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投稿作にありがちな問題点①

◉Twitter上で、小説の賞の下読み中らしき方が、非常に有益な指摘をされていて話題でしたので、noteにも転載しますね。杉江松恋さんはプロフィールによれば、書評中心のライターとのこと。いわば、作品を読むプロ。分量はけっこうありますが、読み応えもあります。

これに対して、ゆうきまさみ先生もさっそく反応。内容的には、クリエイターならグサグサ刺さる内容ですから、当然ですね。身に覚えのある小説家・漫画家・脚本家は、多いでしょう。ゆうき先生とはもちろんレベルが違うんですけど、気持ちは多少解りますので。

せっかくですので補注というか、漫画における応用やら注意点を、書いておきますかね。自分は編集時代は、漫画賞の担当を少女誌でも少年誌でも長く担当しましので、一次審査で落ちるレベルの作品も、たくさん読んできました。

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■蘊蓄をひけらかし系の問題■

三宅隆太監督も指摘されていましたが、映画脚本でも蘊蓄を垂れる系の作品と、窓辺の少女系の作品が、かなぁ〜り多いようで。軍事ヲタとか、アニメ『ガールズ&パンツァー』の大ヒットで、勘違いしちゃった部分があるようで。あれは人間ドラマの基本が、『キャプテン』や『ドカベン』などの、王道中の王道を基本に置いてあって、戦車の蘊蓄はあくまでもキャラクターに奉仕してますんで。

では、知識ひけらかし系の作品が、イヤミにならないようにするには? 状況が解らない素人キャラを出し、その子に質問させ、知識のひけらかしが自然になるようにするのが大事。でも、素人キャラは読者の代弁者ですから、一般人は何が解らなくて何に興味ないか、作者は客観視が必要。ただの相槌キャラにしちゃ、退屈です。漫才の掛け合いのように、ボケて突っ込んで切り返して、笑いで蘊蓄をくるむ技術があると良いでしょう。難しいですが。

■世界観がボンヤリしてる問題■

これまた、『えんとつ町のプペル』でも批判した点と被りますが。そういう社会になったには、少なくともその世界での必然性が必要なんですけどね。全体主義とか実感がない世代のはずなのに、60年安保や70年安保の時の気分のママで、そういう世代が作った作品の世界観や手法を、無批判に踏襲していませんか? ファンの方には申し訳ないですが、小説や絵本では説得力持たせられても、アニメや映画になると嘘くささがあからさまになりがち。

プペルもそうでしたし、映画になった『図書館戦争』とか『デスノート』とか。現代の目から見たらバカバカしい禁酒法だって、アメリカの対ドイツ感情の悪化と、アメリカ国内のビール製造をドイツ系移民が担っていたこと、プロテスタントの禁欲的な文化が背景にあって、あんなトンデモな法律ができちゃったわけで。そういうの勉強すると、多少は得る物ありそうです。

■時代小説・歴史小説の問題■

これって、ミリタリー蘊蓄ひけらかしとおんじで、調べた歴史的事実をダラダラ並べてしまいがち。この原因のひとつに、パブロフの犬状態があるのかな、と。パブロフの犬は、本当はエサをもらえると予想してヨダレが出てるのに、そこでベルの音を聞かされて、条件反射ができちゃってるわけです。これって、作家も陥りがちなんですよね。人間ドラマに感動したはずなのに、戦車に感動したと誤解しちゃう。

歴史物も、同じなんですよ。織田信長がイチかバチかの勝負を前に幸若舞を舞う、その気持ちに感動したはずなのに、幸若舞に感動したと勘違いしてしまう。また、森鷗外とか吉村昭の時代小説って、客観的記述で人間を浮かび上がらせちゃう名手中の名手なのに、これを表層だけマネしちゃう。実相観入、という俳句理論にも通じますが。それって相当上手くないと、難しいですから。

■場面転換の意識が低いの問題■

プロデビューした教え子が、しばらくして相談に来るにが、場面転換なんですよね。繋ぎが、難しいと吐露します。投稿作は、ジックリ時間をかけてやれますし、1ページや2ページの過不足は、お目こぼしの内。でも、プロになるとページ数がシビア。そうなると、削らざるを得ない部分が出てきますから、そこの継ぎ接ぎが、難しいです。その繋ぎが上手いのが、たがみよしひさ先生ですが。

この『滅日』という作品は、セリフで場面を繋ぐ巧さが目立ちますが。もともと、たがみ先生は推理小説大好きで、『NERVOUS BREAKDOWN』という推理漫画の傑作もありますし。構成力を学ぶという点で、自分が真っ先に挙げる作家ですが。同様に、辻真先先生をして構成力の凄さに脱帽した名手・横山光輝先生とか、学べる人は多いです。小説家志望なら練習でこれらの先生の作品をノベライズする練習も有効でしょう。

■冒険小説のアクション問題■

実はコレも蘊蓄ひけらかし系や、時代小説・歴史小説の問題点と本質は同じ。キャラクターに思い入れができていないのに、アクションを連発されても、ハラハラドキドキはしないのです。繰り返し持ち出して申し訳ないのですが、『えんとつ町のプペル』のトロッコのシーンや、ストリートでのダンスシーンがそうです。動きはスゴく良いのに、思い入れがないので、心に響かないんですよ。原作の絵本を読んでない人には。

