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冥い(くらい)時の淵より

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亡き父が遺した小説です。小説家を目指し、新人賞に応募したけど 選考に落ちた原稿です。 叶わなかった父の夢を叶えたいと思い、マガジンに投稿します。 40年以上前の作品です。
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2022年7月の記事一覧

冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 2

恭一が、バックミラーに不審を感じたのは間も無くだった。
通行車はほとんど無い。
しかし1台だけ、執拗にくっついて来る大型トラックがあるのだった。
車間距離をほとんど取っていない。
運転を始めて、まだ3ヶ月の恭一であった。
おまけに、道は急カーブの多い難所である。
追突されるのではないか、との怯えが恭一を襲った。
道を譲ろうにも、それらしい路肩も見当たらなかった。
スピードを落とすと、バッ

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冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 1

昭和40年。
1台の乗用車が、国道168線を北上していた。
和歌山県の那智勝浦を発って4時間、十津川を過ぎて、
車は谷瀬にかかる所であった。

国道とはいえ、168号線の路面はお世話にも良いとは言えない。
舗装されている所はほとんど無い。
凹凸が激しく、雨の後は水溜りが道を覆う。
山間を縫う道は細く、カーブも急で運転は困難である。
奈良の五条に出る168号線は、右手は落石の恐れのある

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冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 3

宮西浩二はジャンパーの襟を立てながら、斜面を走り下りていた。
昨夜の情事で寝過ごし、遅刻しそうであった。
朝の冷え込みもキツくなった。
宮西の母は、きちんと宮西の朝帰りを知っていた。
寝ぼけまなこの息子に、露骨なイヤミを言うのを忘れなかった。
「年寄りは眠りが浅く、耳が良くなると来るわ。やりにくいと言うたら…」
それでも宮西は、口元に自然と笑みを浮かべ、
軽やかな足取りで勤務に向かった。

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冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 4

青年達は緊張して働き続けた。
そして、2つの死体を車から運び出した。
皆の見守る中、ひとりの青年の腕の中で、
奇跡的に命を取り留めた少女が、今は泣く元気もなく、
ぐったりと横たわっていた。

母親の体がクッションとなった事は、全員に理解された。
それにしても、20メートル以上もある絶壁での転落である。
青年達は物も言えず、背筋の寒くなる思いで、
腕の中の少女を見つめた。
あたかも、母から

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冥い(くらい)時の淵より

冥い(くらい)時の淵より

序 5

夜10時。
京都から知人が駆け付けた。
夕刊で読み、取る物もとりあえず飛んできたのだった。
まだ若い夫妻であった。
取りあえず、少女を見舞った。
妻は少女の名を繰り返し呼んでは泣いた。
何度も少女の髪を撫でた。
夫は、目をつぶって壁際に凝然と立っていた。
そして案内を請うと、両親の、ふたりにとっては
帰らぬ友人に面会すべく出発して行った。

ふたりとも、今夜はこの村で過ごすつもりでいた。

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