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アニメーターの月収:日本は中国の3分の1
◉中国の共産党幹部は『カンフー・パンダ』を観て、なぜ我が国はこういうアニメを作れないのかと嘆いたそうですが。実際、これからは物作り(第二次産業)からコンテンツビジネス(第三次産業)だと解っていて、力を入れていますから。自分はアニメの専門学校で中国人留学生を数百人教えましたが、彼らは意識も高くマジメで、熱心でした。居眠りしてる日本人留学生より、はるかに。
【「日本人なら中国人の3分の1で済む」アニメ制作で進む"日中逆転"の深刻さ】プレジデント・オンライン
日本のアニメスタジオが、中国企業の下請けになるケースが増えている。新聞記者の中藤玲さんは「中国の求人サイトによると、アニメーターの平均月収は杭州では3万4062元(約52万円)。一方、日本では月収17万5000円でも業界平均よりずっと高い。中国と日本の関係が逆転しつつある」という――。
(中略)
実は彼らが描いているのは、中国のヒット作品「マスターオブスキル」などの作画。そう、カラード社は中国重慶市のアニメスタジオ・彩色鉛筆動漫の日本拠点であり、中国アニメの制作をサポートするために2018年に設けられた。
最近では彩色鉛筆動漫のように、日本に拠点を作って日本人アニメーターを抱え込もうとする中国企業の動きが増えている。
アニメを子供向けの幼稚なモノという、50年前の認識のままの日本の現状では、こういう逆転も必然です。世界に通用したコンテンツが、貧乏ブラック業界の代名詞みたいになってしまった状況を招いたのは、手塚治虫先生に濡れ衣を着せて現状改革を怠った、宮崎駿監督らの世代の問題でもあるんですけどね。そして、こういう批判をすると、感情的に反発して擁護に走る、贔屓の引き倒しファンの問題でもあるのですが。
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■アニメーターは才能の世界■
いちおう擁護しておくと、技術もろくに無く、適性も不明な駆け出しのアニメーターが貧乏なのは当たり前です。駆け出しの芸人──落語家や漫才師など──が貧乏なのは、当たり前ですから。プロ野球の育成契約選手が、支配下登録のタイトルホルダーと差があって当然なように。そこを一緒くたにして、平均月収とするのは、疑問です。アニメーターは推計で、全国に4500-6000人ほどしかいない、才能の世界ですから。
医師国家試験に合格して厚生労働省に登録している医者の数が、2016年末で31万9480人、歯科医師数は10万4533人、薬剤師数は30万1323人ということを考えれば、どれだけ稀少な才能の世界か、解るでしょう。これらは難関と呼ばれる国家試験を突破して、ようやくなれる職業ですから。アニメーターって、100mを10秒台で走れるような、稀少な才能なんですよね。これは漫画家も同じ。
■事務方軽視の日本の問題■
でも、その才能に見合った年収を得ているかといえば、それは一握りでしょう。その貧乏体質の原因は、手塚治虫先生ではないことは、とっくに検証されています。要は、ビジネスとしてのアニメをキチンと食える商売にできなかった、後進の問題です。具体的には、高畑勲監督や宮崎駿監督らの世代の。経営のプロがいなかった、業界全体の問題であって、構造の問題でもありますが。
中国では、北京大学のアニメ研究会ですら、600人も在籍しているとか。日本でいえば、東大にその規模のアニ研があるわけで。もちろん、他のトップクラスの大学でも、かなりの数のアニメファンがいるわけです。そういう人が数%でもアニメ業界に入れば、彼らは絵は描けなくても、営業・販売・管理・法務・海外事業・版権管理などで、大きな力を発揮するでしょう。ビジネスではアニメーターより、そっちが大事。
■兵站軽視の悪しき伝統■
作家性、大事。そこは一ミリも批判はありません。でも、そこで終わって締まってはダメ。本田宗一郎に藤沢武夫のようなNo.2がいたように。かつて日本には〝輜重輸卒(しちょういそつ)ガ兵隊ナラバ 蝶々トンボモ鳥ノウチ〟という言葉がありました。日露戦争のときのざれ歌だそうですが。輜重兵とはは軍隊で、兵糧・被服・武器・弾薬などの軍需品を前線に輸送・補給する兵隊のことです。
輜重兵将校には当初、陸軍大学校の受験資格がなかったりと、兵站軽視は日本の骨絡み。これがインパール作戦やガダルカナル島での悲惨な結果に繋がっています。これは、豊臣秀吉の朝鮮出兵での、加藤清正ら武断派と、石田三成ら文治派の対立にも繋がっています。前線で命懸けで戦う兵士が偉いというのはそうですが、だからといって裏方を軽視するのも間違いなのに。ここが日本文化のダメなところ。
■官僚と良き君主の関係■
例えば、漢王朝の高祖・劉邦は建国の功臣について、実際に軍隊を率いた国士無双と評された将軍の韓信でも、天才軍師であった良張でもなく、裏方として食料と武器と兵士を送り続けた蕭何を、第一の功臣としたわけで。劉邦が秦の都咸陽を占領したとき、蕭何は秦の歴史書や法律文、人口などの記録などが保管された文書殿に向かった訳で。こういう優秀な官僚は、決断できるトップがいてこそ輝くわけで。
本来ならアニメ産業も、キチンと産業として世界を相手にどう闘うかのビジョンを持った人間が、才能に見合った報酬を与えるシステムを作らなければならなかったのに、作家主義が強すぎて、そうならなかった。ジブリの鈴木敏夫プロデューサーも宮崎駿監督も、高畑勲監督に何十億もの金を浪費させて、それに歯止めがかけられなかったわけで。それは経営のプロが存在しない証拠です。
■今こそ米百俵の精神を■
阪急グループを率いた小林一三は、優れた経営者でしたが、同時に文化が解っている人でした。鉄道沿線の付加価値を高めるため、動物園や大浴場、プロ野球球団を建てたのですが。箱物を置くだけでなく、宝塚歌劇団を育てるに当たって、部下を欧州やアメリカに派遣し、徹底的にショービジネスを学ばせたわけで。日本のアニメスタジオに、そういうビジョンがあるかという話です。
旧帝大一工卒業レベルの、アニメへの理解がある人間を雇って、アメリカの大学に留学させて向こうのビジネスや組織論を学ばせる、そういうビジョン。高畑勲監督が『かぐや姫の物語』溶かしたとされる30億とも50億とも云われるカネの、1億円もあれば簡単にできたはずです。アニメーターの賃金を上げろ上げろと言っても、現状は変わらないでしょうね。妙なコンサルに食い荒らされるだけ。
昨日かいたこととも重なりますが、令和の世にはそこを両立できる構造改革を願います。
どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ
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