外部委託しているファンドの運用担当者はそうしたことは全く行いません。
基本的には外部の委託先から送られてくる資料をチェックし、それをもとに国内の顧客への説明資料を作成する仕事です。海外時間にマーケットで何かが起こっても特にやることはなく、決まった時間に帰れることが多いです。ただし、海外の委託先とのやり取りが多く、海外出張もそれなりに多い仕事です。
投資家の立場
投資信託に投資する投資家の立場からすると、外部の運用会社に多額の委託費用を払っている投資信託は手数料がかかるばかりで意味がないと思うかもしれません。海外の投資信託に直接投資すれば手数料は安くなるでしょうし、ファンド・オブ・ファンズを買う意味がないと感じるかもしれません。手数料の観点から言えばその通りです。
ベンチマークを上回ることを目指すアクティブファンドではなく、ベンチマークと同じように運用することを目指すパッシブファンドであれば、海外の運用会社が提供するものに直接投資できる機会もありますので、手数料面で考えればそちらの方がはるかに安いでしょう。
アクティブファンドの投資
一方で、海外の会社が運用するアクティブファンドについては、日本国内では提供されていないものも多いため、そうしたものに投資したい場合はファンド・オブ・ファンズで投資するしかありません。
外部委託手数料を減らすのは現実的に難しいです。運用を内製化しようとすると多額のコストがかかり、ファンドマネージャーを採用する必要があります。外部委託先のファンドマネージャーと同程度の能力を持つ人物を日本の会社が採用しようとすると、ネームバリューのない会社の場合はより多くの給料を払わないと人を引き抜けません。運用する資産によっては海外に拠点を設ける必要もあるでしょう。
そうなると結局そのコストは投資信託の手数料で投資家に負担してもらうしかなくなり、手数料が高くなります。同じようなファンドで外部委託しているファンドは手数料が安く、国内の運用会社が自前で運用しているファンドは手数料が高い状態になれば、多くの人が手数料の安い外部委託ファンドに投資するでしょう。
国内投資家のニーズ
この問題の背景には、国内の投資家が海外資産で運用したいというニーズが強いことが大きく影響しています。例えば、アメリカの株に投資したい、世界のテクノロジー企業に投資したい、ベンチャー企業に投資したいというニーズに応えるためには、国内の運用会社では強みを生かせず、海外の専門会社には太刀打ちできません。
国内の投資家の多くが海外ばかりを見ている状況では、外部委託が増えるのは避けられない状況です。投資家が海外資産ばかりに興味を示している状況や、海外の運用会社に払う委託手数料が高額になる状況は、ある程度避けられないことだと思います。
資産運用立国の実現
手数料が海外に流れる状況は、資産運用会社にとっても大きな課題です。国内の投資家が海外資産に興味を持ち続ける限り、この問題は解決が難しいでしょう。日本が投資先として魅力的になることが必要です。確かな技術や多くの人が利用したいと思うサービスを提供する日本企業が増え、投資家が日本企業に投資したいと思えるようになることが重要です。そうでなければ、資産運用立国の実現は難しいでしょう。
政府が進める資産運用立国の実現には、金融だけでなく、実体経済の強化が不可欠です。
総括
引き続き、資産運用業界の動向に注目し、皆様に有益な情報を提供したいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
ご参考