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第1回『スパークス・ブラザーズ』前編 童貞アーティスト山口明(童貞歴:61年8ヵ月)の『LIFE IS ART‼ 映画でアート思考をアップデート』

取材・構成◎ギンティ小林

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スパークスの兄弟は童貞かな?

山口:今回、紹介する作品は、ロン・メイル(キーボード)とラッセル・メイル(ボーカル)の兄弟によって1970年に結成され、もう52年も活動しているロック&ポップ・バンド、スパークスのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』。


――長い活動期間で、他のメンバーはチェンジするんですが、この兄弟はずっと一緒なんですよね。ちなみに兄のロン・メイルは1945年生まれの77歳でロッド・スチュワート、ボブ・マーリィ、タモリ、ニール・ヤングとタメ年。弟のラッセル・メイルは1948年生まれの73歳でサミュエル・L・ジャクソン、大瀧詠一、范文雀とタメです。

山口:兄弟2人とも今も現役感が凄いよな。それに2人ともエキセントリックじゃん。あのエキセントリックさって実は俺と同じで童貞なんじゃない?

――違うと思いますよ。でも、2人はプライベートの事を聞かれると「曖昧さはリアリティよりも面白い」という理由で、パートナーがいるかはコメントしてないんですよね。

山口:それ、童貞ってカムアウトしたくないだけじゃねえの?

――それも違うと思いますよ。

エキセントリックな兄弟 『スパークス・ブラザーズ』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

山口:(気にせずに)ま、映画には、スパークスの貴重なアーカイブ映像や関係者とバンドが影響を与えたアーティストたちのインタビュー映像が出るんだけど、出演者が豪華なんだよ! ベック、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、デュラン・デュラン、トッド・ラングレン、ニュー・オーダー、セックス・ピストルズのスティーブ・ジョーンズ、フランツ・フェルディナンドとか。

――「オースティン・パワーズ」シリーズに主演したマイク・マイヤーズも登場しましたよね。

山口:ミュージシャンだけでなくコメディアンにもファンが多いんだよね。この豪華な出演者だけでも映画を観る価値があるよ。80年代に人気があったデュラン・デュランのベース、ジョン・テイラーも出演してたじゃん。久しぶりに見たけど、今でもカッコいいんで驚きましたね~。

――スティーブ・ジョーンズがスパークスのファンだったのは意外でした。
山口:最近、日本でも出版されたスティーブ・ジョーンズの自伝『ロンリー・ボーイ ア・セックス・ピストル・ストーリー』でも、ピストルズ結成前からファンだったことを公言してたよ。映画は141分もあったけど長く感じなかったな。監督がエドガー・ライトなんだよね。最近だと『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年)がヒットした。

――1974年生まれのエドガー・ライトは5歳の時からのゴリゴリのスパークス・ファンなんですよね。

山口:だから、映画の作りも凝っていて「自分が好きなバンドの魅力を伝えたい」という気持で溢れていたね。インタビュー・シーンはモノクロのスタイリッシュな映像だし、ストレンジなアニメーションやカッコいいタイポグラフィを用いた映像がテンポ良く編集されていて秀逸だったよ! だから、スパークスの事は知らないけど、エドガー・ライトの映画が好きという方は、彼の新作としても純粋に楽しめますよ。ちなみに、エドガー・ライト監督といえば俺は『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)かな。大好きな『スーパーバッド童貞ウォーズ』(2007年)のマイケル・セラが主演してるんで(笑)。

私物のDVDを自慢する61歳の童貞アーティスト

――タイトルからしてグッチーさんの琴線をくすぐる作品ですよね。『スコット・ピルグリム』のほうはコミックが原作なんですよね。
山口:そうそう。原作者ブライアン・リー・オマリーは相原コージさんと竹熊健太郎さんの『サルでも描ける漫画教室』に影響されて本作を描いたんだよね。
 

メイル兄弟とエドガー・ライト(中央) 『スパークス・ブラザーズ』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

スパークスの変化が早すぎて、ついていけなかった……

山口:俺、正直に話すけどスパークスってバンドの存在は知っていたけど、ちゃんとアルバムを買って聴いたことがなかったんだよ。

――「存在は知ってるけど、触れたことはない」って、グッチーさんにとっては女性と同じぐらい縁がなかったって事ですか?

