原作付き映像作品の価値
◉『セクシー田中さん』の漫画家の芦原妃名子先生が亡くなられたことに関して、映画会社の各社長がコメントを出しています。映画会社に関して言えば、昔はアニメや漫画原作の作品などを馬鹿にして、原作を好き勝手に改変する映画監督が普通にいました。現在でも、そういう空気は濃厚にあるように感じるのですが、さすがに経営のトップとしては、コメントを出さざるを得ないでしょう。その点に関して、少し考察してみます。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ゴジラのイラストです。映画で検索したら、出てきましたが、ある意味で日本映画の象徴ですからね。特撮もバカにする映画マニアもいますが。
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■映画業界の危機感■
本題に入る前に。言い訳のような公式コメントを出した日本テレビですが、他社が何かやらかすと、やれ記者会見を開けだの第三者委員会を設置しろだの、居丈高に説教するのですが。今回はスルーする気満々ですね。元々そういう体質の会社だと思っていますので、特に驚きはないです。今回の件は明らかにプロデューサーの力量の問題。過去にも同じような、トラブルを起こしているのですから。
正力松太郎・務臺光政・渡辺恒雄と、常にトップに 独裁者を頂いてきた 読売グループの日本テレビ、まぁトップが独裁者で独断専横をするのを是とする社風であるならば、やはり社員にもそういう社内文化は反映されると考えるのは、妥当でしょう。もちろん個々のプロデューサーなどによって、温度差やグラデーションがあるのは、中学生以上の常識がある人間ならば、言うまでもない前提ですが。この問題に関しては、あまり語りたくもないので、ここで止めておきます。もへもへ氏が代弁してくれていますし。
なぜ、当事者である日本テレビのプロデューサーはもちろん、日本テレビの石澤顕社長が公式なコメントを出していないのに、日本の名だたる映画会社の社長たちが、即コメントを出したのか? それも 原作者の側に寄り添う形でのコメントを出したのか、そちらについて分析を以降で数字を分析しながら。答えは簡単で、日本の映画界は漫画や小説、ゲームなどの原作なしには、成り立たないからです。
■本質は予算の問題■
まず基本的なところとして、2023年の興行収入トップ3が、全部アニメ映画という現実があります。アニメに食べさせてもらっている日本映画という現実があります。しかも『SLAM DUNK』も『名探偵コナン』も漫画原作のヒット作。スーパーマリオ・ブラザーズは言うまでもなく ゲームから生まれたヒット作。マリオはアメリカ映画ですが、この3作品の興行収入で428.7億円にもなります。邦画の興行収入が1481億8100万円ですから、28.93%に該当します。
なるほど、これでは映画会社は漫画・小説・ゲームの原作付き作品に対して、配慮せざるを得ませんね。いくら跳ねっ返りの監督や映画芸術などが、アニメや漫画原作作品を馬鹿にしても。小説や漫画の制作費に比較して、アニメやドラマや漫画は予算が桁違いです。30分のTVアニメの制作費は1話あたり1300~1500万円ほどとか。プライムタイムのTVドラマは平均約2000~5000万円。これが映画だと、億単位になる作品も多く。大作だと、20億とか30億ですから。
これでは、失敗した時のリスクが大きすぎます。オリジナル脚本の映画企画に、プロデューサーが二の足を踏むのは当然ですね。やはり、漫画や小説でヒットした実績がある作品だよりに。ただ逆に言えば、テレビ業界は映画業秋ほどの危機感はない、ということでしょう。映画の10分の1や100分の1の予算ですから、まだまだオリジナル脚本の作品も多く、漫画原作をバカにする空気(ニューマ)が根強いのでしょうね。昔は、映画業界はテレビドラマをバカにしていたんですが、これも時代の変化でしょう。
■原作付きが26本も■
では、2023年の邦画界全体はどうだったかと言うと、ちょうどこんなデータが出てきました。興行収入10億円以上の作品は34本で、その合計1139億1000万円とのこと。上位10本中6本がアニメ作品という、映画芸術スタッフの目から血が出そうな状況です。2022年は10億円超えた作品が26本だったのですから、もっと悲惨。こちらのオリコンニュースのデータも、備忘録も兼ねて転載しておきますね。末尾に、アニメは🔴、漫画原作は⚫、小説原作は🔵、ゲーム原作は🟡、テレビ作品の劇場版・またはテレビ版が有る作品は🟢を、付けておきました。
