Heart failure and skeletal muscle
【骨格筋障害と心不全を考える上で知っておくべきこと】
①慢性心不全の運動耐容能低下は、骨格筋障害有意例と循環障害優位例があってよい。
②病歴の長さは病態を就職する大きな原因である
③心不全の重症度と病歴の長さには解離があり得る
④安定していると思っても、潜在的に非代償性心不全の状態にある場合もある(臥位における胸水など)
⑤特に虚血性心疾患を基礎疾患とする場合、喫煙肺の影響もあり得る。また、COPDの合併も気づかれてない例もある
⑥運動耐容能を扱った論文の中には心疾患、冠動脈疾患、心筋梗塞というだけで心不全の有無が明確でないものが混在する
⑦運動耐容能の指標である最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値は、体重割での表示である。酸素摂取量は理想的には徐脂肪体重あるいは骨格筋量で補正するべきであるが、容易ではないため体重で補正した値を用いている。
●運動耐容能規定因子
肺、骨格筋、心臓のみでなく、これらをつなぐ血液であり、貧血や血流障害などがあれば運動耐容能規定因子となる。
●貧血あるとどうして運動耐容能が低下するのか?
通常のHb量を15g/dlとしてもし7.5g/dlになった場合は半分の酸素しか運べないので同じ酸素量を運搬するには心臓は2倍動かないといけない。
貧血を合併すると心不全の予後は悪化することが明らかにされている。
●運動はどうして継続できなくなるのか?
1.ph低下
嫌気性代謝が亢進し、乳酸が産生され水素イオンが蓄積し、筋収縮が阻害される。
2.クレアチンリン酸の枯渇
AT以下の運動では怒らないが、AT以上ではATP供給が必要となる、クレアチンリン酸が疎の供給源となるためこれが枯渇すると次の負荷に対応できなくなる
3,無機リン酸の蓄積
ATを超えた運動により、クレアチンリン酸の分解が再合成を上回ると、無機リン酸が蓄積する。増加した無機リン酸は、筋小胞体ないのカルシウムと結合し、筋収縮機序を阻害する。
4.グリコーゲンの枯渇
ATを超えた運動では、エネルギー源としての脂肪の利用が限界になるため、グリコーゲンからの解糖系が主となる。長期化すると枯渇する。
5.活性酸素種(ROS)
特に高強度運動ではROS発生が抗酸化能を上回り、筋収縮に関わる蛋白を酸化し、機能を低下させる。
6,神経伝達の障害
筋収縮が高頻度になると神経筋接合部におけるアセチルコリンを介した伝達機能が低下する。
●骨格筋はどのように酸素摂取量に影響するのか?
酸素摂取量(VO₂)は、
動脈血酸素含有量(CaO2)と混合静脈血酸素含有量(CvO2)の差→動静脈酸素含量較差とCOの積(フィック)
※動静脈酸素含有較差は、
酸素を取り込むには筋細胞内のミトコンドリアである。
ミトコンドリアの酸素利用能低下では、有酸素運動が障害され、最大酸素摂取量が低下する。
ミトコンドリアに問題があれば、骨格筋を通過する血液から酸素抽出量が減る(CvO₂が低下しない、Hbがあまり、静脈血酸素分圧上昇)
心不全では、心機能低下のために循環時間が遅い、CvO2 or PvO₂)は低めになりやすい。(多くの心不全患者ではPvO₂が低めの例と上昇する例がいる)
【理由】
循環速度が遅いため、酸素抽出量が多くなり、PvO₂が低くなるのが当たり前の心不全では運動終点においてPvO₂が上昇する例も多いのである。
・骨格筋量が少ない場合(筋萎縮など)
動員される骨格筋量によってもVO₂MAXは制限される。
筋力が少なければ酸素を摂取するミトコンドリアも少ないためCvO2
は上昇する。(VO₂は少なくなり、CvO₂は上昇する)
心不全がある場合は、
骨格筋量低下+ミトコンドリア機能低下
VO₂は少なくなり、CvO₂も上昇しやすい
VO₂MAXは低下する。
●運動耐容能と酸素利用能
・骨格筋と呼吸循環の連関
筋肉を動かすにはATPが必要である。
ATPは、筋細胞内のミトコンドリアが酸素と基質から作り出す。
運動耐容能は、
①骨格筋に対して酸素が十分に供給されるか?
