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冥い(くらい)時の淵より

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亡き父が遺した小説です。小説家を目指し、新人賞に応募したけど 選考に落ちた原稿です。 叶わなかった父の夢を叶えたいと思い、マガジンに投稿します。 40年以上前の作品です。
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#原稿

冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 1

昭和40年。
1台の乗用車が、国道168線を北上していた。
和歌山県の那智勝浦を発って4時間、十津川を過ぎて、
車は谷瀬にかかる所であった。

国道とはいえ、168号線の路面はお世話にも良いとは言えない。
舗装されている所はほとんど無い。
凹凸が激しく、雨の後は水溜りが道を覆う。
山間を縫う道は細く、カーブも急で運転は困難である。
奈良の五条に出る168号線は、右手は落石の恐れのある

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