山口:(余裕の笑みを浮かべながら)童貞に関しては「ヤレねえんじゃなくて、ヤラない」ってことだから。

――失礼しました! 実はグッチーさん、高校時代は隣の高校にファンクラブができるほどモテていたんですよね。

山口:(ためらうことなく)そうだよ。

山口明18歳、奇跡の美少年時代

 
――そして現在もグッチーさんの周りには常に女性がいますからね。日々、娘ぐらい若い知り合いたちとカフェでのトークを楽しんでいるんですよね。

山口:だから、キャバクラに行くおっさんがいるじゃん。あれ理解できないのよ。「たまには若い女性と話がしたいから」って理由で行くおっさんがいるけど、それなら知り合いの女の子と話すればいいじゃん!(と力強く言った直後、テーブルのグラスを倒し、コーラをぶちまけてしまう)

――あっ!

山口:あああああっ! やばいな……!(と必死におしぼりでテーブル拭いたのでした)

必死にテーブルを拭く元美少年



山口:話を戻すと、俺が61年の人生の中でスパークスを一度も聴くことがなかった、という事が、この映画を観て逆に納得できたんだよね。

――どういう事ですか?

山口:スパークスって常に作風が変化してるんで、掴みどころがなさ過ぎたんだよ。今回の50年の歴史を総括したドキュメンタリー映画で、常にアップデートしていった音楽人生として観れたら面白いけど、リアルタイムではそんなにめまぐるしく変化されたらついていけないのよ……。

――ジャンルが常に変化するから、どこのコーナーに置いていいかわからないレコード屋もあった、と言いますよね。

山口:そうなんだよ! スパークスがアルバム『Kimono My House(邦題:キモノ・マイ・ハウス)』を出して最初にブレイクした1974年って俺は14歳だったのよ。その時はグラムロックのバンドでさ。


それが翌年に出したアルバム『Indiscreet (邦題:スパーク・ショー)』では、クラシカルなビッグバンドのサウンドになって。そうかと思うと1979年に出したアルバム『No. 1 In Heaven (邦題:No.1イン・ヘブン』 じゃ早すぎたニューウェーブ風のエレクトロ・ポップになるから「何なんだ、こいつら?」と思うじゃない。そもそも俺はファッションとかキャラクターとか芸風がコロコロ変わる人って信用してないのよ!

――生まれてからずっと童貞を貫くグッチーさんに言われると重みが違いますね……。

山口:あと、スパークスを最初に認識した時の10代の俺は、こういうスノッブな音楽を楽しめるほど、自分自身のセンスが成熟してなかったんだよねぇ……。そんなわけでスパークスにほぼ興味がなかったのに、映画は141分もあるから途中眠くなるんじゃないか、と心配してたんだけど、楽しめる作品に仕上がってたな。

――僕もスパークスを知らなかったけど楽しめましたよ。

山口:そうなんだよ! この映画を観てスパークスのファンになったけど、CDがあまり売ってないんだよね……。ベスト盤とかはあるんだけど、『Kimono My House』や『No. 1 In Heaven 』が欲しいんだけどね。
 

映画では語られなかった幻のハリウッド映画『舞』のその後


――スパークスは52年の活動の中で何度か映画に進出してるんですよね。
山口:最初は1974年にフランスの映画監督ジャック・タチと映画を作ろうとしたけど、企画段階で中止になってしまったんだよね。その次は、1990年頃から工藤かずや原作・池上遼一画の『舞』(1985~86年)をミュージカル映画にしようとしたんだよな。

