長月スピカ

主婦です。 note参入のきっかけは、新しい趣味を見つけたいと思ったから。 自分のペー…

長月スピカ

主婦です。 note参入のきっかけは、新しい趣味を見つけたいと思ったから。 自分のペースで更新していきます。

マガジン

  • 冥い(くらい)時の淵より

    亡き父が遺した小説です。小説家を目指し、新人賞に応募したけど 選考に落ちた原稿です。 叶わなかった父の夢を叶えたいと思い、マガジンに投稿します。 40年以上前の作品です。

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noteを始めたキッカケ

長月スピカと申します。よろしくお願いします。 10年以上前に亡くなった私の父。 小説家を目指し、働きながら執筆し、新人賞に応募したとの事。 残念ながら、その賞の選考からは外れてしまいました。 編集部から返却されたその原稿を、父は大事に保管していました。 そして、遺品整理をしていた時にその原稿が出てきました。 それらずっと、父の遺した小説を発表したいと思っていましたが、 どうして良いか分からず、ただ時間だけが過ぎて行きました。 『どこかに父の遺した小説を投稿できる場所は

    • 冥い(くらい)時の淵より

      二 4 『馬酔木」のドアを叩くと、しばらくして名美が現れた。 「テッちゃん!待ってたんよ。さあ入って」 名美は嬉しそうに言うと、 若原を抱き込むようにして中に入れた。 「すみません。こんな遅くに・・・」 歩きながら若腹は詫びる。 「何言ってんのよ。ほら、愛人のお待ちよ!」 「よお、若原。」 カウンターから村上が迎えた。 「すまんな村上。邪魔だろうとは思ったんだが、 つい甘えてしまった。すまん。」 若原は謝りながらも、 村上の横のストゥールに腰掛け、コートを脱ぐ。 「水臭い

      • 冥い(くらい)時の淵より

        二  3 何故、由希は失踪したのか-- 若原の胸をその問いが重苦しく締め付ける。 愛し合っていた、と思う。 心変わり、とは思えなかった。 判らぬが、彼女に失踪させた理由が あったのだろうと思う。 それなら何故、一言、自分にそれを 言ってくれなかったのか-- いや、その理由まで言わなくとも良い。 何故、別れも告げず消えてしまったのか?-- あと、残された手がかりはあるだろうか、と 若原は考える。 どんな些細なことでも良いと思った。 広瀬由希に関して、 自分がまだ知らない部分

        • 冥い(くらい)時の淵より

          二  2 ひとつの光景が目の前にある。 むしろ妄想であった。 由希の、清楚な白い肉体が見える。 その周りに数人の男達が居る。 どれも残忍な目を持ち、 毛だらけの無骨な体をしている。 男達は、美味そうな餌を前に、 その体の奥から欲情の焔を燃やしていた。 由希は無力であった。 恐怖と絶望に見開かれた由希の目を、 若原ははっきりと見た。 誘拐の妄想は、若原を絶望の淵に追い込んだ。 もしそうなら-- 若原は自らの非力に愕然とする。 一体、何ができる? 歩きながら若原は煩悶してい

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        • 冥い(くらい)時の淵より
          15本

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          冥い(くらい)時の淵より

          二  1 広瀬由希が失踪して一週間になる。 若原徹也の焦燥は日ごとに深まり、 快活な顔に苦悩の翳りが刻まれていた。 深夜。 若原は安物のコートの襟を立て、 寒風に晒されて東山通りを南に歩いていた。 どこに行くのか、あては無い。 頭の中は、広瀬由希の行方の事で一杯であった。 この一週間、若原は、刻一刻と 身を削がれる思いで暮らしていた。 由希の家には毎日電話を入れた。 母親は、今日も帰っていない、と言った。 でも、まだ手配はしたくない、 もう少し待つつもりだ、とも言ってい

          冥い(くらい)時の淵より

          冥い(くらい)時の淵より

          一  5 「名美さん、またモスコ?」 村上は、二人の時間の空虚を少しでも 言葉で埋めようとするかのように言う。 「モスコねえ。 ふん、やっぱりモスコ飲もうかなあ。」 名美は殆ど独り言のように言うと、 グラスにアイスボックスから氷を放り込み、 ウォッカに手を伸ばした。 モスコミュールはすぐに出来た。 名美はカウンターから出ると、 村上の横の椅子に坐り、今一度村上の唇を求めた。 ふたりがグラスを合わせ、一口飲んだ時、 店の電話が鳴った。 「はい。『馬酔木』です。」 名美が出た

          冥い(くらい)時の淵より

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          一  4 村上は、ストイックに自己を抑制し、 大学で兄と共に行動すべく、 着々と日々をこなした。 そして入学したのだった。 しかし、兄の笑顔は見られなかった。 村上と会っても苦しそうな表情が目立った。 本心は常に聞けなかった。 帰省した時の、両親の声が聞こえる。 兄は日本を捨てる気になっていた。 オヤジは怒り、オフクロはヒステリックに泣いた。 今思えば、兄にしても、両親にしても、 仕方なかったのかも知れない。 自分は部屋の片隅で、成り行きを見るしかなかった。 『一彦!考え直し

          冥い(くらい)時の淵より

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          一  3 およそ、生き甲斐とか理想とかと、対極的な 位置に自らを設置しようと思って来た村上であった。 股間からは継続して快感が届けられていた。 名美は、まるでペットを可愛がるかの様な 熱の入れようだった。 この数瞬に、彼女のそれまでの知識全てを 動員させて、村上の局所に対峙しているかであった。 「もう!マーちゃんったら、また考え事してるんでしょ! 少し真面目に感じなさいよ!」 村上の股間で、顔を上げて名美がなじった。 「ごめん、名美さん。でももういいよ。」 村上はボソッ

