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『旅人 001』第0話【旅人プロジェクト】
この世界の名前は、「エルダ大陸が存在する世界」。正確に言えば、コード:ELD-001 という世界。この本は、とある旅人と学者の旅の記録。
「知らない・・・天井だ。__いや何言っているんだ。」
声の主である彼の目の前には天井ではなく、雲一つないキレイな青空と木漏れ日だった。
「どうして私はここにいるんだ?私は誰だ?思い出せないな。」
思い出そうとして頭痛が…走ることもなくただ思い出せない。彼は、自分が誰で何でここにいるかがわからなくても、自身が旅人であったことは覚えていたようだ。
「さて、と。」
そういって彼は立ち上がった。ひと安心だ。
「それにしてもこの樹、とんでもなく大きいな。」
そんなことを言いながら彼は大樹に触れた。大樹に触れた瞬間に視界は真っ白になり、光が収まった時には、彼は空を飛んでいた。自分の身体がないような、不思議な浮遊感。それでも知っているような…。突如、良く知っているような、でも誰なのかわからないような誰かの声がした。
『さて、と。この次は北に向かうんだったな。なんでこんなに面倒にしたんだろうなぁ。まぁこの草原は清々しくて俺も好きだけどな。北には街があったよな。久々の旅だ。楽しもう。』
「久々の旅?この誰かは私と同じ旅人だったのか?」
その問いに答えるものはここには誰もいない。この大きな木の周辺は広大な草原が広がっていた。草原の中には虫も動物も魔物もいない。もちろん人もいない。
「まぁいい、さっきの誰かの記憶?みたいなものによると北に街があるんだったよな。たしか、向かおうとしていた方向には針葉樹がちょっとだけ見えていたはず…。」
そういいながら、彼は周囲を見渡した。ここで見つけられなかったら方角を知らずに行動しなければならないのだが…。
「あった。あっちが北かな?わからないけれど、手がかりはアレしかないんだ。行こうか。」
彼は北と予想される方角に針葉樹林があるのを見た。反対の方向にはとても大きな山岳があるのも確認した。彼は内心、「この世界は私以外みんな巨大ってわけじゃないよな?」と考えていた。
「・・・」
どうしたのだろうか。この後は街に向かって歩くだけだというのに。
「私は誰に『行こうか』なんて言ったんだろう。私はそもそもこんなに話しながら旅をしていたのだろうか?」
どうやら新たな疑問がわいてしまったようだな。研究者の性が騒ぐんだろう。自分にじゃないってことは俺が一番知ってる。
「ここにいても解決するわけじゃないな。よし。」
彼は旅に出た。よく知る世界を楽しむ旅に。
つづく