記憶は筋トレ | 学びのメソッド
人間の記憶は、知れば知るほど曖昧でいい加減だ。
昨日名刺交換した人の名前は何だっけみたいなことは日常茶飯事だし、セロリを買ってきてと言われてパセリを買ってきてしまう、といった記憶の勘違いもよくある。
これぐらいならまだ可愛いもので、もっとひどくなると記憶の捏造すらある。これは人が意図して起こしているのではなく、特定の状況下では誰でも無意識に捏造してしまう可能性がある、という点がとても怖い。
有名の例では、殺人事件などの証人の話がある。取り調べの過程で「あなたはこういう人をこの時間に見ませんでしたか?」とか「犯人はこの顔ではなかったですか?」などと何度も聞かれていると、見ていないものを見てるように、犯人ではない顔を犯人と同一だと、記憶が勝手に捏造されてしまうことが実際にある。
セロリとパセリぐらいであれば笑い話で済むけれど、証人の記憶の話になると心穏やかではとてもいられない。しかし、僕らはどうしたってこのいい加減な記憶に頼って生きるしか今のところ術がない。だから記憶は誰にとっても悩ましい。
個人的には、この記憶のいい加減さを受け入れた上で、上手に付き合うことが大事ではないかと思っている。
ほとんどの人間は機械のように、一発で正確になにかを記憶することはできない。
こう割り切って記憶と付き合ったらどうだろうか、というのが僕のスタンスだ。このスタンスに立って、記憶の仕組みを客観的に紐解いていくと、このいい加減で愛すべき記憶との上手な付き合い方が見えてくる。それがこの記事のタイトルである「記憶は筋トレ」という話だ。
記憶について
記憶にも種類がある。一番ポピュラーな記憶の種別は恐らく「短期記憶」と「長期記憶」ではないだろうか。これは言葉の通り、名刺交換した人の名前のように「短期間」で忘れてしまう記憶と、卒業した小学校の名前のように「長期間」保持される記憶である。
記憶の種別に関して言えば、ここから更に細かく分類することができる。ただ、今回は一旦この2つの記憶に関して考えてみたいと思う。
この2つの記憶「短期」と「長期」の記憶は明確な違いがある。それは「脳の物理的な変化」があるかどうか。
長期的な記憶が形成される際には、脳の中では神経細胞の結合という物理的な変化が起きている。これをニューロン(神経細胞)のシナプス結合という。このシナプス結合が起こることで、記憶は長期間保持されるようになる。逆に言えばシナプス結合が起きなければ、記憶は短い間しか保持されない。
つまり、長期間覚えておきたければ、シナプス結合を起こす必要がある。
どうすればシナプス結合は起きるのか
だとすると問題は、どうすればこの「シナプス結合」が起きるのか、ということになってくる。今現在わかっていることをまとめていくと、どうやらそれには「予想外」の「反復」が重要らしい。
反復に関して言えば、誰しも一度はなにかを覚えようとして繰り返し言葉にする、書いてみるなどの経験があるんじゃないかと思う。そしてその結果として、大して上手くいかなかった思い出もセットになっている人は、自分だけではないと信じている(願望)。
単純な反復は忘れやすい。ではどうするか。キーワードは「予想外」だ。実はシナプスの結合は「予想外」に直面すると結合が促進されやすい。
脳としては何でもかんでもシナプス結合させていたら、高コストすぎてとても追いつかない。だからこそ「予想外」という注目すべき事象に絞って、よく記憶するような仕組みを取っている。
そして、この予想外という言葉の範囲として含まれることは割と広く、「こう思っていたけれど違った」ということに加えて「これは知らなかった」や「一度触れた情報なのに忘れてしまっていた」なども含まれる。
注目したいのは「忘れてしまっていたことを思い出す」ことも、シナプス結合を促進させるということ。つまり、
何かを記憶する場合、短時間で反復するのではなく、一度忘れて思い出すということをした方が記憶が定着しやすい。
記憶は筋トレ
忘れたタイミングで思い出す。このシンプルな戦略が記憶を強化する。そしてこれは何かに似ていないだろうか。そうそれは「筋トレ」だ。
筋トレもトレーニングで傷ついた筋肉を一定期間休ませて回復したところで、再度繰り返すことが効果的だと言われている。
一度忘れて=休ませて、思い出す=トレーニングする。
記憶の定着は筋トレそのものなのだ。マッチョな人たちが自分の筋トレ後に増えるであろう筋肉に想いをはせるように、何かを記憶したい人は自分のシナプス結合に想いをはせよう。そして、それは忘れた瞬間にやってくるということを決して忘れずに。
この忘れて思い出すという記憶の方法は「間隔反復学習」と言われている。詳しいやり方はこちらの記事でまとめているので、参考にしてみて欲しい。
さいごに
今回は記憶の話を本当に簡単に書いてみた。この領域は掘れば掘るほど、面白い発見が山のようにあって、全く飽きない。これからも自分が出会ったこの面白さを、少しづつ発信していけたらと思っている。