          冥い(くらい)時の淵より

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          一  2 村上は、いつもと変わらず あまり機嫌の良い状態ではなかった。 ここ1、2年、この虚無的な表情が、 村上の平均的な顔と言っても良かった。 何かを考えている、と言うよりも、 常に、得られなかったものを回顧しては、 不毛な追想にふける、と言ったイメージであった。 そして、アルコールの摂取量と比例して、体の奥から、 不気味な、陰鬱な、殺気のような妖気が滲み出すのだった。 もう店には客はいない。 村上は物思いに耽っている。 そして、先ほどから、村上の股間に顔を埋めて、 村

          冥い(くらい)時の淵より

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          一  1 京都。 11月も末になると、京都の冷え込みは一段と厳しくなる。 落葉は歩道を敷き詰め、寒風に乾いた音を立てて舞う。 並木にも、もはや身にまとう葉は残り少なく、 寒々とした細い裸身を、冬空に晒そうとしていた。 平安神宮より西へ少し、東山通りに面して スナック『馬酔木』がある。 昼は観光客や学生で賑わうこの界隈も、夜12時を過ぎれば さすがに人通りは少ない。 時折、飲んだ帰りの学生がある位だった。 『馬酔木』にも、【準備中】の札がかけられていた。 ドアの上から、薄暗い

          冥い(くらい)時の淵より

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          序 6 少女の名を呼ぶ声が、あちこちに聞こえた。 人々が慌ただしく走り回る足音が続いた。 そして、総ての報告は、少女がどこにも見当たらない、と 言うものであった。 やがて駐在が駆け付けた。 まず、少女の部屋を調べた。 全く異常がなかった。 少女が収容された時と同じ状態であった。 あたかも、少女がベッドに寝た姿のまま蒸発したようだった。 駐在は頭を抱えた。 とりあえず、村にこの件を通報する事にした。 村人の協力なしに少女の行方を捜す事は不可能だ、と考えた。 友人の夫妻は気も

          冥い(くらい)時の淵より

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          序 5 夜10時。 京都から知人が駆け付けた。 夕刊で読み、取る物もとりあえず飛んできたのだった。 まだ若い夫妻であった。 取りあえず、少女を見舞った。 妻は少女の名を繰り返し呼んでは泣いた。 何度も少女の髪を撫でた。 夫は、目をつぶって壁際に凝然と立っていた。 そして案内を請うと、両親の、ふたりにとっては 帰らぬ友人に面会すべく出発して行った。 ふたりとも、今夜はこの村で過ごすつもりでいた。 良ければ病院に泊めてくれぬか、 と院長に頼んで出て行った。 遅くなるかも知れぬ

          冥い(くらい)時の淵より

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          序 4 青年達は緊張して働き続けた。 そして、2つの死体を車から運び出した。 皆の見守る中、ひとりの青年の腕の中で、 奇跡的に命を取り留めた少女が、今は泣く元気もなく、 ぐったりと横たわっていた。 母親の体がクッションとなった事は、全員に理解された。 それにしても、20メートル以上もある絶壁での転落である。 青年達は物も言えず、背筋の寒くなる思いで、 腕の中の少女を見つめた。 あたかも、母から命を託されたかのような少女であった。 その日のうちに死体の身元が判明した。 神

          冥い(くらい)時の淵より

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          序 3 宮西浩二はジャンパーの襟を立てながら、斜面を走り下りていた。 昨夜の情事で寝過ごし、遅刻しそうであった。 朝の冷え込みもキツくなった。 宮西の母は、きちんと宮西の朝帰りを知っていた。 寝ぼけまなこの息子に、露骨なイヤミを言うのを忘れなかった。 「年寄りは眠りが浅く、耳が良くなると来るわ。やりにくいと言うたら…」 それでも宮西は、口元に自然と笑みを浮かべ、 軽やかな足取りで勤務に向かった。 大塔村に唯ひとつのガソリンスタンド。 それが宮西の勤め先であった。 口笛を吹

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          冥い(くらい)時の淵より

          序 2 恭一が、バックミラーに不審を感じたのは間も無くだった。 通行車はほとんど無い。 しかし1台だけ、執拗にくっついて来る大型トラックがあるのだった。 車間距離をほとんど取っていない。 運転を始めて、まだ3ヶ月の恭一であった。 おまけに、道は急カーブの多い難所である。 追突されるのではないか、との怯えが恭一を襲った。 道を譲ろうにも、それらしい路肩も見当たらなかった。 スピードを落とすと、バックミラーいっぱいにトラックの フロントグリルが迫ってきた。 今や、恭一は明確にそ

          冥い(くらい)時の淵より

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          序 1 昭和40年。 1台の乗用車が、国道168線を北上していた。 和歌山県の那智勝浦を発って4時間、十津川を過ぎて、 車は谷瀬にかかる所であった。 国道とはいえ、168号線の路面はお世話にも良いとは言えない。 舗装されている所はほとんど無い。 凹凸が激しく、雨の後は水溜りが道を覆う。 山間を縫う道は細く、カーブも急で運転は困難である。 奈良の五条に出る168号線は、右手は落石の恐れのある 山肌が道に迫り、左手は路肩さえ危うい断崖絶壁である。 それにも関わらず、運転して

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