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横山博プリペアドピアノリサイタル

演奏曲目:

ジョン·ケージ《ソナタとインターリュード》
  横山博(プリペアド·ピアノ)

小杉武久《DISTANCE FOR PIANO》
  横山博(パフォーマンス)
  西村直晃(アシスタント)、福田真太郎(アシスタント)

高橋悠治《BRIDGES I》*
  横山博(電子キーボード)
  西村直晃(チェロ、バスドラム、カスタネット)

調律·特殊奏法指導:株式会社山石屋洋琴工房
プリパレーション協力:株式会社山石屋洋琴工房、西村直晃 福田真太郎

資料提供:HEAR/Estate of Takehisa Kosugi
音響:君島結(ツバメスタジオ)
撮影:白岩義行
打楽器レンタル:プロフェッショナル·パーカッション

スタッフ:谷津雅子、福田真太郎
主催:オフィス·ゼロ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京【東京ライブ·ステージ応援助成】

精力的にケージ作品に取り組んでいる横山氏によるリサイタル。

ケージ作品…プリパレイションの工夫によると思われるけれど、プリペアされた個々の音が、いかにも打楽器的な個性を与えられていると感じる。

音の一つひとつが伸びやかに立ち上がるのが印象的。特にペダルを使った音はひときわ豊かに響く。そして横山氏はその音たちにじっくり音に耳を傾けつつ演奏を進め、聴衆を深い響きの中にいざなっていく。

この作品はソナタ4曲からなるセットが4組、その間にインターリュードがさし挟まれる構成である。私見では、各4曲は例えば春→夏→秋→冬のように、エネルギーの発生から衰退までの円環的プロセス(一旦衰退したエネルギーが初めに戻って復活するというサイクルを繰り返す)と重ね合わせることができると考えている。

殊に前半の「冬」、つまりエネルギーが衰退していく部分とおぼしい第4・第8ソナタでは、金属質の音が冷たい感触を効果的に表現していた。そして、今回のピアニストと調律師との協働によるプリパレイションのお蔭で、曲想に合わせて巧みに音が選択されていることが明確に感じられた。ケージの耳の鋭敏さ。

全体に非常に丁寧な演奏だったけれど、後半に入ってから、やや慎重すぎて流れが滞り気味な部分があったのが残念。丁寧に磨いた音たちを活かして、動きのある曲では打楽器的なリズムをさらに前面に出してもよかったのではと感じた。また、後半では曲の切れ目をなるべく目立たせないよう、アタッカのようにして演奏されている部分が見られたのだけれど、そのために曲ごとの性格の違いがやや見えにくいきらいがあった。「ソナタとインターリュード」という、ごく古い時代の形式を模した建て付けであることから考えても、個々の曲は物理的に分離していながら、内容的な対照性によって時間の経過や状況の変遷を表現する、という構成なのではないかと推測する。

今回の取り組みによって、プリパレイションの方法論に新たな展開があったのではないかと思われる。今後のさらなる進化が期待される。

小杉作品…今回は釣竿と擬似餌を使用。ピアノ内部のピアノ線に触れると微かな音が鳴る。鍵盤や楽器の筐体に触れた時の音はあまりにも小さく、また、釣竿のコントロールが十分に効かない様子だったのは残念。

高橋作品…かつてDGからリリースされた自作自演集に収められていた作品。この作曲家らしい、ちょっとひねった楽想が特徴である。電子チェンバロ(今回は作曲家の承諾のもと電子キーボードを使用)の音に導かれて、聴衆は古い街ケーニヒスベルクの橋を行きつ戻りつする。

アンコールに小杉武久氏の「Micro1」。微かな音にまできちんと耳を澄ます姿勢が貫かれた演奏会だった。(2025年1月19日 両国門天ホール)

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