京アニ放火殺人事件初公判
◉京都アニメーション放火殺人事件が、2019年の7月18日、もう4年も経ちますが……。放火した当人が、品詞の火傷を負ったためもあり、裁判は開始するのにここまでかかりました。単独犯としては、1938年の津山事件（津山三十人殺）の犠牲者数を抜き、世界的にも大きな事件でした。アメリカなどでも単独犯でこれ以上の犠牲者数の事件はあるのですが、銃器を使わずに放火による殺人で、ここまでの犠牲者が出たという意味でも。そして犯人は、予想通りに考えが薄い、薄っぺらい思考しかできない、直情径行の粗暴犯という印象を持ちました。
【青葉被告「やり過ぎた」も謝罪なし 責任能力が最大の争点】産経新聞
３６人が死亡、３２人が重軽傷を負った令和元年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告（４５）の裁判員裁判の初公判が５日、京都地裁（増田啓祐裁判長）で開かれた。青葉被告は「こうするしかないと事件を起こしたが、やり過ぎた」と起訴内容を認めたが、弁護側は心神喪失による無罪か、責任能力が認められる場合も心神耗弱にあたるとして刑の減軽を主張した。
青葉被告は丸刈りで、車いすに乗って出廷。後頭部の一部は皮膚が露出し、顔や手の甲にはやけどの痕があった。罪状認否では「こんなにたくさんの人が亡くなるとは思っていなかった」と述べたが、謝罪の言葉はなかった。証言台は透明な板でＬ字型に囲まれた。
ヘッダーはヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇場版ポスターより、
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おそらく当人的には、放火してボヤを起こし、虚位とアニメーションのスタッフたちを驚かせてやろう……ぐらいの感覚だったのでしょう。でも、ガソリンの燃える火力を、まったく理解していなかった。アルコールランプや灯油ぐらいのイメージだったのでしょうね。だから、その火力に巻き込まれた当人も、全身大火傷で瀕死の重傷を負ってしまった。それが「こうするしかないと事件を起こしたが、やり過ぎた」という、知性を感じさせない言葉の意味でしょう。これでは、まともな小説など書けないでしょうね。こんな人間に、貴重な才能を持ったアニメーターたちが命を奪われたかと思うと、悔しいです。
犯人は、自分の惨めな人生の一発逆転のために、なんの実績もないのに京アニ大賞という競争率の高い賞に応募し、案の定一次審査で落ちたのに、それを盗作されたとか逆恨み。これは出版社の漫画賞や小説の賞でもよくあるんですよ、ものすごく凡庸な作品を書いて応募しているのに、盗作されたと騒ぐ投稿者はいっぱいいます。もちろん、投稿作からアイデアをいただく、そういう不心得者の編集者がいないとは言いませんが、大体において凡庸な作品というのは、既成作品にあっちこっち似ているんですよ。というか、著名な作品でもそれは同じです。
例えば、田舎育ちの少女が都会に奉公に出て、最初は言動を誤解されるが次第に周囲の理解を得ていき、特に奉公先のお嬢様の祖母に可愛がられ、学問や女性の自立の大切さを学ぶ……という話、ヨハンナ・シュピリの『アルプスの少女ハイジ』も橋田壽賀子先生の『おしん』も、同じ構造です。でも、おしんをハイジのパクリとは言いませんよね？ あるいは、孤児院育ちの少女が、匿名の支援者によって学び自立し、やがて恋した相手がその支援者だった……という物語の骨格は、ジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』も水木杏子・いがらしゆみこ先生の『キャンディ・キャンディ』も、同じです。
たぶん彼は、死刑は逃れ得ないでしょう。弁護団としては、心神耗弱での無罪、それができなくても情状酌量での死刑回避の減刑、それしか選択肢がないのでしょうね。お仕事とは言え、こんな犯人の弁護をしないといけないという、弁護士の立場には同情します。でも、彼には死刑になるにしろ、こういう浅はかな行動を起こしてしまった人間の、思考パターンをできるだけたくさん、記録に残してほしいです。そうすることで、こういうアホな事件を起こす人間予備軍に対する、警告となるようにしてほしいです。「オマエのその思考、京都アニメーション放火殺人事件の犯人と、同じだぞ？」と。
しかし、近代法はハンムラビ法典をルーツとする、復讐法です。目には目を・歯には歯をの言葉で知られますが、これは目を潰されたら目で償う、消して命を取ったりする不平等なものにしてはいけない、という等価の罰則が基本形です。でも、36人の尊い命と1人の死刑囚。等価には程遠い、なんとも言えないやりきれなさが漂います。生きていたら、多くの人を笑わせ、涙ぐませ、ハラハラさせ、心から楽しませた作品を作れたであろう人々と、ただの自意識過剰の粗暴犯。やりきれない事件です。
どっとはらい……。
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