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怒鳴られた理由とは?~終われない「5分前行動」~

「俺は5分前行動するのに、
なんで、5分前に来ないんだ!」

入浴の時間になったので
居室でお声掛けをしたら
男性からの第一声がこれでした

「す、すみません!
時間通りにうかがったのですが…」

なぜ怒鳴られるのか?わからないまま
その剣幕に驚きながら
思わずお詫びの言葉が口から出る

急いでバイタルを
測るも、案の定
興奮した男性の血圧は高すぎた

男性の顔はまだ少し赤らんでいる

(まずい!このままでは入浴を促せない…)

焦る私を知ってか知らずか
男性は更にヒートアップする

「血圧なんて高くてもいいんだよ!
俺は健康なんだ!
それより待たされるのが大嫌いなんだよ!」

そう言い放つと
自前の入浴グッズを手に持ち
居室から出て行ってしまった

ここは有料老人ホーム
少し裕福な高齢者が入居している施設でもある

比較的安価で誰でも入りやすい施設と異なり
認知症になっていたり
カラダに障害があったりする高齢者が少ない

その代わり
個人的な要望もそれなりに多いのがその特徴

この男性は
歩行も入浴も自立していて
ほとんど介助の必要がない

ただし
対応者が誰であれ
15分前行動をしないと怒り出してしまう

なので
初めてこの男性のお世話をする職員はたいてい
「時間通りに声掛けするので」怒鳴られる

住宅型有料老人ホームでは
入浴介助の枠は1人1時間もある

その主なお仕事は

①入浴の準備
(浴槽にお湯をためる&備品準備&バイタル測定)
②浴室へ誘導(自立している人は声掛けのみ)
③入浴介助または見守り
④浴室の清掃と記録

自分1人で入りたいという
自立している入居者さんには
本人希望により介入しないことも多いため
③が見守りだけ
または、少し離れた場所で待つことになる

入浴の伝票にサインをもらうため
再び男性の居室へうかがうと

「さっきは悪かったな。
俺は営業だったからいつも
約束の場所には15分前に着いていた。
お客を待たせるのは悪いし
暑い日なんか、汗だくな自分を見せるのは
恥ずかしいだろ!
だから早めに場所に着いて
汗が引いた頃にお客と話していた…」

男性はそう話し終わると
ノートパソコンを置いている
棚の引き出しから
おもむろにお菓子をひとつかみ取り出し
こちらに差し出した

「俺は医者から止められているから
これらは食べられない。持って行きな!」

打って変わっての態度の急変に
うろたえながら
(ここで断ったらまた怒鳴られるかもしれない…)
そんな思いがよぎる

「ありがとうございます!
先程は失礼いたしました。
次回からは気を付けます!」

それだけ言うと
受け取ったお菓子を
ズボンのポケットの中へ入れ
そそくさと居室を後にした

この施設には
もともと裕福だった家の人も多いけれど
自分で稼いで裕福になった人も居る

男性はきっと後者
認知症でもないので
自分の言動はしっかり覚えている

だからいつも
後から謝る

この人は「そういう性格」だと言えば
それまでだけど
施設に入った今でも
サラリーマン時代に受けたストレスから
抜け出せていない

その人の生き方は
重ねた年齢の分だけ
普段の言動にあらわれるものでも

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