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絵本【風船が降ってくる日】

今日は8年に一度の風船の降る日。
紫色の傘と、男の人は、
一緒にその日を楽しみました。
次の日はあいにくの雨。
でも紫色の傘は男の人を雨から守れることを
誇りに思っていました。

ところが何日かたったある日、
とても風の強い雨の日がありました。
その日も、紫色の傘は男の人をしっかりと
守っていました。
しかし、次の瞬間、
今まで体験したこともないような大風が吹いて、
男の人は紫色の傘から手を放してしまいました。
いきおいよく飛んでいく紫色の傘。
取り残される男の人。
二人は、はなればなれになってしまいました。
守るべき人を失った紫色の傘は、
まるで自分が傘であり続けること自体を証明するように、
一人で雨を防ぎ続けました。
だけど、その下には、誰もいません。
時が経つにつれて、傘はぼろぼろになっていきました。
艶やかだった自慢の紫色もくすんで、
穴だらけになりました。
すっかり自信を失くした傘は、
もう雨を防ぐ行為をやめました。
傘であることをあきらめたのです。
しかし何年か経ったある日、
傘はたまたま、道で倒れている
おじいさんを見つけました。
天気はあいにくの雨。
傘はとっさに、そのぼろぼろの身体で、
おじいさんを雨から守ろうとしました。
すると突然、おじいさんは傘の取っ手に優しく触れて、
こう言ったのです。
「久しぶりだね、僕の友達。」
傘は混乱しましたが、その手のぬくもりから、
そのおじいさんが、かつての持ち主だった男の人だと
確信しました。
そして、言いました。
「僕はもう傘ではなくなってしまったんだ。
もう、あなたを雨から守れない。」
「大丈夫だよ。あまりに時が経ちすぎたんだ。
もしその間に君が傘じゃなくなったのだとしても、
関係ない。
例えばほら、立派な背骨があるじゃないか。
そうだ、これからは君を杖として使おう。」
「それから、見てごらん、実は君の取っ手の部分に、
僕の名前が書いてあるんだ。」
【Diamond eyes】
「形は変わっても、時が経っても、
これから僕たちはずっと一緒だ。
一緒にいることが何よりも大切なんだ。
僕のもとへ戻ってきてくれてありがとう。」
今日は8年に一度の風船の降る日。
8年前と変わらない、美しい風船の降る日。
大きな屋根の下で、二人は大切な時間を過ごしました。

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