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サントリーホール サマーフェスティバル 2024(4) テーマ作曲家 フィリップ・マヌリ  サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No. 46 (監修:細川俊夫) 作曲ワークショップ×トークセッション(日本語通訳付)

第1部 
フィリップ・マヌリ × 細川俊夫 トークセッション(日本語通訳付)
ゲスト:野平一郎

第2部 
若手作曲家からの公募作品クリニック/実演付き

杉本 能: パウル・クレー「ペダゴジカル・スケッチブック」による習作Ⅲ『Earth, Water & Air』 (2024)

鷹羽 咲: 『エマルション』クラリネットとヴァイオリンのための(2024)

浦野真珠: 『BAT and CACTAS』弦楽三重奏のための(2024)

レクチャー:フィリップ・マヌリ/細川俊夫
フルート:山本 英
クラリネット:東 紗衣
ヴァイオリン:迫田 圭
ヴィオラ:甲斐史子
チェロ:細井 唯
通訳:今井貴子
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ

第1部ではゲストの野平氏も交え、今回の委嘱作「プレザンス」、そして室内楽ポートレートの演目について語られた。

以下、第2部について。

杉本作品…短い作品の中にさまざまな奏法が盛り込まれている。半ばあたりであらわれる最弱奏のホイッスルトーンが印象的。異なる楽器編成による連作の一つという。楽器の特性について、深く掘り下げているものと想像する。とてもおもしろく聴けるのだけれど、各種奏法のエチュードのように聴こえてしまうのが残念。マヌリ氏のコメントで、もっと曲の構造を意識すると良いというのはそのあたりと重なるか。山本氏の演奏は見事だった。

鷹羽作品…手堅く構成されていると感じた。マヌリ氏も、ストーリーが明確だとコメントしていたかと思う。水と油が混ざり合う乳化現象を取り上げたとのことだった(「乳化」は"emulsification")が、マヌリ氏にその点を問われた際、メークをする自身の体験から着想したとの話が披露された。ごく身近な現象を、適度に抽象化しつつ創作に結びつけているのが良いと思った。なお、少し前に偶然聴く機会のあったミュライユ作品《円環の廃墟》と同じ編成である。かの作品も、発音原理の異なる2種の楽器の音をどう擦り合わせるか試みており、一方の音色を他方へと驚くほど寄せていく場面があった。既存作も検討されているのだと思うけれど、擦り合わせかたなどさらに研究する余地があるかと感じた。
東氏、迫田氏による息の合った演奏。

浦野作品…実に隙なく書かれていて、吸い寄せられるように聴いた。細かい動きの後一本だけ長い音が残るというパターンが繰り返され、無理なくリズムが構成されていく。終結部は無数のコウモリを思わせた。よく考えられ、無駄な音のない作品と感じた。巧みだけれど、変なふうに慣れた感じがない。表現したいことに真っ直ぐで好感が持てた。ゲッカビジン(月下美人)と、その受粉を媒介するコウモリを題材にしたという。サボテンの花というと「グレの歌」のテクスト「サボテンの花ひらく」を思い出すけれど、文学的な要素を絡ませてもおもしろかったのではなどと勝手な妄想をした。こうした展開の余白を感じさせるのも、それだけ優れた作品だということでは。マヌリ氏も絶賛。これからが楽しみな人である。
迫田氏、甲斐氏、細井氏による、引き締まった演奏も見事だった。(2024年8月26日 サントリーホール・ブルーローズ)

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