ぬくもりに触れる-海士にて①
「海士にきてや!!!!」
友達から連絡があった。
「海士って…どこ??」などどいつものように少し考えて、(そして少し悩んで、)結果的に飛行機のチケットを取った。どうせ行くならと、(少し腹をくくって)有休を取った。もちろんいつものように、忘れ物はないか、ちゃんと帰って来られるか、あらぬ心配と闘いながら当日を迎えた。
1日目
10月中旬だというのに日差しが暑い。少し汗ばみながら空港へ向かい、ソワソワしながら飛行機に乗る。
ふと、窓の外を見る。
「あんなところにあんな建物あったんだ」
「あの案内板、ディスプレイ式だったのね」
自分を責める毎日が続き、視野狭窄に陥っていた自分が目にした光景。
そして思い立った。
「今回の旅行は、自分の目でたくさん発見する旅行にしよう」と。
…とはいいながらも、さすがに朝が早かったので、大好きな飛行機の雑誌を読み、機内のドリンクサービスを受けていた時間以外はよく寝ていた。
そうこうしているうちに、みたことのない島の岸壁が現れた。
赤茶けていたのか、真っ白だったのか、寝ぼけていてあまり定かではないが、それを見て「これはとんでもないところに来たな」と思ったことだけは確かに覚えている。
シャッターチャンスを逃してほどなく、隠岐空港に着陸した。
小さい空港なので、職員さんの動きがよくわかる。預け荷物を積んだトラックがコンベアの入り口に着く。羽田のような大きい空港では見ることができない光景。それにワクワクした子どもがお父さんに「パパ、もうすぐ僕の荷物が来るんだよね!!」と話しかけている。
普段見られないものを見られるとワクワクするのは大人も同じ。自分もいまや遅しと荷物の到着を待っている。
スーツケースの合間に自分の荷物が見えた。荷物を受け取り、(事前に何度も調べた)バス乗り場のバスに乗る。もちろん、小さな空港なので迷うことはなかったのだけど。普通ならちょっとの時間落ち込むのだが、そんなひまを与えずバスは港に向けて出発する。
隠岐も雲ひとつない晴れだった。暑いだろうなと思い、薄手のロンTに袖を通してきたが、容赦ない暑さ。Tシャツにすべきだったなと後悔しながらも、荷物が多くなるからと自分を宥めすかす。
途中渡った橋の上から見た景色に言葉を失う。だかしかしまた、シャッターチャンスを逃す。
バスが港に着く。歩いて乗船場に向かう。出発時間ギリギリだったらしく、フェリーはバスの乗客を乗せてすぐに出航した。友だちに「今、フェリーに乗ったよ」と連絡した。すると間を空けることなく「待ってるで!!!!」といつものように威勢の良い返事が返ってきた。
船の中を散策し、デッキのベンチに腰を下ろす。他の乗客があちこちで写真を撮っている。自分もすきを見ながら写真を撮ったり、ぼーっとしたりする。
島が見えない海の方を見やり、またまたとんでもないところに来てしまったのだ、と実感を新たにする。
もう少し船を探索すると、デッキを見つけた。誰もいない。荷物をおろし、地べたに座る。
途中、持ってきた本を繰ってみたものの、風が強すぎて断念。慣れないことはするものではない。
すると、友だちから連絡がきた。
「今港の近くにいるんだけど、時間が合えば会える!!!」
そうこうしているうちに、緑に覆われた陸地が見えてきて、ほどなく船は海士の港についた。事前に教えてもらった港のレストランでお昼を食べる。
お昼を済ませ、予約した自転車を受け取ると、友だちがやってきた。
「よくきたな!うれしいで!それじゃどこいこか」
「あれ、仕事終わってないんじゃない?」
「今日はもうないから、案内するわ」
こういうサプライズがうれしい。宿のチェックインを済ませ、身軽になってサイクリングに繰り出す。
途中、彼おすすめのドーナツ屋さんに寄る。ひとくちドーナツと抹茶ドーナツを選んで会計する。彼は「これもうまいねん」といいながらプリンも買っていた。
ひとくちドーナツが美味しそうだったので、たまらず店の外で一つ食べてみる。ふっくらサクサクの食感と、ほんのりとした甘さがたまらない。思わず顔がニヤける。それを見た友だちも満足そうな顔をしている。もう一つ買えばよかったな、と少し後悔する。
先を急ぐ。細い山道を越え、風を切る感触を感じながら長い坂を降りると、急に景色が開ける。
海だぁ!!!!!
しかしそこはさすが自分、またしてもシャッターチャンスを逃す。いやあまあでもね今回は五感で感じる旅なんだしね、と自分に言い聞かす。でも諦められないので、明日以降来る時にはシャッターを切るのだ、とも言い聞かせる。
明屋海岸に着く。いつの間にか日が傾き、影が増えてきた。髪がうねるほどの強風。思っていた環境とは違っていたけれど、東屋のベンチに座り、2人でドーナツを頬張る。その先でテントを張っていた彼の友達に挨拶し、みんなで写真を撮る。
さすがに寒さには勝てず、「まあ明日も来るしなぁ」と言いながら退散する。山を降りるとまだ日が当たって暖かい。少し寄り道しながら宿に帰る。
宿の近くで定食を頬張り、寒い夜に自転車を走らせ、星がきれいなことに、改めて東京にはいないことを実感する。朝早かったからか、睡魔に襲われ、早めに床に着いた。
その二に続く→
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