工藤かずや原作・池上遼一画『舞』

――『週刊少年サンデー』に連載されていた、超能力少女を主人公にした作品ですよね。

山口:監督はティム・バートンがやる予定だったんだよね。兄弟が『舞』を映画化しようとしていた頃、俺は仕事で『週刊少年サンデー』を出してる小学館に出入りしていたのよ。だから「ハリウッドでティム・バートン監督が『舞』を映画にする」って話は聞いてたよ。ティム・バートンも池上遼一さんも好きだったから楽しみにしていたんだけど、いつになっても映画にならなくて。どうしたのかな……と思ったら立ち消えていたんだね。

――1992年から撮影予定だったんですが、ティム・バートンが降板しちゃって。『スパークス・ブラザーズ』では描かれませんが、その後もしばらく『舞』の企画は動いていたんですよ。それで、香港の映画監督&プロデューサーのツイ・ハークが監督しようとした時期もあったようですよ。

山口:俺が大好きだった『ドリフト』(2000年)の監督じゃないですか(笑)。


――スパークスの2人もツイ・ハーク作品のファンで、1994年のアルバム『Gratuitous Sax & Senseless Violins(邦題:官能の饗宴)』の中で「Tsui Hark(邦題:ツイ・ハークは映画監督)」ってタイトルの曲を作ってるんですよ。

山口:ちゃんとツイ・ハークの事を唄ってるの?

――やってますよ。「I'm Tsui Hark(私はツイ・ハーク) I'm a film director(私は映画監督)」って歌詞からはじまって、「私の最初の映画は『蝶変』(1979年)」とか『上海ブルース』(1984年)、『北京オペラブルース』(1986年)、『スウォーズマン/剣士列伝』(1990年)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』(1991年)などのツイ・ハークが香港で撮った作品タイトルを次々と唄うんですよ(笑)。

山口:マニアックな歌詞だね~! その後、スパークスはツイ・ハーク監督作の音楽やるでしょ?

――ツイ・ハーク監督、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作『ノック・オフ』(1998年)のテーマ曲「Its a Knock-Off」を担当するんですよね。

山口:スパークスとヴァン・ダム映画って相性が悪そうだけどな。

――でも、サスペンス風味のあるカッコいい曲に仕上がってましたよ。


――スパークスが『舞』をミュージカル映画化しようとした90年代って、日本の漫画がハリウッドで映画化されるなんて夢のような時期でしたよね。

山口:でもね、その頃にいろんな出版社に出入りしていたけど、『舞』以外にも日本の漫画をハリウッドが映画化しようとした話ってけっこうあったんだよね。

――そうなんですか!

山口:作品名は言えないけど、有名な漫画がかなり動いていたよ。映画ファンが知っている話だと、スパークスが好きなツイ・ハークが監督で『ルパン三世』をハリウッドで映画化する話もあったよね。

――ジム・キャリーがルパン役で、アーマンド・アサンテが銭形警部を演る、ってやつですよね。ツイ・ハークはほかにも『鉄人28号』をハリウッドで実写映画化する企画もあった時の監督候補にもなってましたよ。

山口:でも、日本で映画化やテレビドラマにするのと違って、契約がややこしいんで、「映画化するのは無理じゃないの」って話も聞いたな。契約書がものすごい分厚いんで、弁護士をハリウッドに送り込まないと把握しきれない、って。

――90年代には『北斗の拳』(1995年)や『クライング・フリーマン』(1996年)がハリウッドで映画化されましたが、製作は日本の映画会社でしたからね。

山口:『スパークス・ブラザーズ』で、弟ラッセルの自宅兼スタジオの映像が流れた時、パソコンモニターの横に『舞』のイラストが額に入れて飾ってあったね。あれを観た時、「まだ好きなんだな」ってしんみりしましたよ……。(次回『スパークス・ブラザーズ』後編に続く)


『スパークス・ブラザーズ』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『スパークス・ブラザーズ』
監督:エドガー・ライト
出演:スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライトほか
製作年:2021年
2022年4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国公開
公式サイト:universalpictures.jp



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