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右アッパーに気をつけろ!~介護現場のリアルから学ぶ回避策~

正直なところTさんだけ
その機嫌を損ねないようにするために
特別対応だった

それは
来るべくして来てしまったとも言える...

老々介護という言葉をご存じですか?

65歳以上の高齢者が
高齢者を介護することを指す
悲しいことに在宅介護の半数が
老々介護を占めていると言われている

介護職ですら仕事として介護をしていても
日々、へとへとになるというのに
自宅での老老介護はなおさら
身体的な負担が重く
介護する側の健康状態の悩みも増える年齢でもあるため
身体的のみならず精神的にも
経済的にも負担が大きい

「レスパイトケア」とは
在宅介護において
介護する家族に対して
一時的な休息や息抜きを行うための支援のこと

具体的には以下のようなサービスがある
・認知症対応型通所介護:認知症デイサービス
・通所介護:デイサービス
・小規模多機能型居宅介護
・短期入所生活介護・短期入所療養介護:ショートステイ

Tさんは80代の小太りな男性で
左半身が思ったように動かず
動く方の右手と右足で
車椅子をゆっくり自走していた

ここはショートステイ

隣に特養も併設されている2階のフロアで
廊下を挟んでお向かいにも20床
特養の居室が並んでいた

Tさんが心穏やかな時は
窓の外を眺めていたり
フロアのテレビをご覧になったり
他の利用者さんへ話しかけたりもしていた

Tさんの声は低くかすれていて
ボソボソ話すため時々聞き取りにくいこともあった

ショートステイの部屋は10部屋あったけれど
タイミングによって
ほぼ満床のこともあれば
数部屋しか埋まっていないこともあった
スタッフがせっかく出勤しても
お世話をする人が居なくならないように
という兼ね合いなのか
すぐ隣の特養の10人の利用者さんのお世話も
一緒にする方向で職員を配置していた

食事やおやつは
ご飯を研いで炊くことと
飲み物を準備することが介護職員の仕事
その他は1階の厨房で作ってくれていた

「彼は、動く方の手が出ることがあるから、気を付けてね。」
Tさんとのやりとりに入る前に
フロアのリーダーがそう声をかけてくれた

施設の仕事をしていると時々
要注意の利用者さん情報を耳にする
認知症や統合失調症などの利用者さんの場合
職員の介助中に
職員に対して暴力をふるうことがあるからだ
無防備なまま普通に介護を行うことで
痛い目にあうシーンもよくある

テレビなどのニュースでは
介護職員や施設側が
利用者さんに対して行った悪事を流すけれど
実際の所
そのニュースの数よりも
利用者さんに暴力を振るわれて
心身ともに傷ついている職員数は多く

悲しいことに
職員の心身を守るための法律はないので
たとえ不意に暴力をふるわれても
何も言えないのが現実

こちらが寄り添う気持ちで近づいても
利用者さん側で受け入れてもらえなければ
悲しい気持ちになりながらお世話をし続けることになる
相手が病気とは言え
暴力をふるわれながらの介護は心身ともに過酷な環境に

リーダーの話によると
特に男性職員に対して
手を挙げることが多いと言う
動く方の右手でパンチを連打するという
それもどういう理由かはよくわからないらしい
対応中に突然たたかれることが多いとも

なのでTさんのお世話は
Tさんの世話に慣れた
ベテランの女性スタッフが中心に行っていた

とは言え彼女も毎日出勤するわけではないので
彼女がいない日や時間帯は
別の誰かがTさんのお世話をすることになる
逃げていても、いずれやらねばならない時が来る

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