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第21首:レシートと 共に出てくる クーポンで 喜ぶ客は よく買う客だ
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増える無人精算機。でもね…
ここ数年で店のレジの無人化が進み、いつのまにか人と接することなく買い物ができる世の中になりました。そのうちタッチパネル上で指を動かすことも不要になりそうです。
デジタル化で、人間本来の機能である体を動かすことや、言葉を交わす機会がどんどん失われ、さらにはChat-GPTに思考を許して、霊長目ヒト科ヒト属ホモサピエンスはこれからどう進化(退化?)していくのでしょう。
そんな憂い交じりの疑問にボーッとする私に、
「その前に自分の退化を心配しなさい!」
と、心の中でもう一人の私が説教します。世の中を心配する前に、自分を心配しなくてはならない歳です、本当に…。
買い物嫌いの私にとっては御朱印状の『クーポン』
スーパーの玉子売り場に行くたびに、なぜか物価高や社会保険料負担増への不満?不安?に襲われ、背中を丸めて年貢米を担ぐ悲しい農民の姿をした自分の姿が頭の中に浮かびます。暗い空想で私は一気に落ち込みますが、
「フフッ、私にはとっておきのアレがあるから大丈夫。元気を出そうね!」…と、我に返り、財布を取り出し、ポケットの中を探すのは…
ザ・クーポン!
でございます。
スーパーでレジ精算をしたときに、レシートと共に、巻き物を広げたようにズルズル~ッと出てくるアレ、お店のクーポンをご存知の方も多いことでしょう。
実は、つい最近まで、クーポンは速攻ゴミ箱行きでした。レジ精算後はサッサと撤収したいし、帰宅後に改めてチェックするなんて、おおさっぱで面倒くさがりの私にはできません。クーポンの内容なんて確認することなく、サッカー台(レジ後に荷物をまとめる台)の下にあるごみ箱にポイッしていたのです。
ところが、ある日のこと。レジで私の前の人が精算している様子がなんとなく目に入ってきたのです。
お客さん(レジ係に紙切れを渡す)
レジ係「クーポンご利用ですね!」
(ピピッ…)
レジ係「お会計金額が変わりまして…」
(清算金額の表示がパッと変わる)
私(オイオイ!あれは…あれは何?)
お客さんは私がいつも捨てている紙の切れ端、クーポンをレジ係に渡すと、レジ係はピピッとクーポンに印刷されているバーコードを読み取っていました。
「気になる…なんとしても気になる…」
思い返してみれば、私もずっともらっていました、あのクーポン。
利用回数が少ないほどおトク?!
続いて、私のレジが終わると、レシートと共にやはり出てきましたよ、クーポンが。
あらためて内容を確認すると、
お気に入りのクラフトビールが単缶150円引き!!!!
「Oh~,Jesus!!」
思わず口から出ていました。頭の中で舞う紙吹雪、流れてくる「オ~レィ!」のマツケンサンバ!
クーポンってこんなおトクなものだったの~!?と大興奮し、その日から、なんでもクーポン、かんでもクーポン生活が始まったのです。
クーポンを集めてニンマリ…
我が家の近所でクーポンを出すスーパーは3店舗。行きつけはそのうちの1店。
まずは、クラフトビール(単缶)の150円引きからスタート。1本じゃたりないから、ほかの銘柄も何本か買って…レジへ向かうとまたクーポン♪
こんどは、違う銘柄のビール(単缶)50円引きが数枚。そして、つまみになりそうなスナック菓子の20円引きが1枚。
「おぉ…つまみ用クーポンもあるなんて気が利くのぉ~♪」
次回は、このクーポンでお買い物。すると、次はまた別の銘柄の、今度は発泡酒(6缶パック)の50円引き…
「ん?…もしかして、どんどんハードルは…上がってる?」
最初はクラフトビール1本150円引き
そのつぎは別の銘柄のビールの1本50円引き
こんどは、発泡酒6本で50円引き
…少しずつ、お値引き感は減らされているようです。が、本来、お酒は値引き対象外が多い商品なので、「ありがたき幸せ」と頂戴し…ささやかな喜びを味わう買い物が数日続いたある日のことです。
いつものように、使用期限をチェックしたクーポンを手にレジに向かうと、な、なんと!出てきたのはインスタントコーヒーのクーポン!(涙
「酒ばかり飲んでないで、たまにはコーヒーでも飲みなさいよ」とでも言いたいのですか、レジさん!