アニメ🔴12本、漫画原作⚫19本、小説原作🔵6本、ゲーム原作1本、テレビ作品の劇場版・またはテレビ版が有る作品🟢16本でした。ただし、重複も含みますので注意を。漫画・小説・ゲームの原作付きが26本です。もっとわかりやすく言えば2024年の邦画界は、10億円超えたのが34作品で、その中で原作がない作品は、以下の6本。北野武監督『首』は、2019年に出した小説原作ですが、映画化前提の作品でしょうから、いちおうオリジナルに加えます。同じく北野武監督原作小説のアナログですが、発売時期が古いので原作有りにカウントしました。
『君たちはどう生きるか』は映画芸術が馬鹿にしているアニメですし、ゴジラは伝統ある揺るぎないシリーズコンテンツですし、『憧れを超えた侍たち』はドキュメンタリー映画です。本当にオリジナル脚本とオリジナルキャラクターで勝負した実写映画は、『レジェンド&バタフライ』と『怪物』と『首』だけってことになってしまいます。14位・22位・29位と、もうほとんどの上位作品が、アニメ・漫画原作・小説原作・テレビの知名度がすでにある作品になってしまいますね。
■分母が違いすぎる■
邦画興行収入の全体1481億8100万円の内、1139.1億円が34本で占められていて、この比率は76.87%にもなります。原作付き以外の上記6本の合計が、195.3億です。この6本は34本1139.1億円の中の17.14%に過ぎないです。他のオリジナル作品の興行収入は、たぶん15%ぐらいでしょうか? そりゃあ、映画会社原作物を無視できないですよね。この状況が、映画>テレビドラマ>アニメのヒエラルキーを勝手に持っている脚本家には、不満で不満で、漫画原作や小説原作を攻撃するんでしょうけれど。でも、ちょっと待ってほしいです。
日本シナリオ作家協会もありますが、会員数は良くわかりませんでした。公益社団法人日本漫画家協会の会員数が2700人ですから、たぶん脚本家は多めに見積もっても3000人ちょっとでしょうか? 小説家・漫画家・ゲームシナリオなどの合計はたぶん、脚本家の5~10倍はいる計算に。分母が違うのですから、15%はむしろ健闘しているほうですし、映画会社もチャンスは与えていると、推測できるのですが。実写系の脚本家や監督には、漫画原作がドラマをダメにするという人も。
でも、脚本家が漫画家や小説家の10倍の才能がないと、それは傲慢でしょう。また、小説は『小説家になろう』で登録者数240万人以上、掲載作品は120万9304作品。プロの小説家になれるのは0.3%程度で、その背後には膨大なアマチュアの、厳しい競争があります。それはアマチュア漫画家にしてもそうで、コミケの応募サークルは4~5万。アマチュア漫画家の推計はないのですが、全国で数十万人でしょうか。ところが脚本家のアマチュアって、独立した市場がないんですよね。
■アマチュアの裾野■
ヒットした映画やテレビドラマは、脚本がシナリオ集として出てくることはありますが。でも、脚本は映像作品を作り上げる骨格であって、そこに役者や監督や演出や音響や衣装や……が加わって、初めて映画やドラマやアニメになるものですから。それ自体を読んでも、あまり面白いものではないんですよね。必然的に、アマチュア脚本家の分母も、そこまで多くないだろうというのが、推測できます。その割には、頑張っているとは言えますが。
投稿サイトがある小説、出版社を通さないSNS発のヒット作さえ多数ある漫画に比較して、脚本はアニメドラマ映画にならないと評価が難しく。であるならば、自身の脚本案を小説仕立てにして、小説投稿サイトにアップして人気を得て、プロデューサーがドラマ化や映画化を依頼してくるように仕向けるのも、ありでしょうね。なろうやカクヨムなどの投稿サイトなら、シナリオ形式のままでも、普通に評価されますし。面白い作品なら、全体を上げなくても、導入部で惹きつけられますしね。ただ、こういう意見もありますが。
この問題は漫画原作者でもありますが、逆に言えば、小説や漫画原作と脚本の最大の違いは、地の文をどう書くかの問題ですから。ここをある程度クリアできれば、脚本家は小説家と兼業できます。逆に、小説家は場面の画作りの意識を持てば、漫画原作やシナリオへの応用も、かなり楽になるはずどぇす。著作人格権のことを考えれば、むしろ最初に小説として評価を得ることは、有利な面も。
プロが無料で作品を上げるなんて……という人もいるかもしれませんが。小説より手間がかかる漫画でも、無料でSNSに上げてヒットにつなげた作家は、多数いますから。MANZEMI講座的には、漫画と小説と脚本の、横断的な作話技術を夢想していますので、ここらへんは興味がありますし。そこら編を協力しあえれば、才能の発掘にお互いの業界が益すると思います。原作付き作品を逆恨みしたり、比較的オリジナル作品が作れるアニメを攻撃する実写映画の関係者は、論外ですが。
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