個人的クラシック遍歴 第3楽章「音楽が語る思い、ショスタコーヴィッチ」
クラシック歴約半年の私の個人的クラシック遍歴を語る大人気のこのコーナー。
さて第3楽章と題した今回は私をより深くクラシック世界に引きずり込んだ偉大な作曲家、ドミートリイ・ショスタコーヴィッチの登場です。
クラシックを何も知らない私がどういう経緯でショスタコーヴィッチと出会うのか。話は昨年の11月ごろに遡ります。
私は大学で開講されている「インプロ/吹奏楽ゼミ」に所属しています。弊学は理工系の大学ではありますが、人文学系ゼミの名の元に文系のゼミがいくつかあります。その中の一つがインプロ/吹奏楽ゼミです。
このゼミではインプロチームと吹奏楽チームに分かれて活動し、学期末にインプロと吹奏楽の合同コンサートを行います。
そのコンサートで吹奏楽チームが演奏する曲目の中にあったのがショスタコーヴィッチの「交響曲第5番 第4楽章」でした。
「ショ、ショス…ショスタコ……なんやて」
クラシック教養が皆無な私はこんな状態でした。ベートーヴェンやバッハやモーツァルトとかなら知ってますけど、失礼ながらショスタコーヴィッチのショの字も知りませんでした。
今思うとあの第4楽章をやるのは大変ですよね。
さて吹奏楽チームがショスタコーヴィッチの5番を扱うということで、吹奏楽チームではロシア・アヴァンギャルドに関する特別レクチャーが行われました。
この特別レクチャーはインプロチームも参加可能で、講師の方が去年1年間ロシア語を教わっていた先生ということ、ロシア語を2年間勉強してロシア文化に興味があったこともあり、その特別レクチャーを聴講しました。
そこで語られたのがショスタコーヴィッチの5番が誕生した経緯でした。
革命以後、様々な文化形態の中で広まっていたロシア・アヴァンギャルドの波。それは音楽界も例外ではなく、ショスタコーヴィッチもまさにその渦中にいました。
ところが、1936年。
党の機関紙「プラウダ」上で、ショスタコーヴィッチ作曲のオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」9が猛批判に晒されます。当時は粛清の波が広がっていた中でしたから、ショスタコーヴィッチの創作も慎重に行わなければならなくなります。
次に世に出すものが、党に認められるものでなければ作曲家としての自分の地位どころか命さえ危ぶまれるかもしれない。
そんな異常な緊張感の元、生み出されたのが「交響曲第5番 ニ短調 作品47」です。
この曲が国内で高く評価されたことからショスタコーヴィッチはその地位を回復させていきます。ショスタコーヴィッチにとってはまさに名誉挽回のための起死回生の1曲だっと言えるでしょう。
まさに体制に迎合しているかに見える曲ですが、実は細かいところを見ればショスタコーヴィッチが残した意地というか野心が見え隠れする。
私に音楽の専門的な知識はありませんが、創作者の端くれとして思うところはかなり多かった話でした。
ショスタコーヴィッチが何を思い、この曲を書いたのか。今となってはもう本人にそれを確かめる術はありません。
けれどショスタコーヴィッチは確かにこの曲に「何か」を託したのでしょう。それがなんなのかは分かりませんが、多くの指揮者や演奏家はそれを自分で汲み取って演奏として表現する。
それはあたかも脚本を読んで、それを解釈する演出家と役者の関係性に重なる部分があると個人的に思うのです。クラシック音楽に対してそんな見方をする日が来るとは思ってもいませんでした。
もちろんそれは第5番に限った話ではなく、他の曲だってそうでしょう。
しかしそんなことを考えさせてくれた、クラシックの聴き方に新しい視点をくれたこの曲は、私の好きなクラシック音楽ランキングでも2位にランクインします(1位は思い入れもありシューマンのピアノ協奏曲ですが…)。
GW半ばの5/3。
上野の東京文化会館に「N響 ゴールデンクラシック」のコンサートを聴きに行きました。
曲目は、
ハチャトゥリアン
「ヴァイオリン協奏曲 ニ短調」
と
ショスタコーヴィッチ
「交響曲第5番 ニ短調 作品47」でした。
まさにソビエト特集という感じですが。
第5番はいつも聴いている音源よりもテンポが早いように感じました。それぐらい勢いがすごかった。
ただ勢いがあるだけじゃなくて、オーケストラ全体が一つの命のようにうねっている。鳴り響くシンバルの音。
私がもしスターリンだったら。
これは認めざるを得ないでしょう。
そんな力を感じた曲でした。
クラシック音楽を生で聴いて魂が揺さぶられた感じがするのは初めての経験で、会場を出てもまだ少し手が震えていました。
ショスタコーヴィッチ。
この作曲家と出会ってしまったことで、私のクラシック遍歴はまた一つ進化してしまうのでした。
さて、次回はクソ長い!交響曲を聴いた時の話を。第4楽章へつづく
○今回登場した曲
ショスタコーヴィッチ
「交響曲第5番 ニ短調 作品47」
第1楽章 Moderato - Allegro non troppo
第2楽章 Allegretto
第3楽章 Largo
第4楽章 Allegeo non troppo
ショスタコーヴィッチの交響曲の中でも屈指の人気作品。日本語で「革命」という副題がついているが、作者自身がこういう表記をした訳ではないため、私自身そう呼ばないようにしている。