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173. Seitengrat/その夏と秋の間に③

ある夏の日のお話
(ほぼノンフィクション)です。
日記を小説風に書いています。

6. 余裕がでてきた

歩き始めてから少し経って、心に余裕がでてきた。景色が目に入り始める。なんて素晴らしいところなんだろう、そう思った。

彼からは「あの峠はつづら折りの道が続いていて、結構辛いと思うよ」と言われていた。「一人で来れるの?」何度も聞かれた。その度に「大丈夫!!!」と答えた。なんの根拠もないけど、彼の待つテントまでなら頑張って歩いていけるはずと信じていた。灯のソロ活動を心配してくれていた彼。まるで、はじめてのおつかいかのように、お父さんから心配されている娘のようだな、なんて思ったりして。それほどの峠なのか、と思ったら、少しビビっていた。

7. 獲得標高とコース定数

「獲得標高」とは、は「コース上の最高点ースタート地点の標高」を指す。
「コース定数」とはそのコースを歩いた時にどれだけのエネルギーを消費するかを表す数値のこと。

今回500m以下の上り、コース定数は10以下だったので、通常の荷物(26Lクラス)であれば、ホームマウンテンと同じくらいので難易度であったと思う。昨年デビューの登山初心者ではあるが難なく登れるはず。

ただ今回は別。この50Lの重くて大きなザックを背負っている。最近流行りのULとは程遠く、典型的な重たい荷物。

つ、つらい…。とにかく辛い。重い。肩が痛い。よろけそう。足が進まない。ふえ~ん。心の中ではわんわん泣いていた。

彼にはそんなこと絶対言わないと決めていた。強気な発言を繰り返した。だって心配されちゃうもん。

8. 無謀か挑戦か

このコースを一人で歩く、と決めた時、彼は止めるか止めないか、迷っていたと思う。登山が終わった後に彼が言っていたのは「これを無謀というのか、挑戦というのか…」なんてこと。

もしかしたら、彼はホームマウンテンでのあの日のことを思い出したかもしれない。

沢沿いを下りていた時のこと。橋を渡った時、立ち止まって2人で一言会話を交わした。彼は何故かトレッキングポールを手から離してしまった。トレッキングポールは橋の下の沢へコロコロと転げ落ちていった。

「あ!」二人は声をあげた。

灯はすぐ「ちょっと待って!取ってくる」と言うと驚いた彼を尻目に橋の下へと進んで行った。それほど遠くに落ちたわけではなかったので、彼のトレッキングポールはすぐに取れた。灯は元のところへそのまま戻るよりも、その先に進んだ方が道に戻れそうだと思い、沢を前進した後に元の道に戻った。

彼は「逞しくなったなぁ」と言った。その言葉はまるで成長した子どもに感心した親のようで、灯はちょっと可笑しくなって笑った。彼の子どもみたいで嬉しかった。

9. その木の実

小休憩を取った。立ち休憩。水分補給する。顔を上げて周囲を見ると赤い木の実がなっていた。写真を撮った。パチリ。後で調べようと思って。花よりも木の実のほうが興味あるし、好きだ。幼い頃は謎の木の実を食べたりしていたな。今考えると何かわからず食べるなんて怖い怖い。でも、一緒に公園で遊んでいた子から「これ、食べられるんだって」と教えてもらったりして、何も恐れずにその甘酸っぱいモノを楽しんでいたんだった。

オオカメノキ?

もう少し続きます。

(本文と楽曲は関係ありませんw)

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