サントリーホール サマーフェスティバル 2024(2) テーマ作曲家 フィリップ・マヌリ サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No. 46 (監修:細川俊夫) オーケストラ・ポートレート(委嘱新作初演演奏会)
クロード・ドビュッシー(1862~1918):
『牧神の午後への前奏曲』(1891~94)
ピエール・ブーレーズ(1925~2016):
『ノタシオン』オーケストラのための(1977~2004)
フランチェスカ・ヴェルネッリ(1979~ ):
『チューン・アンド・リチューンII』オーケストラのための(2019~20)
クロード・ドビュッシー/フィリップ・マヌリ: 『夢』(1883/2010~11)
フィリップ・マヌリ(1952~ ):
『プレザンス』大オーケストラのための[サントリーホール委嘱](2023~24)世界初演
指揮:ブラッド・ラブマン
東京交響楽団
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
テーマ作曲家による公演1日目。
ドビュッシー作品「牧神の午後〜」…指揮のラブマン氏はあんなにかっちりと拍を取らなくてもよかったのではと感じた。特に後半はオーケストラのほうでも長い音符を1、2、3、…と数えているのがはっきりわかってしまい、柔らかな曲調が削がれていた。複雑な現代作品を3曲も含むプログラムゆえ、本作やもう一曲のドビュッシー作品は、リハーサル時間がごく圧縮されてしまったのではないかなどと邪推される。
ブーレーズ…指揮の動きがドビュッシーとは打って変わっていて、実にきびきびと指示を出す。ただ、ⅣやⅡは、オーケストラの反応がやや鈍く感じられ、推進力を欠いた。テンポが緩やかな部分で落ち着くのは、オーケストラ側のレスポンスが目立たなくなっているだけだったか。
ヴェルネッリ作品…曲半ばまで、1小節に2拍(4/4拍子ならば2分音符分)のゆっくりしたパルスが続く。開始部からしばらくこのパルスを奏する微分音ピアノが耳をひく。その後、さまざまな楽器に受け渡され、音楽がどのような展開をするのか期待された。しかし、そのパルスはやがて雲散霧消してしまい、その後は、長めのクレッシェンドなど、現代作品のよくある展開を辿っていく。プログラム・ノートがあまりにも韜晦で、作曲者の意図が読み取れない。もしかすると、趣旨の一部は、感覚的時間と概念的時間が重なったり重ならなかったりということなのだろうかなどと思いつつ聴いた。しかし、だとすると、時間の表象としてパルスを用いるというのはあまりにもクリシェ的ではないかと思われる。
ドビュッシー作品「夢」…常套的な手段による、よくある編曲もの。
マヌリ作品…オーケストラはいくつかのグループに分割され、左右対称に配置されているのだけれど、そういう配置をとったことによる音響的効果が感じられない。たとえば前後左右への音像移動があるなどすれば、配置の意味合いが幾分は明確になったかもしれないー創作としてどれほどの意味があるのかよくわからないけれどー。最終盤になって、ステージから客席左右にそれぞれ4名の奏者が移動して演奏する。しかし、これにしても、立体音響を構成するには左右のアンサンブルがあまりに貧弱である。結果的に、ほんのわずかな時間だけ、普段のオーケストラとは若干異なるところから楽器音が聴こえるというささやかな趣向に留まった。プログラムに、細川俊夫氏による作曲者への質問とその応答が掲載されている。本作をめぐって作曲家は「私はオーケストラを動かしたい」と語る。確かに、動くところを見てみたい。本当にそう思う。残念ながら、今回の作品では特殊な楽器配置が功を奏することがなく、オーケストラはほとんど「動いていなかった」。(2024年8月23日 サントリーホール・大ホール)