[サントリーホール サマーフェスティバル2022]ザ・プロデューサー・シリーズ クラングフォルム・ウィーンがひらく 室内楽プログラム「ウィーンの現代音楽逍遥」(第2夜)—ウィーンは常動する—
・ヨハン・シュトラウスII世(1825~99)/シェーンベルク 編曲:『皇帝円舞曲』作品437(室内アンサンブル用編曲)(1889/1925)
・アントン・ヴェーベルン(1883~1945): 室内オーケストラのための6つの小品 作品6(1909/20)
・アルバン・ベルク(1885~1935)/ワーヘナール 編曲:
『アルテンベルク歌曲集』作品4(室内アンサンブル用編曲)(1912/85)*
・アルノルト・シェーンベルク(1874~1951)/グライズル 編曲: 5つの管弦楽曲 作品16(室内オーケストラ用編曲)(1909/25)
・グスタフ・マーラー(1860~1911)/グラール*、ティドロー** 編曲:『子供の不思議な角笛』より「番兵の夜の歌」*、「この世の生活」**、「塔の中の囚人の歌」**(室内アンサンブル用編曲)(1892~93、98/2022)日本初演*
指揮:エミリオ・ポマリコ
ソプラノ:カロリーネ・メルツァー*
クラングフォルム・ウィーン メンバー
ごりごりの番組が連日続く中で、貴重な「箸休め」に出会った気持ち。
ヨハン・シュトラウス…1925年の「ウィーン音楽祭」における「アルノルト・シェーンベルク祭」なる演奏会のために自ら編曲したもの。サービスもあったのかと思われるけれど、ご当地モノだけあって、民謡、民族音楽を思わせるような自由自在な溜めやテンポの動かし方で、おもしろく聴かせる。ウインナ・ワルツのつんのめるようなリズムが自ずと生まれてきており、改めて自然発生的な「方言」なのだなと感じる。
ヴェーベルン…1921年の非公開の演奏会シリーズである「私的演奏協会」のために作曲者自身が編曲した室内オーケストラ版とのこと。皇帝円舞曲もこのシリーズに際して編曲されたことがあり、似通った性格のアレンジであるためか、並べて演奏されても違和感がない。むしろヴェーベルンがオーストリア音楽の伝統の中にいることが確認できる。演奏は、アンサンブルが若干緩いのが残念。ハーモニウムは音の立ち上がりがわずかに鈍いこともあり、こういう厳しい音楽に使うのは難しいと思う。第4曲の盛り上がりはそこそこだけれど、やはり原曲(特に4菅編成版)と比べると物足りない。
ベルク…内省的な詩句による歌曲集。楽器数を絞ったこともあり、個々の単語に音楽が丁寧に添わせてあることがよくわかる。カロリーネ・メルツァー氏のしなやかな歌声が印象的。
シェーンベルク…弟子のグライスレによる編曲だが、作曲者自身による編曲がもとになっているという。「音色旋律」による第3曲が印象的だけれど、比較的平坦な持続音で展開するため、ピアノの音はやや違和感がある。しかし、全体としてみると、先のヴェーベルンよりもよくまとまった編曲だと感じる。
マーラー…二人の現代作曲家による編曲で、チェレスタや打楽器をふんだんに投入する。ことに1曲目・3曲目はマーラーの音楽がほどよく「血抜き」された感じがする。原曲とは味わいがかなり変わっているので、評価は分かれるところだろう。個人的にはこざっぱりした響きが好ましく感じた。狭い会場のせいもあるのか、アンサンブルの強奏の中では肝心の歌がうずもれる場面もあった。(編曲者の設計?としたらずいぶん皮肉が効いている。)
新旧さまざまのトランスクリプションを眺め渡す、珍しい機会だった。ウィーンという土地の色合いや香り、そこで生まれた幾世代かにわたる音楽家たちの「血脈」など、さまざまな要素を少しずつ味わうことができた。(サントリーホール・小ホール ブルーローズ)