『史記』に見える「大興兵」について
歴史雑記032
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相変わらず『史記』を読んでいるわけですが、つらつらと眺めていると、かつては気にならなかったような表現が気になってくることがある。
それらを調べても特に手がかりが得られないことも多いのだけれども、今回は少しばかり原史料の面貌をうかがいうる表現を見つけたので、それについて書いてみようと思う。
「大興兵」と類似表現
今回採り上げるのは、「大興兵」という表現である。文字通り、大軍を編成して戦争を行うという意味である。
類似の表現として「大発兵」があるが、『漢書』までの用例としては、「大興兵」が7例、「大発兵」が3例と、前者のほうが用例が多い。
また、「興兵」と「発兵」では、後者の用例が圧倒的に多く、戦国〜前漢にかけてより一般的な表現であったことがわかり、現在でも一般に通行する「出兵」の語は『戦国策』に頻見するため、現行『戦国策』の祖本にあたるような史料を参照している『史記』の当該箇所には「出兵」が多く見られる。
一例として、『史記』穰侯列伝と『戦国策』秦策二を挙げておこう。
秦少出兵、則晋・楚不信也。多出兵、則晋・楚為制於秦。(『史記』穰侯列伝)
秦少出兵、則晋・楚不信。多出兵、則晋・楚為制於秦。(『戦国策』秦策二)
『史記』が「也」を加えたか、『戦国策』から脱したかしているが、ほぼ同文であることがお分かりいただけると思う。
関連語としては、ほかに「興師」などもあるが、こちらはより概念的な用いられ方をしており、儒家系文献や説話でも出現率が高い。
ここまででひとまず、ざっとではあるが「興兵」の関連表現を概観したということにしよう。
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