[サントリーホール サマーフェスティバル2022]ザ•プロデューサー•シリーズ クラングフォルム•ウィーンがひらく 大アンサンブル・プログラム—時代の開拓者たち—
•ヨハネス・マリア・シュタウト(1974~ ):『革命よ、聴くんだ(ほら、仲間だろ)』アンサンブルのための(2021)日本初演
•ミレラ・イヴィチェヴィチ(1980~ ):『サブソニカリー・ユアーズ』アンサンブルのための(2021)日本初演
•塚本瑛子(1986~ ):『輪策(ラートラート)赤紅(ロートレッド)、車輪 (レーダー)』大アンサンブルのための(2017)日本初演
•武満 徹(1930~96):『トゥリー・ライン』室内オーケストラのための(1988)
•ゲオルク・フリードリヒ・ハース(1953~ ):『ああ、たとえ私が叫ぼうとも、誰が聞いてくれよう…』打楽器とアンサンブルのための(1999)日本初演
指揮:エミリオ・ポマリコ
クラングフォルム・ウィーン
スペシャル•サポートメンバー:東紗衣(Cl), 大石将紀(Sax), 豊田万紀(Hr), 奥田敏雄/金子美保(Tp), 村田厚生(Tb), 坂本光太(Tub), 大家一将/高瀬真吾(Perc), 篠崎和子(Hp), 深見まどか(Cel), 城戸かれん(Vln), 須田祥子(Vla), 上村文乃(Vc), 佐藤洋嗣(Cb)
シュタウト作品…性格付けの明確ないくつかの部分からなる。最初の、小刻みなパルスが持続する部分はおもしろかったけれど、あとはだんだん月並みになる。途中、チェレスタ奏者が指揮者の前をふらふらと横切って上手袖にはけ、やがて再び下手袖からマラカスを携えてあらわれて何事もなかったかのように演奏に復帰するという趣向があったが、趣旨がわからなかった。
イヴィチェヴィチ作品…協和音なども衒うことなく使っており、響きが美しい。基軸となるアコーディオンを聴いていると迷子にならない。が、曲自体にあまり新味はない。
塚本作品…前半では最もおもしろかった。音の作り方はオーソドックスなのだけれど、余白の使い方が巧みで、生まれた響きが減衰して収まって行くところまで、ゆっくりと味わうことができる。
武満作品…本作に続く「How Slow the Wind」(1991)や「そして、それが風であることを知った」(1992)につながるモチーフが繰り返しあらわれる。全編紛れもなく武満サウンドだが、ごく細かいアインザッツが労することなく綺麗に合って心地よい。このアンサンブルの性能の高さを感じる。
ハース作品…非常にゆっくりと移ろっていくアンサンブルの上で、ソリスト(ルーカス•シスケ)はタムタムはじめ金属製の打楽器を時に静かに、時に激しく連打する。曲を通じてソリストの手はほぼ休みなく動き続ける。静かな情感を湛えたソロは味わい深かった。タイトルがあらわすように、訴える個人と、動きの鈍い社会と読んでしまうのは単純に過ぎよう。部分ごとの音の無駄遣いは少ないけれど、いささか冗長だった。(サントリーホール•大ホール)
※以下は昔語り兼備忘録。「トゥリー・ライン」を初めて聴いたのはちょうど30年前(1992年)、武満が主催していた「今日の音楽 Music Today」の最後の年の最終日、この曲を委嘱したロンドン•シンフォニエッタによる演奏会の最後の曲目だった。会場は今は無き銀座セゾン劇場、この手のコンサートにしては珍しくしんみりした気持ちで帰途に着いた。