逆に言えば、思い入れができちゃえば、そんな派手なアクションなんかなくても、指相撲でもハラハラドキドキしながら読めるんです。そのためには、キャラクターに思い入れを持たせるエピソードを左ジャブとして打ち込み、相手を切り崩してから右ストレートを打つべし! こちらも、右ストレートが印象に残ってパブロフの犬状態になりがちですが、実は何気ない左ジャブが実は大事ですから。

■キャラの内面と外面の不一致■

実はコレも、パブロフの犬状態が問題。なんの理由付けもなく登場人物を金銀妖眼にしたり、巨大な剣を持たせたりとか、してませんか、と。それって、実は上の法律問題とも同じなんですよね。で、なぜそうなるか? 原因の90%は、自分の好きな作品の劣化コピーだからです。他人の設定や世界観の借り物だから細部が雑になるんですよね。そして、キャラクターに自分が投影されていないので、設定が雑でも気にならない。

ここら辺は、ウチの講座でも3種類のメソッドを用意して、特に力を入れていますが。けっきょく、キャラクターが立っていない・パブロフの犬状態になってるの二大問題点が、形を変えて投稿作に噴出してるってことが、だんだん見えてきましたよね? そういうことです。小池一夫先生の劇画村塾で、徹底的にキャラクター主導型の作品作りを叩き込んだのは、それが最大のハードルだからです。

ウチの講座ではキャラとワザの一致は、アイコン論としてガッツリやります。

■パターンにハマりすぎ問題■

コレはちょっと難しくて。もっと低いレベルだと、パターンにさえハマっていない問題があります。とにかく、作品がどっちの方に行くかまったく見えず、バランバラン。で、読む方は辛くなるんですよ。なので、先ずはちゃんと読者が読めるテンプレートに当てはめる必要があるんですよね、90%には。それができるようになって、ようやく次の段階として、パターンを崩す段階に入る訳で。

〝崩れてる〟と〝崩している〟は違います。崩れてると作品がどっちの方に行くかまったく見えないのですが、崩していると作品がどっちの方に行くかまったく見えないのに興味が持続して、惹かれるので。なぜそんな違いが出るかと言えば、崩してもテンプレートの残り香があるので、そこを手掛かりに方向性を予測できるのです。そこで、読者の予想を当てつつたまに外す、その押し引きのバランスが難しいのですが。

■出だしで読者を掴めない問題■

あさりよしとお先生は、漫画だと扉ページをめくって最初の見開きページ、つまり2ページ目と3ページ目でとにかく事件を起こして読者の興味関心を引け、と書かれていた記憶が。コレは、漫画の投稿作ってだいたい30ページ前後、講談社のちば賞でも45ページなので、ムダなページが浪費できないんですよね。これって、アニメなら15分から22分ぐらいの尺ですから。30分二本立てか一本の長さ。

杉江さんが読まれてる小説の規定は解りませんが、講談社の江戸川乱歩賞が400字詰め原稿用紙350~550枚、早川書房のアガサ・クリスティー賞が300~800枚、新潮ミステリー大賞が350枚以上、光文社の日本ミステリー文学大賞新人賞が350~600枚ですか。だいたい350枚から550枚ぐらいが標準でしょうか。単純計算で14万字から22万字。実際の文字数は10万字から15万字ぐらいでしょうか?

これって漫画なら、だいたい120ページから200ページぐらいに相当します。尺が長いので、つい出だしはノッタリユックリジックリ、書いてしまうのでしょうけれど。60分のテレビドラマや100分の映画が、そんなにノンビリしてるにかって話です。例えば『ルパン三世 カリオストロの城』って、始まってからルパンたちが逃げ、ゴート札に気付いてばら撒き、主題歌に入るまで、たった2分13秒です。

漫画なら5〜6枚、原作でも400字詰め原稿用紙で同じ枚数ぐらいで脚本を書きます。映画シナリオ──ハリウッド方式のシナリオだと1分1枚が定番──なら2枚ちょっとに該当します。こう考えると、エンターテイメント系の小説なら、最初からムダ二ページを浪費する暇はないはずなんですけどねぇ……。

■流行を追って埋没する問題■

時事を追いかけるのは、ダメとは言いませんが。昔、ストーカーという言葉が流行ったとき、テレビドラマはストーカーネタがワンサカワンサカ。おまえはレナウン娘かと、昭和のオッサンは思ったのです。自分が編集をやってた十数年前も、やれツンデレだメイドだのなんのと、流行を追う人がいましたが。プロになる人って、流行を絶対に追わないぞみたいな、へそ曲がり多いですけどね。

で、現象の下にある構造を書くってのは、キャラの内面と外面の不一致の問題とも繋がる問題なんですよね。このロックダウンなりで感じた閉塞感を、別の形で表現するのが大事。内側にある思いを、外側に表現するのは別の形にする。レーガン大統領やサッチャー首相の新自由主義への反発をロボコップで表現したり、ベトナム戦争敗戦をSTAR WARSで表現するように。表層をまねちゃ、底が薄くなります。

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7500文字を超え8000文字に近くなったので、ふたつに分けます。『投稿作にありがちな問題点②』に続きますm(_ _)m 長さ的には有料でも良いのですが、他人のフンドシですからね。気に入った方は、サポートで投げ銭をお願いします。あるいは、拙著をお買い上げくださいませ。

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喜多野土竜
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