黒田隆太朗

編集/ライター。平成元年生まれ。千葉県出身。2015年1月~2019年3月まで雑誌MUSICA勤務を経てフリーランスに。好きな作家は森博嗣。

黒田隆太朗

編集/ライター。平成元年生まれ。千葉県出身。2015年1月~2019年3月まで雑誌MUSICA勤務を経てフリーランスに。好きな作家は森博嗣。

最近の記事

2023年私的年間ベストアルバム

1位 Sigur Rós『ÁTTA』 人生は無常だ。きっと見つからないとわかっていながら、この酷い世界で生きていく理由を探している。前作『Kveikur』から実に10年ぶり、キャータン・スヴェインソン(Key)が復帰してから初のアルバムである。場所はアビー・ロード・スタジオ、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラを招いての素晴らしいレコーディングである。多くの曲がドラムレスに近い構成になっており、ストリングスとシンセサイザーが織り成す天上世界に、ヨンシーのエンジェル・ボイ

    • 藤原さくら『AIRPORT』

      脱力、ハミング、しみじみとしたヴォーカル。藤原さくらは地声に近い発声で、「ほんと、よくやってんなぁ」と歌っている。それはもう休日の朝にカーテンを開けて、紅茶を一口飲んだ後にため息を漏らすような呑気さで......と言ったらもちろん言い過ぎなのだが、しかし実際『AIRPORT』は、これまでのアルバムでは最もリラックスした風合いを感じる作品である。SNSを見ているだけでも、「話題を追う」というより「話題に追いかけ回されている」ような気にさせられるし、それでなくても、暗澹たる気持ち

      • mekakushe『あこがれ』

        “失くしたいから 愛したいから 人は旅にでるの” (ジオラマ) “転びそうになったのは宇宙に向かって背伸びをしたから” (COSMO) “あなたがドライヤーをしてくれる間に 戦争が起きた” (スイミー) mekakusheは素晴らしい音楽家であると同時に、魅力的な詩人でもある。彼女の言葉は物悲しいが純粋で、夜空を流れる星のように煌めき、それでいてドキリとさせられる鋭さがある。透明感のある声質は、聴いているだけでジュブナイル小説の物語が浮かんでくるようだ。浮かんできた言葉

        • 2022年私的年間ベストアルバム

          1位 寺尾紗穂『余白のメロディ』 寺尾紗穂が耳を傾けるのは小さな声、忘れられていく声、軽んじられる声。つまりこの社会の列からはみ出してしまった者たちの声である。彼女が福岡でライブを行った際に、共演者やお客さんから「今日のライヴには河童が来ている」と言われたことで生まれたという「歌の生まれる場所」。私は幽霊も妖怪も信じない人間であるが、しかし彼女のライブでこのエピソードを聞いた時には微笑ましい気持ちになった。寺尾紗穂は今もなお、そして恐らくこれからもずっと、“目には見えない者

          ギリシャラブ『魔・魔・魔・魔・魔』

          闇の儀式の詠唱かと思った。<魔魔魔魔魔〜>という男女混声コーラスから始まるこの音楽は、素晴らしいことに、そしてあるいは不気味なことに、これまで以上に“ダンス”の要素が際立っている。もちろん、歌われる歌詞はこれまで通り軽薄なまま。どうせ<ぼくらはただの物>なんだし、どの道<快楽だけが人生>なのだから、この空虚な一生を踊り明かそうじゃないか。心なんか悪魔に売っちゃってさ。というサジェッションが聴こえてくるようである。 『魔・魔・魔・魔・魔』はギリシャラブの4作目のアルバムで、3

          ギリシャラブ『魔・魔・魔・魔・魔』

          ドレスコーズ『戀愛大全』

          甘ったるくてイカサマくさい、寂しそうで人懐っこい、志磨遼平の不思議な声色が好きだ。声そのものに、ロマンチックな一瞬が内包されている...というのは錯覚であるが、恋はきっと気まぐれで自堕落なものだから。この声でなければ歌えないラブソングがある。ドレスコーズ8作目のアルバムにしてラブソング集『戀愛大全』は、そんな志磨遼平による面目躍如のアルバムである。 と書き出してみたものの、ちょっと寄り道をしていこうと思う。 日々取材をしていると、音楽家と話したことの中で長く心に残る言葉が

          ドレスコーズ『戀愛大全』