我が家のコーヒーは豆なのでこのクーポンは残念ながらゴミ箱行き。で、持ち札が無くなり~「もうギブです!」状態に。
買い物嫌いの私のモチベーションを上げてくれていたクーポンが無くなると、ボードゲームで負けたような何とも言えない悔しい?悲しい?寂しい?気分に…。
神様はいるのです!!
クーポン無しの買い物は、今月(5月)届いた自動車税納税書類をもって銀行へ行くのに似ています。「必要なのは解っているけど…気乗りしない…」なんか、どこか損した気分。
ゴミ箱に捨てるつもりのインスタントコーヒーのクーポン片手にサッカー台(荷物を詰めるところ)に移動して、「ヨッコラショッ…」と商品が入った籠を乗せようとした場所に、なにか白いモノが置かれているのに気がつきました。
な、なんと!!!!
そこには、なぜかクーポンの束が!!!!
「え?!」
驚いた私は、周りを見回します。私と同じくクーポン生活をエンジョイしている人がうっかり置き忘れたのだったらかわいそう。探しに戻ってくるかしら?店員さんに届けるもの?いや、お財布やお金じゃあるまいし…。
しばらくそこでグズグズして、取りに戻ってくる人がいないかと見回したのですが、私一人以外だーれもいません。
「要らなくて、捨てるつもりで…ここに?!?!」
ゆっくり自分の荷物をまとめた私は、目の前に在るクーポンの山に手を伸ばしました。
私がクーポン生活を知る前はゴミにしていたし、期限切れのクーポンはよくサッカー台に置かれて(捨てられて)いるし…。
すると・・・
なんということでしょう!
私がここ数日、使い続けていたビールや発泡酒のクーポンばかり、しかも期限は切れていない!!!
「Oh,Jesus!!」
この場で手を組んで天を仰ぎたくなる気持ちをグッと抑え、
「クーポンは天下の回りもの」
ということで、私は、このクーポンの束をそっと頂戴することにしました。(罪悪感皆無)
スーパーの出口に向かって敷かれたレッドカーペット。
私は周囲に手を振りながら歩き、頭上には紙吹雪が舞って…
「ありがとう!」「ありがとう!」
(以上、私の空想シーン)
マスク下の私の顔は、ここ数年で見せたことのないくらいの笑顔だったはずです。
神様、ありがとう!ウエルカムバック♪クーポンライフ!
厳しい社会に心が荒みそうになりますが、やはり、これからも「人に優しく」「愛を配って」生きていこうと心に誓った瞬間です。神様はいるのだから…。
クーポン生活、再び♪…も束の間…。
神から与えたもうクーポンの束のおかげで、ふたたび私に楽しいお買い物生活が戻ってきた…と言いたいところですが、そうは問屋は卸さない。
クーポンはとてもよく出来ているシステムで、少しずつハードルが上がり、値引き率は悪くなり、やがて、求める商品以外のものへとシフトしていきます。そりゃそうですよね、「より幅広く商品を買ってもらうため」のものですから。
先日、家族に頼まれてドラッグストアに行き、面倒だから近くのスーパー(クーポン無し)で買い物を済ませようとしてレジで財布を取り出すと、「あの、神様から授かったクーポンの期限って今日じゃなかったっけ?」と思い出し、チェックするとなんと今日まで!
行かなくちゃ~♪
コレを~使いに行かなくちゃ…♪
頭の中で井上陽水の『傘がない』のメロディーが流れ、少し距離があるけれどクーポンは無駄にするわけにはいかなくて、急ぎ足でいつものスーパーに向かいました。
店に着くと、クーポン対象商品の発泡酒1本だけ買うのはなんか申し訳ない(安くしてもらえるんだからねぇ…)ということで店内を巡ると、アレもコレもと本来買うつもりなんて無かった品が入っていき、結局、しっかりと買い物をしてしまったのですが、
「それはそれでいい」
だってクーポンを使うんだもの♪
レジに到着し、財布の中で温めていた、とっておきのクーポンを取り出し、係の人に手渡すと、ピピッと♪(私の顔はニンマリ)
「申し訳ありません…」
ん?!
「お客様、申し訳ありません。このクーポンの期限が昨日までで…」
とても申し訳なさそうな顔をして、私の顔を見ています。
ん?!
確か…今日は8日だよね、8日…?スマホを取りだし、画面を表示させると、なんと日付は『5月9日』。
「Oh,Jesus!!」
神よ~!なんという仕打ちを~!
と嘆き悲しみたいところですが、神様のせいじゃない。私が日にちをまるっと間違えていたのが悪いんです。
こうして、スーパーのクーポン戦略にすっかりハメられたお客になっていた自分に気がついたのでした。(ジャンジャン、おしまい)
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