②骨格筋でどれほど酸素を利用する能力があるか?
が重要である。
・骨格筋への酸素輸送と利用に影響する因子
【中枢性因子】
換気量 肺血液量 CO など
【末梢性因子】
血管拡張能 毛細血管能 酸素拡散能
【血液因子】
Ht Hb Hb酸素親和性 血液粘度 血漿粘度 など
・有酸素運動で酸素利用が改善する機序
①呼吸系
肺活量は必ず増加するわけではない
最大分時換気量は増大する。
酸素拡散能は改善し、換気血流比が適正化され、ガス交換効率が改善する。
②中心循環系
ポンプ機能、陽性変力作用が改善し、SV、COが増加する。
※基礎疾患があれば別のお話
③末梢循環・微小循環
内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)活性増加による一酸化窒素生体利用能(NO)の改善、細胞間接着分子の減少、エンドセリンの減少などを含む血管内皮機能の改善、交感神経活性低下、血管リモデリングなどによる末梢拡張能改善し、筋への血流が増加する。
一方で、血管運動神経の調節により非活動筋への血流が減少する。
また、毛細血管網の増加によりガス交換面積が増加し、酸素拡散距離が短縮する。
④血液性因子
PAI-1やフィブリノーゲンの減少及び線溶系亢進などによる血液粘度の低下は血流をスムーズにする。
⑤骨格筋
筋量増加、筋線維系のシフト(遅筋/速筋比増加)、ミトコンドリアの増加・機能の改善、酸化系酵素の増加、エネルギー代謝の改善などにより酸素利用能が増大する。
慢性心不全では、健常者と異なり、骨格筋レベルの障害がVmO2及び運動耐容に影響している。
慢性疾患では骨格筋障害が重要な問題かもしれない。
⑥酸化ストレス
活性酸素種(ROS)及びNADPHオキシダーゼ活性が減少する一方で
抗酸化酵素及び抗酸化物質の産生増加、マイオカインの産生・分泌などにより運動時の酸化ストレス及び炎症が軽減される。
【心不全における骨格筋障害】
筋萎縮を起こし、Ⅰ型で線維数が低下する。酸化系酵素低下
筋線維径Ⅱb型が→ ↓ Ⅱ型線維数が増加 ⅡaからⅡbへのシフトがみられる。解糖系酵素活性が増加、ergoreflexが増加
※ergoreflex:呼吸循環調節機序の1つで運動時骨格筋内における機械的及び代謝的変化に起因する交感神経系の活性
毛細血管密度は低下し、ミトコンドリア量が低下、アポトーシス促進
MHC1からMHC2へのシフト eNOSの低下
※MHC:ミオシン重鎖 蛋白質が鎖状になったもの
※eNOS:内皮型一酸化窒素合成酵素
【骨格筋障害の成因】
1.deconditioning(身体不活動)
2.malnutrition(栄養障害)
3.hypopefusion and hypoxia(低還流と低酸素)
直接影響しているかは証明されていない
4.neurohumoral factors(神経体液性因子)
RAS SNA(交感神経活性) アルドステロン PTH系など
ATⅡは骨格筋萎縮を惹起し、筋線維を遅筋から速筋へ変える。
ARB及びACEⅠは筋線維変化を改善する(速筋から遅筋へ)
5.同化異化亢進
心不全では異化系が亢進し、同化系ホルモンが減少している。
GHが増加していてもIGF-1(インスリン増殖様因子)低下を示すGH/IGF-1抵抗性を呈する。
6.筋蛋白分解亢進
腎不全、がん悪液質、飢餓にみられる筋蛋白分解亢進
7.アポトーシス オートファジー
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