道ならぬ恋と昔々の口説き文句
『三銃士』を読んでいたら、優男がお妃さまを口説くシーンがあったのだけど、この辺の時代の男性の口説き方ってストレートで、完全に押しまくるスタイルが多い。もう駆け引きとかではなく、何を言われても、めげないで口説く。いや、その何を言われても押しまくる様式こそが駆け引きでもあるのだけど、完全に好き好き大好き超愛してるモード。
あー言えば、こういう、みたいなことばの遊戯のようなやりとりにはある種の予定調和を感じてしまうことがほとんどだが、遊技というのはルールに従った様式美もこれまた面白いわけで、普通はそこをニヤニヤと楽しむものなのだろう。けれど、『三銃士』で見かけた一節だけは、想定を超えたドM発言で新鮮な驚きと共に、気に入ってしまった。
「われわれはもう二度と会ったりしてはならないと、申し上げたいのです」
「お話しになってください。お妃様、いくらでもそうやってお話しになって。あなたのお声の優しさが、お言葉のきびしさをよく和らげておりますから。」
これ、最強の返しなんじゃないか。どんなに強烈に断られても、「あなたのお声のやさしさが、お言葉のきびしさをよく和らげておりますから~」と言ってしまえばいいので。逆にこいつは、人の話なんも聞いてないというか、都合の悪いことはお声のやさしさしか聞いていない。もはやメンタルが鋼と言うか、ダイアモンドクラスでないと使いこなせそうにはないし、女性の側からしたら、底知れぬ不気味さを感じる最恐ストーカーになりかねないのだけど⋯⋯。
さらにこの男、会ってくれないなら戦争するぞ、みたいなことも言うのだけど、それは別に脅そうとかそういう意図ではなく、戦争すれば講和条約を結ぶことになるでしょうと、そうしたら私が使者になるのであなたに堂々とお会いできますという思考回路。
あぁ、道ならぬ恋に振り回される両国民に幸あれ!
*カヴァー写真はベルサイユ。